56 / 118
54. 一応の決着
しおりを挟む
「サーヴォルトさん、有難うございます!そうなんです、私、錬金術を上手く使いこなせなくって、紙が出来たのはたまたまで、国に登録する程の力は無いんです。」
「成程、貴女の錬金術は不安定なんですね。今、ここで実践してみてくださいと言ったら出来ますか?」
「いえ、出来ません。何せ不安定ですから。」
「そうですか、分かりました。ではその様に上に報告しましょう。」
オデールの意図を汲み取って、ティティルナは精一杯、自分は錬金術が使えるけどまともに使えないという偽りの情報を演じ、そしてオデールも嘘だと分かっているにも関わらず、その言い分を信じたのだった。
そんなニンゲンたちのやり取りを、「何だこの茶番は?」と思いながらミッケは見ていたが、どうやら話が上手くまとまったみたいなので、大きく伸びをして欠伸をすると、やれやれと言った感じでオデールの横に降り立ち、彼を見上げて最終確認をしたのだった。
「全く、ニンゲンとは面倒臭いにゃあ。我には良く分からにゃかったが、これでもうティニャたちは困らにゃいんだにゃ?」
「まぁ、そうですね。」
オデールは、ミッケの問いに少しばかり優しい顔で答えると、それからティティルナたちの方に向き合って、改めて、兄妹に注意を促した。
「いいですか、これからは錬金術を活用するにしても、今回の様に目立ってはダメですよ。慎重に立ち回ってくださいね。貴女の錬金術は不安定なんですから。本当に、目立ってはダメですよ。」
「はい、分かりました。」
「後、これでティティルナさんが錬金術を不安定ながら使える素質があるって事が役所に伝わります。こういった話は、いつ、何処で、誰から広まるか分かりません。ですから、また悪い大人に利用されない様に十分に気を付けてくださいね。」
「はい、それも気を付けます。色々と気にかけてくれて有難うございます。」
こうして、三人での認識合わせが完了すると、オデールは兄妹の調書を上に報告する為に店を後にしたのだった。
「ふー。役人さんにバレた時はどうなるかと思ったけど、でも、なんとかなったな。」
「本当にね。サーヴォルトさんが良い人で良かったわ。」
「あぁ。本当にな。」
オデールを見送った後、ティルミオとティティルナは店の片付けをしながら二人してホッと一息をついていた。
役人なんて頭が硬くて融通が効かない人だとばかり思っていたので、自分たちの担当が、オデールの様な情に訴えたらなんとかなる人で良かったと、本人の居ないところで大いに感謝したのだ。
そんな風に兄妹は、問題は全て片付いたと思って安堵していたのだが、しかしミッケには、どうしても気になる事があって、
足元から不思議そうに二人を見上げると、ティルミオに訊ねたのだった。
「でもいいのかにゃ?」
「何が?」
「ティオ、自分の鑑定眼の事はアイツに言ってにゃいにゃ。」
そう、オデールに話したのは、あくまでティティルナの錬金術に関してだけで、ティルミオの鑑定眼については何も話してないのだ。
ミッケはティルミオがどうして言わなかったのか、意図があっての事なのかが気になったのだ。
けれども、それはミッケの考えすぎで、別に深い意図がある訳ではないのだった。
「えっ、だって俺の能力は説明しづらいだろう?それに、ティナの様に分かりやすく人に見せられるものでも無いし。」
「確かに、お兄ちゃんのあの説明の仕方じゃねぇ……まともに取り合ってくれないかもね。」
「確かににゃ……」
そう言ってティティルナとミッケが初めてティルミオから鑑定眼の事を聞いた時を思い出して残念そうな目で彼を見るので、ティルミオは少しだけたじろぐと、強引にこの話題を終わらせたのだった。
「ま、俺の能力はきっと人にはバレないからね。言わなくても問題ないよ。」
「それもそうだにゃ。」
こうして、二人と一匹はいつもの日常に戻っていった。この時はまだ、後にティルミオの能力が全く別の形で人に知られる事になるとは誰も思ってもいないのであった。
「成程、貴女の錬金術は不安定なんですね。今、ここで実践してみてくださいと言ったら出来ますか?」
「いえ、出来ません。何せ不安定ですから。」
「そうですか、分かりました。ではその様に上に報告しましょう。」
オデールの意図を汲み取って、ティティルナは精一杯、自分は錬金術が使えるけどまともに使えないという偽りの情報を演じ、そしてオデールも嘘だと分かっているにも関わらず、その言い分を信じたのだった。
そんなニンゲンたちのやり取りを、「何だこの茶番は?」と思いながらミッケは見ていたが、どうやら話が上手くまとまったみたいなので、大きく伸びをして欠伸をすると、やれやれと言った感じでオデールの横に降り立ち、彼を見上げて最終確認をしたのだった。
「全く、ニンゲンとは面倒臭いにゃあ。我には良く分からにゃかったが、これでもうティニャたちは困らにゃいんだにゃ?」
「まぁ、そうですね。」
オデールは、ミッケの問いに少しばかり優しい顔で答えると、それからティティルナたちの方に向き合って、改めて、兄妹に注意を促した。
「いいですか、これからは錬金術を活用するにしても、今回の様に目立ってはダメですよ。慎重に立ち回ってくださいね。貴女の錬金術は不安定なんですから。本当に、目立ってはダメですよ。」
「はい、分かりました。」
「後、これでティティルナさんが錬金術を不安定ながら使える素質があるって事が役所に伝わります。こういった話は、いつ、何処で、誰から広まるか分かりません。ですから、また悪い大人に利用されない様に十分に気を付けてくださいね。」
「はい、それも気を付けます。色々と気にかけてくれて有難うございます。」
