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58. マナポーションの作り方
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時間は少し戻って、ティルミオが、ギルドで今日の分の仕事を請け負ってジェラミーとクエストに向かっていた頃、店ではいつもの様にティティルナとミッケが店番をしていた。
午後のお昼を過ぎたこの時間帯は大体の商品も売れてしまって、客足も閑散としていて暇なのだが、そんな時に、見知った顔がカーステン商店にやって来たのだった。
「あ、フィオネいらっしゃい。」
「全く、私を呼びつけるなんて良い度胸ですわね!」
幼馴染のザイルード兄妹の妹の方、フィオネがティティルナを訪ねてきたのだ。
「うん、ごめんね来てもらって。お店抜けられなくって。」
「まぁ、忙しなくてみっともないですわね。せいぜい馬車馬の如く働くんですわ!」
「うん、有難う。頑張るよ。」
フィオネの傲慢でつっけんどんな物言いに、ミッケは二人の会話をハラハラしながら聞いていたが、しかし、ティティルナとフィオネにとってはこれが普通らしい。二人は何事もなく会話を進めていった。
「それにしても、こんな物を読みたいだなんてどうかしてますわ。一体、こんな本を読んでどうするんですの?」
「うん。マナポーションを作れないかなって、ちょっと勉強してみようと思ってね。フィオネ、本を届けて来てくれて有難う。」
フィオネが頼まれていた本をトゲトゲしい態度で手渡すと、ティティルナは嬉しそうに笑ってそれを受け取った。
その本は、フィオネに頼んでアカデミーの図書館から借りて来てもらったマナポーションの作り方が載っている図鑑だったのだ。
ティティルナはまるでオモチャを買ってもらった子供の様に目を輝かせて、フィオネから受け取った図鑑を眺めた。
しかし、そんなワクワクしてる様子のティティルナを、フィオネは信じられないといった顔で眺めると、呆れた様に口を開いたのだった。
「貴女馬鹿なの?素人が作れる訳ないじゃ無い。マナポーションは蒼生草っていう珍しい草を集めて、茎を切り、一晩かけて切り口から滴る汁を集めて、聖職者の祝福を受けた聖水と合わせてルナストーンていう稀少な鉱石を入れて色が変わるまで二晩ゆっくりと煮詰めながらかき混ぜるのですよ!こんな複雑で大変な工程、出来っこないわ!」
フィオネは物凄い説明口調で、ティティルナの考えが如何に無謀かを一気に捲し立てた。
実はフィオネは、ティティルナが読みたいと言った本の内容を知りたくて、先に全部読んで知っていたのだ。
だから馬鹿な事を考えている友人を嗜めたかったのだが、けれども、今のフィオネの説明では、ティティルナには全く効果が無かった。
「凄いね!フィオネはマナポーションの作り方知ってたんだ。」
「ま、まぁ、貴女が読みたいっていう本の内容くらい、知っていて当然ですわ。……では無くて、マナポーションを自作するだなんて無謀ですわ!!」
「そうかな?特別な器具とか必要ないなら何とかなるよ。あ、でも、ルナストーンてのも必要なんだ。それは知らなかったな。後でお兄ちゃんに相談しないと。」
「貴女本気ですの?!」
「うん!フィオネ。何事も挑戦だよ!!」
フィオネからの苦言を、ティティルナは明るく元気良く前向きな言葉を返して押さえ込んだ。
錬金術が使えるから、マナポーションを作る事が無謀では無いと分かっているのだ。
だから彼女は、フィオネの心配をよそに、不安など微塵も無くやる気に満ち溢れていて、その頭の中は既にポーション作りの事で一杯だった。
「あっ、この本には普通のポーションの作り方も載ってるね。なるほど、こっちの方は蒼生草の葉をすりつぶした物だけで作れるのか。こっちは簡単に作れそうだね。」
「そうみたいね。」
「あっ、そうだ。ポーション作りが上手くいったらお店でも売ってみたいからフィオンさんに売り方を相談したいな。フィオネ、フィオンさんに話しておいてくれる?」
ティティルナはフィオネから受け取った図鑑を嬉々として捲りながら、あれやこれやと今後のことを考えて嬉しそうに話しを進めた。
しかし、そんなティティルナに対して、フィオネはとても暗い顔をすると、小さな声でポツリと、胸に燻っていた本音を零したのだった。
「……嫌ですわ……」
「えっ?」
余りに小さな声だったので、ティティルナは思わず聞き返してしまった。
フィオネは今まで、何だかんだ言ってもティティルナのお願いを断ったことがないので、聞き間違えたのではないかと思ったのだ。
けれども、もう一度聞き返しても、フィオネの言葉は変わらなかった。
「ティナが、どんどん遠いところに行ってしまうみたいで嫌ですわ!!そんなに頑張らないでくださいませ!!」
