72 / 116
70. 絶体絶命
しおりを挟む
「あぁっ!痛いなっ!!」
群がってくる軍隊アリに噛みつかれながらも、ティルミオは身を捩って振り払い、踏みつけたり、蹴散らしたり、時には体を岩壁に体当たりして身体に群がっていた個体を押し潰したりして、蟻の群れと格闘をした。
普段はジェラミーに任せっきりなので、魔物との戦闘はほぼ初であったが、二人で無事に出口へ行く為に、ティルミオは自分に出来る事として、ジェラミーが集中して女王アリと戦える様に、なんとか自分の身だけは必死で守ったのだ。
そしてそんな風にティルミオが奮闘している側では、ジェラミーは女王アリと対峙していた。
小型である軍隊蟻とは違い、女王アリは大人の背丈よりも高い位置に頭がある程の大型モンスターで、ジェラミーなど女王アリにとっては小さな存在でしかなかったが、しかし、彼は臆しなかった。
ジェラミーは壁を使って右斜め上へと飛び上がると、自重を利用して思いっきり両手で握った剣を、女王アリに叩き込んだのだ。
計画ではコレで女王アリの前足を切断する筈だった。
カキイイインッ
しかし、ジェラミーの斬撃は女王アリの硬い甲殻に弾かれてしまったのだった。
「くそっ!硬いなっ!!」
攻撃が弾かれた事によって崩してしまったバランスを整えつつ着地すると、ジェラミーは大きな声でぼやいた。
予想より硬く、ダメージが全然入らなかった事や、修理から帰って来たばかりの剣なのに早速刃こぼれを起こしてしまった事も相まって、彼のイライラは焦りとなって募っていった。
そんなジェラミーを少しでもフォローしたくて、ティルミオは自分に群がる軍隊蟻を対処しながら、観察眼で女王アリを視た。
すると、女王アリの腹部が青白く光って見えたのだった。
「ジェラミー!そいつ腹が弱点だ!!」
ティルミオは即座にその事をジェラミーに伝えた。フォレストベアーの時のように、光って見えた所を攻撃すれば、きっと倒せると思ったのだ。
しかし、弱点が分かった所で、そうは簡単にいかなかった。
「腹ったって、地面に這いつくばってる奴の下になんか潜り込めねーよ!!」
そう、ジェラミーの言う通り、女王アリの弱点である腹部を狙うには、その巨体の下に潜り込まなければならないのだ。
それは余りにも無謀な行為で、とても現実的な作戦ではなかった。
仕方がないのでジェラミーは、体制を立て直すと今度は左側から再び女王アリに飛びかかった。
腹が狙えない以上、多くの生物の弱点がそうである様に、頭を狙って、強力な一打を打ち込むつもりだった。
しかし、この判断が良くなかった。
女王アリは、急に上体を起こして、前足を大きく薙ぎ払ったのだ。
まるで小煩いハエを振り払うかのようなその行動は、空中で回避行動が取れなかったジェラミーを最も簡単に吹き飛ばしてしまった。
そう、ジェラミーは女王アリの薙ぎ払いを横腹にまともに受けてしまい、その身体を岩壁に思いっきり叩きつけられてしまったのだった。
「ジェラミー!!」
壁に叩きつけられたジェラミーは体制を崩してそのまま地面に倒れ込んだ。
するとそこに、この好機を逃すまいと、軍隊アリたちが一斉にジェラミー目掛けて集まって来たのだ。
ティルミオに向かっていた個体も、全てジェラミーに向かって行ってしまった。
どちらの方が脅威か、どちらを先に潰すべきか、この短時間で蟻も学習したのだ。
「くそっ!来るんじゃねぇ!!」
ジェラミーは直ぐに起き上がろうとしたが、軍隊蟻はどんどんと倒れているジェラミーに群がっていく。振り払っても振り払っても、軍隊蟻が集まってくるスピードの方が早くて、遂にジェラミーの姿は見えなくなってしまった。
「ジェラミー!!」
ティルミオは直ぐに駆け寄って、蟻に埋もれていくジェラミーを助けようとした。
しかし、足がもつれて地面に転倒してしまったのだ。
起き上がろうとしても、慣れない戦闘をしたせいか、足も手も思う様に動かなくて、ティルミオは中々起き上がれなかった。
そうこうしてるうちにも、どんどんと軍隊蟻はジェラミーに群がるし、女王アリも、ジリジリとジェラミーに近づいている。
(どうしよう、どうにかしないと……)
地面に倒れたまま、ティルミオは女王蟻をジッと見つめて考えた。腹が弱点なのは分かってる。どうしたらそこを攻撃できるか。
しかし、そもそも自分には攻撃手段がない。
ギルドから借りてるピッケルと、家から持って来た肉切り包丁くらいしかないのだ。これでこの状況をどうにかするのは、絶望的だった。
(こんなところで、俺たち全滅するのか……?)
