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54. 一応の決着
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「サーヴォルトさん、有難うございます!そうなんです、私、錬金術を上手く使いこなせなくって、紙が出来たのはたまたまで、国に登録する程の力は無いんです。」
「成程、貴女の錬金術は不安定なんですね。今、ここで実践してみてくださいと言ったら出来ますか?」
「いえ、出来ません。何せ不安定ですから。」
「そうですか、分かりました。ではその様に上に報告しましょう。」
オデールの意図を汲み取って、ティティルナは精一杯、自分は錬金術が使えるけどまともに使えないという偽りの情報を演じ、そしてオデールも嘘だと分かっているにも関わらず、その言い分を信じたのだった。
そんなニンゲンたちのやり取りを、「何だこの茶番は?」と思いながらミッケは見ていたが、どうやら話が上手くまとまったみたいなので、大きく伸びをして欠伸をすると、やれやれと言った感じでオデールの横に降り立ち、彼を見上げて最終確認をしたのだった。
「全く、ニンゲンとは面倒臭いにゃあ。我には良く分からにゃかったが、これでもうティニャたちは困らにゃいんだにゃ?」
「まぁ、そうですね。」
オデールは、ミッケの問いに少しばかり優しい顔で答えると、それからティティルナたちの方に向き合って、改めて、兄妹に注意を促した。
「いいですか、これからは錬金術を活用するにしても、今回の様に目立ってはダメですよ。慎重に立ち回ってくださいね。貴女の錬金術は不安定なんですから。本当に、目立ってはダメですよ。」
「はい、分かりました。」
「後、これでティティルナさんが錬金術を不安定ながら使える素質があるって事が役所に伝わります。こういった話は、いつ、何処で、誰から広まるか分かりません。ですから、また悪い大人に利用されない様に十分に気を付けてくださいね。」
「はい、それも気を付けます。色々と気にかけてくれて有難うございます。」
こうして、三人での認識合わせが完了すると、オデールは兄妹の調書を上に報告する為に店を後にしたのだった。
「ふー。役人さんにバレた時はどうなるかと思ったけど、でも、なんとかなったな。」
「本当にね。サーヴォルトさんが良い人で良かったわ。」
「あぁ。本当にな。」
オデールを見送った後、ティルミオとティティルナは店の片付けをしながら二人してホッと一息をついていた。
役人なんて頭が硬くて融通が効かない人だとばかり思っていたので、自分たちの担当が、オデールの様な情に訴えたらなんとかなる人で良かったと、本人の居ないところで大いに感謝したのだ。
そんな風に兄妹は、問題は全て片付いたと思って安堵していたのだが、しかしミッケには、どうしても気になる事があって、
足元から不思議そうに二人を見上げると、ティルミオに訊ねたのだった。
「でもいいのかにゃ?」
「何が?」
「ティオ、自分の鑑定眼の事はアイツに言ってにゃいにゃ。」
そう、オデールに話したのは、あくまでティティルナの錬金術に関してだけで、ティルミオの鑑定眼については何も話してないのだ。
ミッケはティルミオがどうして言わなかったのか、意図があっての事なのかが気になったのだ。
けれども、それはミッケの考えすぎで、別に深い意図がある訳ではないのだった。
「えっ、だって俺の能力は説明しづらいだろう?それに、ティナの様に分かりやすく人に見せられるものでも無いし。」
「確かに、お兄ちゃんのあの説明の仕方じゃねぇ……まともに取り合ってくれないかもね。」
「確かににゃ……」
そう言ってティティルナとミッケが初めてティルミオから鑑定眼の事を聞いた時を思い出して残念そうな目で彼を見るので、ティルミオは少しだけたじろぐと、強引にこの話題を終わらせたのだった。
「ま、俺の能力はきっと人にはバレないからね。言わなくても問題ないよ。」
「それもそうだにゃ。」