涙目になりながら、フィオネはそう大きな声で叫んだのだ。
突然の事にティティルナは目を丸くしてしまった。
午後のお昼を過ぎたこの時間帯は大体の商品も売れてしまって、客足も閑散としていて暇なのだが、そんな時に、見知った顔がカーステン商店にやって来たのだった。
「あ、フィオネいらっしゃい。」
「全く、私を呼びつけるなんて良い度胸ですわね!」
幼馴染のザイルード兄妹の妹の方、フィオネがティティルナを訪ねてきたのだ。
「うん、ごめんね来てもらって。お店抜けられなくって。」
「まぁ、忙しなくてみっともないですわね。せいぜい馬車馬の如く働くんですわ!」
「うん、有難う。頑張るよ。」
フィオネの傲慢でつっけんどんな物言いに、ミッケは二人の会話をハラハラしながら聞いていたが、しかし、ティティルナとフィオネにとってはこれが普通らしい。二人は何事もなく会話を進めていった。
「それにしても、こんな物を読みたいだなんてどうかしてますわ。一体、こんな本を読んでどうするんですの?」
「うん。マナポーションを作れないかなって、ちょっと勉強してみようと思ってね。フィオネ、本を届けて来てくれて有難う。」
フィオネが頼まれていた本をトゲトゲしい態度で手渡すと、ティティルナは嬉しそうに笑ってそれを受け取った。
その本は、フィオネに頼んでアカデミーの図書館から借りて来てもらったマナポーションの作り方が載っている図鑑だったのだ。
ティティルナはまるでオモチャを買ってもらった子供の様に目を輝かせて、フィオネから受け取った図鑑を眺めた。
しかし、そんなワクワクしてる様子のティティルナを、フィオネは信じられないといった顔で眺めると、呆れた様に口を開いたのだった。
「貴女馬鹿なの?素人が作れる訳ないじゃ無い。マナポーションは蒼生草っていう珍しい草を集めて、茎を切り、一晩かけて切り口から滴る汁を集めて、聖職者の祝福を受けた聖水と合わせてルナストーンていう稀少な鉱石を入れて色が変わるまで二晩ゆっくりと煮詰めながらかき混ぜるのですよ!こんな複雑で大変な工程、出来っこないわ!」
フィオネは物凄い説明口調で、ティティルナの考えが如何に無謀かを一気に捲し立てた。
実はフィオネは、ティティルナが読みたいと言った本の内容を知りたくて、先に全部読んで知っていたのだ。
だから馬鹿な事を考えている友人を嗜めたかったのだが、けれども、今のフィオネの説明では、ティティルナには全く効果が無かった。
「凄いね!フィオネはマナポーションの作り方知ってたんだ。」
「ま、まぁ、貴女が読みたいっていう本の内容くらい、知っていて当然ですわ。……では無くて、マナポーションを自作するだなんて無謀ですわ!!」
「そうかな?特別な器具とか必要ないなら何とかなるよ。あ、でも、ルナストーンてのも必要なんだ。それは知らなかったな。後でお兄ちゃんに相談しないと。」
「貴女本気ですの?!」
「うん!フィオネ。何事も挑戦だよ!!」
フィオネからの苦言を、ティティルナは明るく元気良く前向きな言葉を返して押さえ込んだ。
錬金術が使えるから、マナポーションを作る事が無謀では無いと分かっているのだ。
だから彼女は、フィオネの心配をよそに、不安など微塵も無くやる気に満ち溢れていて、その頭の中は既にポーション作りの事で一杯だった。
「あっ、この本には普通のポーションの作り方も載ってるね。なるほど、こっちの方は蒼生草の葉をすりつぶした物だけで作れるのか。こっちは簡単に作れそうだね。」
「そうみたいね。」
「あっ、そうだ。ポーション作りが上手くいったらお店でも売ってみたいからフィオンさんに売り方を相談したいな。フィオネ、フィオンさんに話しておいてくれる?」
ティティルナはフィオネから受け取った図鑑を嬉々として捲りながら、あれやこれやと今後のことを考えて嬉しそうに話しを進めた。
しかし、そんなティティルナに対して、フィオネはとても暗い顔をすると、小さな声でポツリと、胸に燻っていた本音を零したのだった。
「……嫌ですわ……」
「えっ?」
余りに小さな声だったので、ティティルナは思わず聞き返してしまった。
フィオネは今まで、何だかんだ言ってもティティルナのお願いを断ったことがないので、聞き間違えたのではないかと思ったのだ。
けれども、もう一度聞き返しても、フィオネの言葉は変わらなかった。
「ティナが、どんどん遠いところに行ってしまうみたいで嫌ですわ!!そんなに頑張らないでくださいませ!!」
涙目になりながら、フィオネはそう大きな声で叫んだのだ。
突然の事にティティルナは目を丸くしてしまった。
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