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89. 尋問

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(……一体どうしてこうなった。)

 拘束されている部屋の中で、ティルミオは一人、溜息を吐きながら自問を繰り返していた。

 今、彼はある疑いをかけられて身柄を拘束されているのだ。とある高級な魔物素材を盗んだ疑いを。

 それは、遡る事半日前、ジェラミーからの女王アリの宝玉が高値で引き取って貰えると教えて貰って、意気揚々とギルドに監禁に行った時だった。

 受付に宝玉を渡して、査定を待っていたのだが、何やら普段とは様子がおかしい。
 何かあったのかとは思ったが、自分には関係のない事だと思って、特に気に留めずに、ティルミオはそのまま自分の換金が終わるのを待っていたら、ギルドの奥から出てきた屈強な男たちに周囲を取り囲まれて、そして有無を言わさずこの部屋に連れて来られてしまったのだった。

 こんな高ランクな魔物の素材を、低ランクのティルミオが自力で入手できる筈が無いと疑われたのだ。

(……こんな事になるなんて、思ってもみなかった……。くそっ、俺はどうしたら良いんだ?!)

 部屋に連れて来られてから一刻以上が立っていた。

 帰りたかったけど、部屋の外には見張りが居るし、部屋に居るようにと強く言われては、大人しくしているしか無かった。

 だって、もしここでゴネて無理にでも帰ろうとしたら、きっとその時は問答無用で牢に入れられる。それ位は想像出来たから。

(……にしても、余りにも長い時間放置し過ぎだろう?!もしかして俺、忘れられて無いか?!)

 そんな事を思ったその時だった。

「やぁ、ティルミオ君。少しは反省したかい?」

 不意に扉が開かれて、そう言いながら一人の騎士が部屋に入って来たのだ。

 急な登場に驚きながらも、ティルミオは謂れのない事はキッチリと反論をした。

「反省も何も、俺は悪いことなんて何もしていないんだってば!!」
「そうは言ってもね、ギルドはあの魔物を君が倒せたとは到底思えないんだって。だから私をここに寄越したんだ。」
「貴方を寄越したって……貴方は誰なんですか?」
「ディラン・オーウェイン。まぁ、見ての通り騎士だ。」

 そう言って騎士はティルミオの前に腰を下ろした。

 丁寧に名乗ったディランは悪い人には見えなかったが、けれども、何故騎士が自分の所にやって来たのか全く話が見えず、ティルミオの混乱は増すばかりであった。

 そんなティルミオの戸惑いなど構わずに、ディランは聞き取りを始めた。

「それで、君が本当にA級モンスターである女王アリを倒したのかい?」
「そうだよ!本当に俺が倒したんだよ!!」
「ほう……どうやって?」
「それは……ま、魔法で!!」

 するとディランは少しだけ眉を動かして、驚いた様子をみせた。

「……君は魔法を使えると言うのか?」
「使える!そう、使えたんだ!!」

 ディランの反応から、ここが誤解を解くチャンスだと察して、ティルミオは必死に頷いた。

 使ったのはあの時一回だけど、頭の中に浮かんだ呪文はミッケからの贈り物なので、自分の身に習得されてる筈だからと、ティルミオは自分は魔法が使える事を精一杯訴えた。

 すると読み通り、ディランはティルミオのその主張に関心を示したのだった。

「魔法が使えるのなら、確かにあの魔物を倒せなくも無いが……それが本当なら、今ここで、その魔法を使って見せてみなさい。」
「や……やります!」

 ここで実際に魔法を使っている所をみせたら疑いが晴れる。
 そうと分かってティルミオは自分の両手をじっと見つめて集中した。
 それからその手を前に突き出すと、あの時と同じ呪文を唱えた。

武具錬金アーマメルケム!!」

 あの時と同じならば、床から槍が突き出してくる筈だった。

 しかし、何も起こらなかった。

「……何の茶番だ?」
「違っ、本当に本当に魔法使えたんだってば!!」

 ディランに冷たい目を向けられて、ティルミオは慌ててもう一度呪文を唱えた。けれども、やはり何も起こらなかった。

「た……多分あれだ!俺の魔法はピンチの時にしか使えないんだ!」

 苦し紛れにそう言って見たものの、ディランは全く信じていないという顔をしていた。

「……まぁ、良いでしょう。そこまで言うのなら、もっとシンプルな方法で確認しようじゃないか。」
「シンプルな方法って……?」

 ティルミオは不安げに聞き返した。自分の疑いが晴れるのであれば何でもするつもりではあったが、無理難題を言われそうな嫌な予感がしたのだ。

 そしてその予感は的中するのであった。

「簡単だ。私の目の前で、A級モンスターを倒せば良い。たったそれだけだ。」

 それは最も単純で明快な証明の方法だった。
 けれどもティルミオは、その提案に動揺を隠せなかった。

「俺一人で?!」
「そうだ。そもそもその為にA級モンスターの討伐に立ち会える実力がある私が呼ばれたんだからな。」
「無理だよ!!あの時は敵の意識が全部地面に倒れていた俺の仲間に集中してて、隙だらけだったから出来たんであって、一人じゃ絶対に無理!!他の方法で俺の無実を納得してくれないか?!」

 そう。確かに女王アリはティルミオが倒したが、あの時はモンスターの注意が全部ジェラミーに向いていたから魔法を打ち込めたのであって、普通に一対一で対峙したらひとたまりもない事位は自覚していた。

 だからティルミオは、一人じゃ無理と必死に訴えたのだが、けれども、ディランはそんなティルミオの訴えを無慈悲にも切り捨てたのだった。

「そうか。コレが無理だと言うのなら何もせずに君は大人しく牢に入るんだな。」
「そんな……」

 ディランの提示した二択にティルミオは絶望した。そんなのどちらも無理に決まっているのだ。

ティルミオは暗い顔で俯いて黙ってしまった。

「……まぁ、一晩ここで考えるんだな。明日迎えに来る。」

 ディランは、分かりやすく絶望しているティルミオに、少しだけ気を遣ってそう言葉を投げ掛けると、そのまま立ち上がって部屋を後にした。

 一人取り残されたティルミオは、魔物と一人で戦うか、牢に入るか、この絶望的な二択に頭を抱えるしか無かった。
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