三毛猫ミッケの贈り物〜借金返済の為に兄妹で錬金術始めました〜

石月 和花

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65. 噂には噂を2

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 たまたま店に来た常連客のおばさんにティティルナたちの現状を知って味方になってもらおうと、フィオンは少し大袈裟な言動でアーヴァイン商会のことを話した。

 すると、フィオンの目論みはまんまと成功し、彼の熱演によってドーブルのおばさんは、同情心をガッチリと掴まれたのだった。

「まぁ、それは酷い話ね!!」
「そうですよね、酷い話ですよね。ドーブルさん、ティナ達はこんなに真面目に働いているのに。」
「えぇ、えぇ。本当に悪どいやり方ね。おばさんはティティルナちゃんの味方だからね。今後もここでパンを買うからね。噂なんかに負けちゃダメよ!!」
「あ……有難うございます!!」

 フィオンの誘導のお陰で常連客から心強い言葉を貰えたティティルナは、嬉しくて思わず声が上擦りながらお礼を言った。
 昔からの常連客が、こんなにも自分たちの事を大切に思ってくれているのだと分かって、胸が一杯になったのだ。

 しかし、この話はここで終わりではなかった。今の話がよほど腹立たしかったのか、ドーブルのおばさんは、渋い顔でフィオンと共に話を蒸し返したのだ。

「それにしても本当にアーヴァイン商会って酷いことするのね。兄妹で身を寄せ合って頑張ってる子たちの悪い噂を流すなんて……」
「えぇ、本当にそうですよね。せめて噂が誤解である事が広まれば良いんですけどね。」
「それなら、今ここで聞いた話を私が皆に広めるわ!」
「それは良い考えだ!ドーブルさん、是非そうしてあげてください。ティナたちの助けになりますよ。」
「任せなさい!!そういうのは得意なの!!あの噂は、アーヴァイン商会がカーステン商店を潰す為に流した悪意ある嘘だって言って回るわ!」

 そうして、ティティルナが何か口を挟む前に、あれよあれよと会話が進んで、ドーブルのおばさんは、いつものパンを買うと「大丈夫だから私に任せなさい!」と、力強い言葉を残して、店を去って行ったのだった。

「ま、これでカーステン商店の誤解も解けるだろうし、アーヴァイン商会のイメージダウンにもなるだろうね。」

 店のドアが完全に閉まるのを見届けると、そう言ってフィオンが、満面の笑みを見せたので、ティティルナは一連の流れが全て彼の思惑通りなのだと察した。

 しかし、カーステン商店の無実を広めて貰えるのは大変有り難いのだけれども、ティティルナにはどうしても心配な事があったのだった。

「でも、良いのかな……?」
「何がだい?」
「だって、あの噂はアーヴァイン商会が流したって確証は無いじゃない?」

 これだと向こうがやった事と同じでは無いのかと、ティティルナは気を揉んだのだ。

 けれども、フィオンはそんな事を全く気にする素振りも見せずに、実にしれっと、詭弁を言ってのけたのだった。

「まぁそうだけど、僕は”かもしれない”って話をしただけだからね。ドーブルさんがそう受け取っちゃったのなら、仕方ないよね。誰も何も、嘘は付いてないんだから、問題は無いよ。」

 貴公子の如くニッコリと笑って、全く悪びれる様子もなく堂々とそう話すフィオンの姿に、ティティルナはこの人が味方で本当に良かったなと、改めて実感するのであった。
 
 こうして、ご婦人方に新たな噂話の種を蒔いたことで、ドーブルのおばさんから話を聞いたという人が、ぽつり、ぽつりと店にやって来てくれたのだが、それでも結局この日は半分近くパンが売れ残ってしまった。

「大分売れ残ったにゃあ……あの小僧も回りくどい事なぞせずに、直接あの黒いのをやっつければ良いものを……」
「まぁまぁミッケ。立場ってものがあるからね。……今日、半分は売れて良かったよ。」

 閉店した店内で、陳列棚に残るパンを見ながら、ティティルナは少し寂しそうに言った。こんなに売れ残るのは初めてで、分かってはいた事だけれども、やはりカーステン商店のパンが食べて貰えないのは悲しくもあったのだ。

 そんな彼女に擦り寄って、ミッケはティティルナを慰めた。

「……お兄ちゃん遅いね。」
「そうだにゃ。きっとまたマニャポーションを買い忘れて、買いに戻ってるにゃ。」
「あはは、そうかもね。」

 ミッケを撫でながら、兄ティルミオの帰りを待った。

(こんなにパンが売れ残っているのを見たら、お兄ちゃんもガッカリするかな……?)

 そんな事を考えながら、ティティルナはミッケの喉の下を撫でてやった。するとミッケはとても気持ちよさそうに、喉をゴロゴロと鳴らしたのだった。

 この時の彼女たちはまだ、この後にパンの売れ残りを気にしてる余裕など全く無くなる様な出来事が待ち構えている事を知る由もなく、いつも通り、ティルミオの帰りを待ったのだった。
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