蟻の群れを前に、ティルミオの心が折れそうになったその時だった。
(えっ……)
頭の中に呪文が浮かんできたのだ。
これが何の呪文かは皆目見当も付かなかったけれども、ミッケの贈り物である事は察しがついた。
迷ってる暇は無かった。
今はコレに賭けるしか無いのだ。
ティルミオは地面に手をついたまま、女王蟻を睨んで、頭の中に浮かんできた言葉を力一杯叫んだ。
「武具錬金!!!」
すると、女王蟻の真下の地面が槍の様に尖って、腹から魔物を串刺しにしたのだった。
ミッケからティルミオが受け取っていたもう一つの贈り物、それは触れた物で武具を錬成する錬金術であった。
群がってくる軍隊アリに噛みつかれながらも、ティルミオは身を捩って振り払い、踏みつけたり、蹴散らしたり、時には体を岩壁に体当たりして身体に群がっていた個体を押し潰したりして、蟻の群れと格闘をした。
普段はジェラミーに任せっきりなので、魔物との戦闘はほぼ初であったが、二人で無事に出口へ行く為に、ティルミオは自分に出来る事として、ジェラミーが集中して女王アリと戦える様に、なんとか自分の身だけは必死で守ったのだ。
そしてそんな風にティルミオが奮闘している側では、ジェラミーは女王アリと対峙していた。
小型である軍隊蟻とは違い、女王アリは大人の背丈よりも高い位置に頭がある程の大型モンスターで、ジェラミーなど女王アリにとっては小さな存在でしかなかったが、しかし、彼は臆しなかった。
ジェラミーは壁を使って右斜め上へと飛び上がると、自重を利用して思いっきり両手で握った剣を、女王アリに叩き込んだのだ。
計画ではコレで女王アリの前足を切断する筈だった。
カキイイインッ
しかし、ジェラミーの斬撃は女王アリの硬い甲殻に弾かれてしまったのだった。
「くそっ!硬いなっ!!」
攻撃が弾かれた事によって崩してしまったバランスを整えつつ着地すると、ジェラミーは大きな声でぼやいた。
予想より硬く、ダメージが全然入らなかった事や、修理から帰って来たばかりの剣なのに早速刃こぼれを起こしてしまった事も相まって、彼のイライラは焦りとなって募っていった。
そんなジェラミーを少しでもフォローしたくて、ティルミオは自分に群がる軍隊蟻を対処しながら、観察眼で女王アリを視た。
すると、女王アリの腹部が青白く光って見えたのだった。
「ジェラミー!そいつ腹が弱点だ!!」
ティルミオは即座にその事をジェラミーに伝えた。フォレストベアーの時のように、光って見えた所を攻撃すれば、きっと倒せると思ったのだ。
しかし、弱点が分かった所で、そうは簡単にいかなかった。
「腹ったって、地面に這いつくばってる奴の下になんか潜り込めねーよ!!」
そう、ジェラミーの言う通り、女王アリの弱点である腹部を狙うには、その巨体の下に潜り込まなければならないのだ。
それは余りにも無謀な行為で、とても現実的な作戦ではなかった。
仕方がないのでジェラミーは、体制を立て直すと今度は左側から再び女王アリに飛びかかった。
腹が狙えない以上、多くの生物の弱点がそうである様に、頭を狙って、強力な一打を打ち込むつもりだった。
しかし、この判断が良くなかった。
女王アリは、急に上体を起こして、前足を大きく薙ぎ払ったのだ。
まるで小煩いハエを振り払うかのようなその行動は、空中で回避行動が取れなかったジェラミーを最も簡単に吹き飛ばしてしまった。
そう、ジェラミーは女王アリの薙ぎ払いを横腹にまともに受けてしまい、その身体を岩壁に思いっきり叩きつけられてしまったのだった。
「ジェラミー!!」
壁に叩きつけられたジェラミーは体制を崩してそのまま地面に倒れ込んだ。
するとそこに、この好機を逃すまいと、軍隊アリたちが一斉にジェラミー目掛けて集まって来たのだ。
ティルミオに向かっていた個体も、全てジェラミーに向かって行ってしまった。
どちらの方が脅威か、どちらを先に潰すべきか、この短時間で蟻も学習したのだ。
「くそっ!来るんじゃねぇ!!」
ジェラミーは直ぐに起き上がろうとしたが、軍隊蟻はどんどんと倒れているジェラミーに群がっていく。振り払っても振り払っても、軍隊蟻が集まってくるスピードの方が早くて、遂にジェラミーの姿は見えなくなってしまった。
