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97. 作戦会議

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「ただいま!!」

 ティルミオは一日ぶりの我が家のドアを満面の笑みで力一杯押し開いた。

 心配して待っているだろうティティルナが自分の帰還をきっと喜んでくれると思って、ティルミオはそわそわしながらドアを開けた。

 しかし家の中の様子は、ティルミオが思っていたのとは随分と異なっていたのだった。

 そこにはティティルナとジェラミーと、そして何故かフィオンが、深刻な顔で頭を抱えていたのだ。

「あっ……お兄ちゃんお帰りなさい。良かった、魔物倒せたんだね。」
「あ……あぁ、お陰様で。マナポーション有難うな。」
「当たり前にゃ!我が手伝ったんだから当然にゃ!!」
「うん、良かった。」

 ティルミオの帰還にホッとしたような表情を見せるも、ティティルナはやはり元気が無かった。
 ミッケが胸を張って自分の功績を誇ってみせても、予想に反してティティルナの反応はどこかぎこちないのだ。

「なんだよ、みんなで暗い顔して。俺が無事に帰って来れた事、嬉しくないのか?」
「それは、勿論嬉しいよ……でもね……」

 妹達の態度を不思議に思って、ティルミオが問いかけると、ティティルナは顔を曇らせて言い淀んでしまった。
 
 ティティルナは、お店のピンチをティルミオにどのように伝えるのが良いか、上手く考えがまとまっておらず、咄嗟に言葉が出てこなかったのだ。

 するとそんな彼女の代わりに、ジェラミーがスッパリと言葉を続けたのだった。

「ティルミオ、お前店の前を見たか?」
「えっ?見たとは思うけど、何かあったか?」

 確かに店の向かい側に何やら人集りが出来ていた様な気がしたが、早く家に帰りたかったティルミオは特に気に留めていなかった。

 しかし、その人集りこそが店の空気が重い原因だったのだ。

「店の前に、アーヴァイン商会が屋台を出店したのよ……ちゃんと正規の手続きを取って……」
「そう、しかも開店記念とか言って、凄い安い値段でパンを売りやがってるんだ。」
「にゃんだそれ?!嫌がらせが過ぎるにゃ!!」

 ティティルナ達からの報告に、ミッケは全身の毛を逆立たせて

「本当にそうなんだよな……どうしてそこまでして、このお店を潰そうとするのか……」

 するとここまで黙って話を聞いていたフィオンが、物凄く困惑した表情で頭を抱えながら、徐に手を上げて話を遮った。

「……待って、君たち普通に会話してるけど、僕の聞き間違えじゃなかったらさ、その猫……喋ったよね?」

 そう、先ほどから普通に会話に混ざっていたが、フィオンはまだ、ミッケが喋る事を知らなかったのだ。
 それなのに皆何事もなかったかのように普通に会話を続けてることが、フィオンには信じられなかった。

「えーっと、そうだね、喋るね?」
「うん、そうだな。喋るな。何だ、知らなかったのか?」

 あれだけミッケの事を受け入れられなかったジェラミーでさえ、もうすっかりそれが当たり前のこととして受け入れて馴染んでいるので、フィオンは一瞬感覚がおかしいのは自分の方かと思いかけたが、直ぐにそれが異常であると思い直した。

「待ってくれ、そんな、猫が喋るのが当たり前の様に話を進めないでくれ……」

 そう言ってフィオンは一人この状況についていけずに困惑していると、ティルミオが、ポンとフィオンの肩を叩いて、可哀想な人を見るような目を向けたのだった。

「フィオン、気持ちは分かるよ。でもな、……気にしてたら話が進まないから、取り敢えず受け入れてくれ。」

 それは身も蓋も無かったが、その通りであった。
 なにせここにいる人物は誰一人、ミッケが何なのかをちゃんと分かっていない。それについて考えるのを放棄しているのだ。

「フィオンさん、ミッケは喋るけど、今それは重要じゃないよね?」
「確かにそうだけど……」
「まぁ、気持ちは分かるよ?オレだって似たような反応したもん。でもな、直ぐに慣れるぞ。」

 ティルミオだけでなく、ティティルナやジェラミーからも宥められてしまっては、フィオンも空気を読んで受け入れるしかなかった。

「……分かったよ。職業柄見て見ぬ振りは得意だからね……スルーするよ……」

 フィオンは、そう言って複雑そうな顔で溜息を吐くと、改めてミッケをじっと眺めた。

「……ねぇ、この猫、喋る猫なんて珍しいんだから上手く活用するべきだよ。例えば、見せ物にしたら大繁盛じゃないかな?」

 フィオンは、マジマジとミッケを見つめると、そんな事を口にした。

「オレもそう思った。」
「あ、俺も。」「私も。」

 それはここに居る誰もが一度は考えた事であったので、皆がその考えに賛同すると、一同はジッとミッケを見つめたのだった。

「にゃ……にゃんだ?!そんな目で見ても、我は見せ物にはならにゃいぞ?!」

 自分に向けられる何かを期待するような一同の目線に、溜まったもんじゃないとミッケは毛を逆立てて抗議の意を示した。
 すると、ティルミオは、苦笑しながらミッケを撫でて宥めたのだった。

「分かってるよ。ミッケが嫌がってるのは知ってるから。」

 ここに居る皆はミッケの意思を尊重していた。だから無理矢理見せ物にするという考えは誰も持っていなかったので、ミッケの機嫌を宥めると、直ぐに現実的な話し合いに戻った。

「まぁ僕はその猫については物凄く腑に落ちてないけど、でも今は取り敢えず目先の事を考えようか。」
「そうだな。なぁティナ、お客さんどれくらい向こうに取られてるんだ?」
「半分くらい……かな。でもただでさえ、変な噂のせいで客足が落ちていたから、売り上げはいつもの三割ってところなの。」
「そっか……結構不味いな……」

 ティルミオは、今手元に残っているお金と、税金支払日までの残りの日数を考えて渋い顔をした。

「ジェラミーの怪我が良くなるまでギルドの仕事は制限する必要があるから収入が減るし、それに頼りにしてた女王アリの宝玉も、色々あって思ってた額の半額しか貰えなかったんだ。」
「そうなのか。オレが見た感じ綺麗に見えたけど、傷でも付いてたか?」
「う……うん。まぁ、そんなところ。」

 宝玉の報酬が減ったのは、完全にティルミオの所為であったが、その事は怒られるだろうから黙っていた。

「うーん。それならやはりこのお店の客足をこちらに取り戻す事と、売上を伸ばす事。これを本腰入れて考えないといけないね。」

 ティルミオの話を聞いて、この中で一番、商売に精通しているフィオンは難しい顔をして考え始めた。

 すると、その時だった。

「ティナ!話は聞きましてよ!!」

 フィオネが勢いよく店に入って来たのだった。
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