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103. ジェラミーとフィオネ

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「……オレ、怪我人なんだけど、人使い荒いな?!」

 そんな不満を口にしながら、ジェラミーは荷車を押しながら後ろを歩くフィオネの指示の元アカデミーに向かっていた。

「なんですか、これくらいで音を上げるなんて軟弱ですわね。」
「オレ、肋骨折れてるんだけど?!」
「カーステン兄妹の為なら何でもするって言ったのは貴方でしょう?」
「そこまでは言ってないけど?!!」
「どちらでも良いですわ。しっかり運びなさい!」
「そりゃ、ティルミオたちの為なら手を貸すけどさ、……なんか納得いかねえ……」

 真顔で捏造の記憶を話すフィオネに、ジェラミーは都度突っ込みを入れたが、どうにもフィオネには響かないみたいで、ジェラミーは深いため息を吐きながらそんな愚痴をこぼした。

 すると荷車を引っ張っているティルミオが、ジェラミーを宥めるように声をかけたのだった。

「まぁまぁ、ジェラミー落ち着いて。フィオネはこういう子だから。真に受けないで話を合わせるのが賢明なんだよ。」

 フィオネと付き合いの長いティルミオは、フィオン程では無いが、フィオネの扱いに慣れている為、彼女の言うことは適当にあしらうのが一番だとジェラミーに助言した。

「そういうもんなのかな……」

 そんなティルミオの助言を聞いて、なんとも釈然としないといった顔でジェラミーは零した。

 すると、すかさずフィオネはピシャリとジェラミーに言ったのだった。

「貴方無駄口が多いですわよ。」

 この一言で、ジェラミーは察した。

 薄々前からそうではないかと思っていたが、今、やっぱりそうだとはっきりと自覚したのだ。

「なぁティルミオ、この子オレに当たり強くないか?!」
「大丈夫だジェラミー。俺にも当たりが強いから。お前だけじゃない。」
「何が大丈夫なんだ?!」
「ジェラミーが嫌われてるって訳じゃ無いから。気にするな。」

 ジェラミーは自分がフィオネにぞんざいに扱われてるのでは無いかと、ティルミオに確認したのだが、しかし、返ってきた言葉は斜め上の回答であった。
 
 確かにティルミオに対してもこの子は当たりが強かったような気がするなと、ジェラミーは昨日からのやり取りを思い返したが、しかしだからと言ってほぼ初対面なのにこのような扱いは不当である事に変わりなく、今一度抗議をしようと口を開こうとした。
 けれども、ジェラミーのそんな抗議の声が発せられる前に、またしても後ろから、フィオネが容赦なく二人を叱責したのだった。

「貴方たちさっきから五月蝿いですわよ。もっと真面目にやってくれます?」
「十分真面目にやってるだろ?!」

 長年の付き合いで慣れているティルミオと違い、ジェラミーはいちいちフィオネの言葉に反論した。
 フィオネに悪意こそ無いものの、その棘のある態度は、やはりどうしても気に入らなかったのだ。

 けれども、ジェラミーのそんな抗議の声にもフィオネは耳を貸さずに、彼女の態度は相変わらずであった。

「全く。男のくせにお喋りですわね。」
「言うほどオレ喋ってるか?!」
「私、貴方と仲良くお話しする気ありませんの。」
「それじゃあなんで、オレに手伝いを指名したんだよ!」
「商売人たる者、使えるものは何でも使うのは当然ですわ!」

 そもそも、何故この三人が一緒に居るのかというと、アカデミーにパンを100個納品する為の荷物運びにフィオネがティルミオとジェラミーを指名したからだ。

 フィオネが大好きなティナではなく、なぜこの二人を手伝いに選んだのかというと、男手二人に重い荷物を運んで貰いたいというのは勿論あったが、もう一つ、商売人として、彼女の戦略があったのだ。

 しかし、その戦略とやらを聞かされていないジェラミーは、ただただ、変な女に振り回されているとしか思えなかった。
 だからジェラミーは不満そうな顔で、前を行くティルミオに再び声をかけたのだった。

「おい、ティルミオ。本当にこんなのに慣れているのか?」
「あぁ。ジェラミーもそのうち慣れるさ。悪い子じゃないから。ただちょっと面倒なだけで。」
「ちょっと……?かなり面倒だろ?!」
「貴方たち、口を慎みなさい!!」

 そんなやり取りをしながら道中賑やかに荷馬車を引いた事で、謀らずともパンの屋台は道行く人々の関心を集めていたのだが、その事には誰も気付いていないのであった。

 そうして、そうこうしているうちに三人は、アカデミーに到着したのだった。


——

##仕事が変わったので、ゆっくりとですが、続き書いていきます
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