三毛猫ミッケの贈り物〜借金返済の為に兄妹で錬金術始めました〜

石月 和花

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86. ナイスタイミング

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「にゃんと!ニンゲンはガメツイにゃ!!どれだけ金をとれば気が済むにゃ?!」
「まぁ、これは人間社会の秩序を守る為のルールだからな。」

 マナポーションを作るために必要なルナストーンを採掘するのにもお金がかかる。その事実を知って、ミッケは毛を逆立てる程憤っていた。

 それとは正反対に、ティティルナはこれ以上まだお金が必要な事にショックを受けたが、けれども冷静に、後いくら必要なのかを確認した。

「それでジェラミーさん、マナポーションを二個作るのに必要なルナストーンを持ち出すには、いくら必要なの?」
「確か、二万ゼラムだな。」
「そんな……一万ゼラムなら、かき集めればなんとかなるけど……」

 ジェラミーから告げられた金額に、ティティルナの顔は沈んでしまった。後一万ゼラムは、捻り出そうとしても直ぐには用意できそうにないのだ。

「仕方ない。ちょっと心許ないけど、とりあえず後一個作ることを目標にしよう。」
「うん、そうだね……」

 出来るならばティルミオには十分な数のマナポーションを届けたかったので、ティティルナは後ろ髪を引かれる思いだったが、しかし、無い袖は振れなかった。

 なので、諦めて後一つマナポーションを作ることに気持ちを切り替えようとしたその時だった。

「なんだ、居るじゃないか。店に誰も出てないで裏に篭って。どうしたんだい?」

 フィオンが、ひょっこりと店に顔を出したのだった。

「何かあったのかい?そんな難しい顔をして。」
「フィオンさんこそ、どうしたんですか?」

 今までフィオンが店の営業時間中に顔を出すのは、何か用事がある時だけだった。
 だからまた何か良く無い事があったのかと思って、ティティルナは少し緊張気味に来訪の理由を訊ねたが、しかし、どうやら今日は違ったようだった。

「昨日の今日だからね、お店大丈夫かなって思ってね。」
「あっ……有難うございます。」

 フィオンは、純粋にカーステン商店が心配で、様子見に来たのだ。

 客がいない店内を見回して、陳列されたまま売れ残ってるパンを見ると、フィオンは眉間に皺を寄せて、状況を察した。

「やはり売れ行きは悪いみたいだね。」
「うん……」

 ティルミオの件でバタバタしていて気にする余裕が無かったが、相変わらず客足は悪いままで、お昼の時間を過ぎたというのにパンはまだ大量に売れ残っていたのだ。

 ティティルナがその問題の事も思い出してしょんぼりと答えると、するとフィオンはニッコリと笑って、取引を持ちかけたのだった。
 
「だからそう思って、ティティルナにいつかの注文をお願いしにきたよ。」
「いつかの注文?」

 心当たりが無くてティティルナが首を傾げていると、フィオンはニッコリと笑って話の続きを口にした。

「そう。上質な紙の束を納品してもらえないかな。十日に一回って約束だったけど、早めた方が良いかなって思って。」
「あっ!!」

 それは、転売騒動の時にフィオンが持ちかけてくれた約束だった。
 ルナストーンを採掘して持ち出すのに必要なお金が足りないティティルナにとって、まさに天の助けであった。

「勿論です!フィオンさん有難う!今作ってくる!!待ってて!」
「えっ、あぁ、うん。ティナ、それで枚数は……」

 ティティルナはこの持ちかけに顔をパァっと明るくすると、この好機を逃すまいという気迫で、フィオンが詳細を言い終わるより前に急いで裏に引っ込んでいった。
 そして貯めてあった古紙をすぐさま錬金をすると、光の速さで戻って来たのだった。

「はい、フィオンさん。用意できたよ。上質な白紙、一万ゼラム分!」
「ティナ、まだ僕はちゃんと必要枚数を伝えていない……」
「足りなかった?でもごめんなさい。今はこれしか作れないの。」
「いや、足りないんじゃなくて、予定より多いというか……」
「良かった。多い分には困らないよね!」
「……分かったよ。何か事情があるのだろう?」
「そうなの、有難うフィオンさん!!とても助かったよ!」

 こうしてティティルナは、フィオンを押し切る形で、無事に一万ゼラムを手に入れたのだった。
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