三毛猫ミッケの贈り物〜借金返済の為に兄妹で錬金術始めました〜

石月 和花

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72. 脱出

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「見ろ、ジェラミー。光が見えたぞ。」

 ダンジョンの最深部から、ティルミオはジェラミーを背負って、安全且つ最短ルートを通って、洞窟の入り口付近まで戻って来ていた。

「一時はどうなるかと思ったけど、これで一安心だな。本当に、ティルミオのお陰だよ。お前凄いよ、良く道が分かるよな。」
「まぁね。それが俺の取り柄だからね。」

 もはや取り柄などと言う一言では片付けられない位の活躍であったが、目と勘が良いという事にしてあるので、ティルミオは曖昧に話を合わせて答えた。

「なるほど……取り柄、ね。」
「そそ、取り柄。」

 背中で意味深にジェラミーは呟いたが、それ以上は何も言わなかったので、ティルミオは誤魔化すように相槌を打って、この話題は終わりになった。

 何故なら、二人は遂に洞窟の出口に到達したのだ。

「やった!外だ!!」
「はぁ、はぁ……やっと出られた……」

 二人は外の光を浴びると、二人は顔を見合わせてお互いに胸を撫で下ろした。
 すると、安堵からか一気に疲労感が増してきて、二人とも思わず洞窟入り口の地面に横たわったのだった。

「君たち大丈夫か?ボロボロじゃないか!」
「……何とか大丈夫です。」

 入り口に立っていた兵士の一人が、そんな二人の様子を見かねて、気遣う様に声をかけてきた。

 なにせ、慣れない戦闘に加えてダンジョンの最深部からここまでジェラミーを背負って来たティルミオは、見るからに疲労困憊でグッタリしているし、ジェラミーも身に付けている防具は蟻に齧られてボロボロだし、彼自身が全身に齧られた跡があって、二人の状態が酷いのは、それはもう一目瞭然だったのだ。

「見ての通りのザマだからさ、早く街に帰りたいんだ。荷物検査をとっととやってくれないか?」
「あ……あぁ、分かった。それじゃあ、あのパーティの次に……」

 そう言って兵士が指差した方に目を向けると、そこでは先着のパーティーが荷物検査を受けて居る所だった。

 しかし、その光景を見たティルミオは、疲労など忘れて大きな声を上げてしまった。

「ああぁっ!アイツら!!」

 なんと、ティルミオたちに酷い事をしたあの三人組が、洞窟から出るための荷物検査を受けて居る所だったのだ。

「兵士さん!そいつら、そいつらが俺たちに転移のスクロールを使ってダンジョンの深部に置き去りにしたんだ!!」

 思わず飛び起きて、ティルミオは彼らを検査している兵士の方へ駆け寄ると、彼らの悪行を兵士に訴えた。

 すると、突然横から訳の分からない事を言われて兵士は戸惑ったが、兵士以上に、三人組の方がここにティルミオたちが居ることに動揺したのだった。

「なっ……お前たち何を言ってるんだい?そんな事する訳ないだろう?転移のスクロールなんて高価なアイテムを、他人に使うなんて馬鹿な事する奴居ないだろう?」
「居るよ!目の前に!おっさん達だ!!」
「証拠は?証拠も無しにそんな事を言われるのな心外だ。」
「ぐっ……」

 男の言う通り、確かに物証は何もなかったので、ティルミオは黙ってしまった。
 転移のスクロールは、使ったら塵になって消えてしまうし魔力反応も残らないので、それを使ったと証明するのはほとんど不可能なのだ。

(何か……何かこいつらの悪事を証明できる物はないか?!)

 どうにかしてこの冒険者達を罰したくて、ティルミオは注意深く三人を視た。
 しかし、光って見えたのは、彼らが持って帰ってきたルナストーンだけであった。

 そうこうしている内に、三人組の持ち物検査は進んだ。

「クエスト依頼分のルナストーンがこれで、他に持ち出しは無いか?」
「あぁ。クエスト依頼分だけだ。」
「確認する。」

 そう言うと兵士は、持ち出す鉱石の量を口頭で確認すると、手鏡の様な形の魔法道具で男の全身をかざした。
 もしも、鉱石を隠し持っていると、魔法道具に付いている石の色が青から赤に変るのだ。

 そして、そんな魔法道具をかざして男の全身を調べたが、魔法道具の石の色は青色のままなのだった。

「確かに、鉱石の反応は無いな。よし、通っていいぞ。」

 しかし、この判定に驚いてティルミオは思わず大きな声を上げてしまった。

「えぇっ?!ちょっと待ってよ。役人さん、コイツら、物凄くルナストーン隠し持ってるよ!!」

 そう。ティルミオが観察眼でこの三人組を見た時、三人とものカバンや服の下に沢山のルナストーンが視えたのだ。

 しかし、ティルミオの言う事は、ジェラミー以外は誰も信じてくれなかったのだった。
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