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105. 販売を終えて

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 結果から言うと、用意したパン100個は、アカデミーの学生たち相手に綺麗に完売したのだった。

「ほら、ご覧なさい。私の戦略が当たったでしょう?」

 全てのパンが売れて、すっきりとしたテーブルを前にして、フィオネは勝ち誇ったように、ジェラミーとティルミオに言い放った。

「戦略って……あのキャラクター設定の事か?」
「そうですわ!愛想の良い男の子と、無愛想で無口な男の子。女性徒のツボは押さえましたわ!!私の考えが良かったんですわ!」

 そんなフィオネの発言に、ティルミオとジェラミーはお互いに顔を見合わせて苦笑いをした。
 自分たちが、フィオネの望むような演技をしたとは思えなかったのだ。

 確かに、ティルミオは元から調子が良いのでごく普通に愛想は良く振る舞ってはいたが、女生徒を呼べる程の魅力があったかは甚だ疑問であったし、ジェラミーに至っては、フィオネが直前で提示した、寡黙でミステリアスとは程遠い、素の状態で接客してたのだ。

 けれども、完売を素直に喜んでいるフィオネに水を差すのも悪いと思って、二人は細かい事は言うのは止めて、フィオネの話に合わせた。

「まぁ、オレたちがどれだけ役に立ったかは分からないけどな。普通に、パンが美味しいから売れたんじゃないのか?」

 売り子の効果がどれほどあったのかは分からないが、ティナのパンは味も見た目も匂いも最高なので、ジェラミーはパン自身の魅力が集客に繋がったんだと話した。

 するとフィオネは、ジェラミーの言葉に強く頷くと、その意見に同意した。

「それは勿論そうですけど、でもまぁ、貴方たちも多少は貢献しているはずですわ。つまらぬ者でも見た目を着飾れば魅力的に見えるって言うでしょう?物珍しさが人目を集めたんですわ。」
「なんか……流れ的にオレたちは褒められるはずなのに、全然褒められてる気がしねぇ……」
「えぇ。褒めては居ませんわ。」
「なんでだよ褒めろよ!ってか、ちゃんと完売させたんだぞ?!もっと労えよ!!」
「そうですわね。良くやりましたわ。」
「すげぇ事務的!!」

 すました顔で、上から目線で受け応えるフィオネに対して、ジェラミーは諦めたように肩をすくめた。この短期間で、ジェラミーも大分フィオネの事が分かってきたのだ。

 なのでジェラミーは、フィオネとのやりとりを尻目に一人黙々と撤収作業を進めていたティルミオの側に寄ると、コッソリとティルミオに耳打ちをしたのだった。

「……なぁ、ティルミオ。」
「どうした?ジェラミー。」
「悲しい事にさ、オレ、段々あの子に慣れてきた……」

 認めたくは無かったが、段々とフィオネがどんな思考でどんな事を言うのかが、分かってきた為、彼女の傲慢とも言える振る舞いを受け流せる様になったのだ。

「だろ?癖が強いけど悪い子じゃないからな。」
「うう……。けど、釈然としねぇ……」

 慣れてきたとはいえ、やはりぞんざいに扱われる事には納得がいかないので、ジェラミーは複雑な心境でボヤきながら、片付けに勤しむティルミオを手伝い始めた。

 そんな風に、与太話をしながらティルミオとジェラミーが片付け作業をしていると、一人の女の子が近寄って来て、おずおずと話しかけてきたのだった。

「あのう……」
「ん?どうしたの?」

 作業の手を止めて、ティルミオはアカデミーの生徒である女の子と向き合った。十歳くらいの女の子の目線に合わせるように、中腰になってティルミオは女の子が何か言うのを待った。
 すると女の子は、少しもじもじしながらティルミオに、ある事を訊ねた。

「あの……赤毛のお兄ちゃんは、広場の大通りのパン屋さんだよね?」
「あぁ。そうだよ。」

 ティルミオがニッコリと笑いながらそう答えると、少女は顔をパァっと明るくして少しばかり興奮気味に、話し始めた。

「あのね、私このパンすごく好きなの!とっても美味しいよ!!アカデミーでも買えるの嬉しい!これからは毎日買うね!」

 さっきまでのモジモジしてた様子から一転して、女の子は目を輝かせて、大きな声で早口で、自分がいかにこのパンが大好きかを語った。

 思わぬところで熱心なファンと遭遇して、ティルミオは驚くとともに、胸の中がじんわりと温かくなって顔を綻ばせた。
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