こうして、二人と一匹はいつもの日常に戻っていった。この時はまだ、後にティルミオの能力が全く別の形で人に知られる事になるとは誰も思ってもいないのであった。
「成程、貴女の錬金術は不安定なんですね。今、ここで実践してみてくださいと言ったら出来ますか?」
「いえ、出来ません。何せ不安定ですから。」
「そうですか、分かりました。ではその様に上に報告しましょう。」
オデールの意図を汲み取って、ティティルナは精一杯、自分は錬金術が使えるけどまともに使えないという偽りの情報を演じ、そしてオデールも嘘だと分かっているにも関わらず、その言い分を信じたのだった。
そんなニンゲンたちのやり取りを、「何だこの茶番は?」と思いながらミッケは見ていたが、どうやら話が上手くまとまったみたいなので、大きく伸びをして欠伸をすると、やれやれと言った感じでオデールの横に降り立ち、彼を見上げて最終確認をしたのだった。
「全く、ニンゲンとは面倒臭いにゃあ。我には良く分からにゃかったが、これでもうティニャたちは困らにゃいんだにゃ?」
「まぁ、そうですね。」
オデールは、ミッケの問いに少しばかり優しい顔で答えると、それからティティルナたちの方に向き合って、改めて、兄妹に注意を促した。
「いいですか、これからは錬金術を活用するにしても、今回の様に目立ってはダメですよ。慎重に立ち回ってくださいね。貴女の錬金術は不安定なんですから。本当に、目立ってはダメですよ。」
「はい、分かりました。」
「後、これでティティルナさんが錬金術を不安定ながら使える素質があるって事が役所に伝わります。こういった話は、いつ、何処で、誰から広まるか分かりません。ですから、また悪い大人に利用されない様に十分に気を付けてくださいね。」
「はい、それも気を付けます。色々と気にかけてくれて有難うございます。」
こうして、三人での認識合わせが完了すると、オデールは兄妹の調書を上に報告する為に店を後にしたのだった。
「ふー。役人さんにバレた時はどうなるかと思ったけど、でも、なんとかなったな。」
「本当にね。サーヴォルトさんが良い人で良かったわ。」
「あぁ。本当にな。」
オデールを見送った後、ティルミオとティティルナは店の片付けをしながら二人してホッと一息をついていた。
役人なんて頭が硬くて融通が効かない人だとばかり思っていたので、自分たちの担当が、オデールの様な情に訴えたらなんとかなる人で良かったと、本人の居ないところで大いに感謝したのだ。
そんな風に兄妹は、問題は全て片付いたと思って安堵していたのだが、しかしミッケには、どうしても気になる事があって、
足元から不思議そうに二人を見上げると、ティルミオに訊ねたのだった。
「でもいいのかにゃ?」
「何が?」
「ティオ、自分の鑑定眼の事はアイツに言ってにゃいにゃ。」
そう、オデールに話したのは、あくまでティティルナの錬金術に関してだけで、ティルミオの鑑定眼については何も話してないのだ。
ミッケはティルミオがどうして言わなかったのか、意図があっての事なのかが気になったのだ。
けれども、それはミッケの考えすぎで、別に深い意図がある訳ではないのだった。
「えっ、だって俺の能力は説明しづらいだろう?それに、ティナの様に分かりやすく人に見せられるものでも無いし。」
「確かに、お兄ちゃんのあの説明の仕方じゃねぇ……まともに取り合ってくれないかもね。」
「確かににゃ……」
そう言ってティティルナとミッケが初めてティルミオから鑑定眼の事を聞いた時を思い出して残念そうな目で彼を見るので、ティルミオは少しだけたじろぐと、強引にこの話題を終わらせたのだった。
「ま、俺の能力はきっと人にはバレないからね。言わなくても問題ないよ。」
「それもそうだにゃ。」
こうして、二人と一匹はいつもの日常に戻っていった。この時はまだ、後にティルミオの能力が全く別の形で人に知られる事になるとは誰も思ってもいないのであった。
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