「ジェラミー!!」
ティルミオは直ぐに駆け寄って、蟻に埋もれていくジェラミーを助けようとした。
しかし、足がもつれて地面に転倒してしまったのだ。
起き上がろうとしても、慣れない戦闘をしたせいか、足も手も思う様に動かなくて、ティルミオは中々起き上がれなかった。
そうこうしてるうちにも、どんどんと軍隊蟻はジェラミーに群がるし、女王アリも、ジリジリとジェラミーに近づいている。
(どうしよう、どうにかしないと……)
地面に倒れたまま、ティルミオは女王蟻をジッと見つめて考えた。腹が弱点なのは分かってる。どうしたらそこを攻撃できるか。
しかし、そもそも自分には攻撃手段がない。
ギルドから借りてるピッケルと、家から持って来た肉切り包丁くらいしかないのだ。これでこの状況をどうにかするのは、絶望的だった。
(こんなところで、俺たち全滅するのか……?)
蟻の群れを前に、ティルミオの心が折れそうになったその時だった。
(えっ……)
頭の中に呪文が浮かんできたのだ。
これが何の呪文かは皆目見当も付かなかったけれども、ミッケの贈り物である事は察しがついた。
迷ってる暇は無かった。
今はコレに賭けるしか無いのだ。
ティルミオは地面に手をついたまま、女王蟻を睨んで、頭の中に浮かんできた言葉を力一杯叫んだ。
「武具錬金!!!」
すると、女王蟻の真下の地面が槍の様に尖って、腹から魔物を串刺しにしたのだった。
ミッケからティルミオが受け取っていたもう一つの贈り物、それは触れた物で武具を錬成する錬金術であった。
10
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は始祖竜の母となる
葉柚
ファンタジー
にゃんこ大好きな私はいつの間にか乙女ゲームの世界に転生していたようです。
しかも、なんと悪役令嬢として転生してしまったようです。
どうせ転生するのであればモブがよかったです。
この乙女ゲームでは精霊の卵を育てる必要があるんですが・・・。
精霊の卵が孵ったら悪役令嬢役の私は死んでしまうではないですか。
だって、悪役令嬢が育てた卵からは邪竜が孵るんですよ・・・?
あれ?
そう言えば邪竜が孵ったら、世界の人口が1/3まで減るんでした。
邪竜が生まれてこないようにするにはどうしたらいいんでしょう!?
城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします
吉野屋
ファンタジー
竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。
魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。
次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。
【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】
異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!
明衣令央
ファンタジー
糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。
一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。
だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。
そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。
この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。
2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる