上 下
71 / 116

69. 最深部

しおりを挟む
「ティルミオ!大丈夫か?!」

 何が起こったのか分からないティルミオは、暫く呆然としていたが、ジェラミーの呼びかけによって、我に返った。

「えっ……い、今何が起こったんだ??!」
「転移のスクロールだ。普通、ダンジョンでの緊急避難用に使うんだけど、こんな使い方をするとは……」

 イマイチ状況を把握出来ていないティルミオに、ジェラミーは忌々しそうな顔でそう説明をした。あの三人組の冒険者たちに不意を突かれた事が相当に腹を立てていたのだ。

「くそっ、にしてもここはどこだ?!」

 さっきまでいた場所とはガラリと雰囲気が変わってしまった周囲を見渡して、ジェラミーは焦った様に声を上げた。
 周囲が暗く、地形を見渡せないので今ここが、洞窟のどこら辺なのかも、出口の方角も全く何も分からないのだ。

「出口……は、大丈夫多分分かる。けど、ここ……大分深い階層だと思う……」

 そんなジェラミーを少しでも落ち着かせるために、ティルミオはジェラミーと同じ様に周囲の暗闇に目を向けて観察眼で辺りを見渡した。

 すると、遥か上の方に、小さな光が見えたのだ。
 そこが出口であるのは間違いなかった。

「ティルミオ、出口の方向分かるのか?」
「うん、多分あっちだ。」

 ジェラミーに問われて、ティルミオは光が見える方向、ジェラミーの頭より更に上の位置を指差した。

「……上だな。」
「そう、上なんだよ。」

 二人して頭上を見上げて、少しだけ沈黙が流れた。
 横方向だけならまだしも、縦にも登らないといけないとなると相当骨が折れるし、何より、上に登るということはそれだけこの場所が入り口から遠く離れている事がハッキリと分かって途方に暮れてしまったのだ。

「まぁ、とにかく上を目指すか。深部じゃ魔物も強いだろうから、いつまでもこんな所にいる訳にはいかないしな。」

 ジェラミーは溜息を吐いて頭を振ると、気を持ち直して前を向いた。

「とりあえず、オレが前を行くからティルミオは後を付いてきてくれ。上に登れる場所を探す。」
「ああ、分かった。」

 こうして、ティルミオとジェラミーは出口を目指して注意深く歩き始めた。

 ……のだが、しかし二人は数歩も歩かないうちに、その歩みを止めてしまった。

「なぁジェラミー。ここ、何だかとても嫌な予感がするんだけど……」
「……そうだな。」

 二人が進もうとしているその先、暗闇の中で何かが蠢いている気配を感じたのだ。

 闇の中に何かがいるのは確実で、ジェラミーは剣に手をかけながら、ランタンを慎重に闇の奥に向けて掲げた。

 すると、そこにはおびただしい数のアリの魔物が奥に居る女王アリを守る様に二人の前に立ち塞がっていた。

 そう、二人が飛ばされた先は、軍隊アリの巣だったのだ。

「嘘……だろ」

 あまりの数の多さに流石のジェラミーもたじろいで思わず一歩後ろに下がったが、その背後は岩壁なので逃げ場は無かった。
 つまり、このアリを何とかしないと、出口には向かえないのだ。

 正に八方塞がりだったが、前に進むしか活路がないのだから、ジェラミーはランタンを腰に固定すると、剣を抜いて身構えた。

「ジェラミー、まさか倒すつもりか?!」
「まさかって、コイツら倒さないと進めないだろう?!倒す以外に選択肢あるか?!」
「それは、そうだけど……」

 腹を括ったジェラミーとは対照的に、ティルミオは目の前に居る無数の蟻の魔物に尻込みをしていた。
 一匹一匹は自分の拳より少し大きい位のサイズだが、それが何十匹も集まっていたら、悍ましい以外の感想は持てなかったのだ。

「いいか、ティルミオ。こういう魔物はな、親玉を倒せば統率が取れなくなって勝手にどっか行くんだ。だからオレはあの女王アリを狙う。」

 目の前の魔物の群れに顔を青くしているティルミオを鼓舞するように、ジェラミーは前だけ見つめて話を続けた。

「けれど、オレが女王アリと対峙すると、その間、お前を守ってやる事がきっと出来ない。だからティルミオ、覚悟を決めろ。少しの間自分の身は自分で守れ!こいつら一匹一匹は対して強く無い。踏めば倒せるくらいだから!!」

 そう言い放つとジェラミーはティルミオの返事も待たずに足元に群がる軍隊アリを蹴散らしながら、ボスである女王アリに向かっていったのだった。

「わっ、分かった!自分の事は自分で何とかするよっ!!」

 女王アリに立ち向かうジェラミーの背に、ティルミオは叫んだ。
 
 ジェラミーの言う通り、この状況をどうにかするには、目の前の魔物を倒すしかないのだ。
 そして、ボスを倒せるのはジェラミーしか居ないので、ここで生き残る為には、自分が彼の足を引っぱる様な事が合ってはいけないと、ティルミオも覚悟を決めたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したけど平民でした!もふもふ達と楽しく暮らす予定です。

まゆら
ファンタジー
回収が出来ていないフラグがある中、一応完結しているというツッコミどころ満載な初めて書いたファンタジー小説です。 温かい気持ちでお読み頂けたら幸い至極であります。 異世界に転生したのはいいけど悪役令嬢とかヒロインとかになれなかった私。平民でチートもないらしい‥どうやったら楽しく異世界で暮らせますか? 魔力があるかはわかりませんが何故か神様から守護獣が遣わされたようです。 平民なんですがもしかして私って聖女候補? 脳筋美女と愛猫が繰り広げる行きあたりばったりファンタジー!なのか? 常に何処かで大食いバトルが開催中! 登場人物ほぼ甘党! ファンタジー要素薄め!?かもしれない? 母ミレディアが実は隣国出身の聖女だとわかったので、私も聖女にならないか?とお誘いがくるとか、こないとか‥ ◇◇◇◇ 現在、ジュビア王国とアーライ神国のお話を見やすくなるよう改稿しております。 しばらくは、桜庵のお話が中心となりますが影の薄いヒロインを忘れないで下さい! 転生もふもふのスピンオフ! アーライ神国のお話は、国外に追放された聖女は隣国で… 母ミレディアの娘時代のお話は、婚約破棄され国外追放になった姫は最強冒険者になり転生者の嫁になり溺愛される こちらもよろしくお願いします。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

【10話完結】 後妻になりました後継者に、女の子の扱いを授業しています。

BBやっこ
恋愛
親子仲はまあまあでしょうか? 元は娼館に居た女。お客だった貴族から後妻にと望まれた。 迷ったが、本当に出ていくことを決める。 彼の家に行くと、そこには後継者として育てられているお子様がいて?

薬屋経営してみたら、利益が恐ろしいことになりました ~平民だからと追放された元宮廷錬金術士の物語~

まいか
ファンタジー
錬金術士であるアイラは、調合で様々な種類の薬を精製することが出来た。 その能力は国家にも認められるほどであり、彼女は宮殿で好待遇を受けることになる。 しかし、第二王子は他の錬金術士が見つかったとして、平民でしかない彼女は追放されてしまった。 その後、アイラは街で薬屋を経営することになるが……この娘、他とは一線を画す才能を有しており、お店は大繁盛、彼女を最初に雇った第一王子殿下のクリフトも訪れ、さらに活気あるものになっていく。 一方で、貴族の中で錬金術士を見つけたとして、アイラを追放した第二王子は……。 ※小説家になろう様にも投稿しています。45話辺りから展開が変わっていきます。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

転生令嬢はやんちゃする

ナギ
恋愛
【完結しました!】 猫を助けてぐしゃっといって。 そして私はどこぞのファンタジー世界の令嬢でした。 木登り落下事件から蘇えった前世の記憶。 でも私は私、まいぺぇす。 2017年5月18日 完結しました。 わぁいながい! お付き合いいただきありがとうございました! でもまだちょっとばかり、与太話でおまけを書くと思います。 いえ、やっぱりちょっとじゃないかもしれない。 【感謝】 感想ありがとうございます! 楽しんでいただけてたんだなぁとほっこり。 完結後に頂いた感想は、全部ネタバリ有りにさせていただいてます。 与太話、中身なくて、楽しい。 最近息子ちゃんをいじってます。 息子ちゃん編は、まとめてちゃんと書くことにしました。 が、大まかな、美味しいとこどりの流れはこちらにひとまず。 ひとくぎりがつくまでは。

処理中です...