こうして、三人での認識合わせが完了すると、オデールは兄妹の調書を上に報告する為に店を後にしたのだった。
「ふー。役人さんにバレた時はどうなるかと思ったけど、でも、なんとかなったな。」
「本当にね。サーヴォルトさんが良い人で良かったわ。」
「あぁ。本当にな。」
オデールを見送った後、ティルミオとティティルナは店の片付けをしながら二人してホッと一息をついていた。
役人なんて頭が硬くて融通が効かない人だとばかり思っていたので、自分たちの担当が、オデールの様な情に訴えたらなんとかなる人で良かったと、本人の居ないところで大いに感謝したのだ。
そんな風に兄妹は、問題は全て片付いたと思って安堵していたのだが、しかしミッケには、どうしても気になる事があって、
足元から不思議そうに二人を見上げると、ティルミオに訊ねたのだった。
「でもいいのかにゃ?」
「何が?」
「ティオ、自分の鑑定眼の事はアイツに言ってにゃいにゃ。」
そう、オデールに話したのは、あくまでティティルナの錬金術に関してだけで、ティルミオの鑑定眼については何も話してないのだ。
ミッケはティルミオがどうして言わなかったのか、意図があっての事なのかが気になったのだ。
けれども、それはミッケの考えすぎで、別に深い意図がある訳ではないのだった。
「えっ、だって俺の能力は説明しづらいだろう?それに、ティナの様に分かりやすく人に見せられるものでも無いし。」
「確かに、お兄ちゃんのあの説明の仕方じゃねぇ……まともに取り合ってくれないかもね。」
「確かににゃ……」
そう言ってティティルナとミッケが初めてティルミオから鑑定眼の事を聞いた時を思い出して残念そうな目で彼を見るので、ティルミオは少しだけたじろぐと、強引にこの話題を終わらせたのだった。
「ま、俺の能力はきっと人にはバレないからね。言わなくても問題ないよ。」
「それもそうだにゃ。」
こうして、二人と一匹はいつもの日常に戻っていった。この時はまだ、後にティルミオの能力が全く別の形で人に知られる事になるとは誰も思ってもいないのであった。
10
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
完全無欠少女と振り回される世界~誰かこいつを止めてくれ!!~
黒うさぎ
ファンタジー
文武両道、才色兼備。容姿、才能、家柄などあらゆる物事に恵まれて産まれた少女、ミエリィ。だが決して己の恵まれた環境に驕ることなく、ミエリィは天真爛漫に成長した。それはもう他の追随を許さないほど圧倒的なくらいに……。
「まあ!こんなに楽にお着替えできたわ!」
「我の黒炎は早着替えの魔法ではない!というか人のマントを躊躇なく燃やすな!」
ストーカーや変態など個性豊かな人々に囲まれながらミエリィは己の道を行く!
これは貴族も平民も善人も悪人も動物も魔物も、ありとあらゆる存在を振り回して生きていく、1人の少女の物語。
小説家になろう、カクヨムにも投稿してます。
【10話完結】 後妻になりました後継者に、女の子の扱いを授業しています。
BBやっこ
恋愛
親子仲はまあまあでしょうか?
元は娼館に居た女。お客だった貴族から後妻にと望まれた。
迷ったが、本当に出ていくことを決める。
彼の家に行くと、そこには後継者として育てられているお子様がいて?
テンプレ通りじゃないかもしれないけれど悪役令嬢ものを書いてみた
希臘楽園
ファンタジー
思いついた構想を軽く書いてみました。
悪役令嬢がライバルとなる娘たちを事前に潰してしまう話です。
キャラの名前は第1作・第2作から転用しました。
メモ書き的な粗い内容ですが、良かったら読んでみて下さい。
【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。
勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~
楠ノ木雫
ファンタジー
IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき……
※他の投稿サイトにも掲載しています。
婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
◆完結◆修学旅行……からの異世界転移!不易流行少年少女長編ファンタジー『3年2組 ボクらのクエスト』《全7章》
カワカツ
ファンタジー
修学旅行中のバスが異世界に転落!?
単身目覚めた少年は「友との再会・元世界へ帰る道」をさがす旅に歩み出すが……
構想8年・執筆3年超の長編ファンタジー!
※1話5分程度。
※各章トップに表紙イラストを挿入しています(自作低クオリティ笑)。
〜以下、あらすじ〜
市立南町中学校3年生は卒業前の『思い出作り』を楽しみにしつつ修学旅行出発の日を迎えた。
しかし、賀川篤樹(かがわあつき)が乗る3年2組の観光バスが交通事故に遭い数十mの崖から転落してしまう。
車外に投げ出された篤樹は事故現場の崖下ではなく見たことも無い森に囲まれた草原で意識を取り戻した。
助けを求めて叫ぶ篤樹の前に現れたのは『腐れトロル』と呼ばれる怪物。明らかな殺意をもって追いかけて来る腐れトロルから逃れるために森の中へと駆け込んだ篤樹……しかしついに追い詰められ絶対絶命のピンチを迎えた時、エシャーと名乗る少女に助けられる。
特徴的な尖った耳を持つエシャーは『ルエルフ』と呼ばれるエルフ亜種族の少女であり、彼女達の村は外界と隔絶された別空間に存在する事を教えられる。
『ルー』と呼ばれる古代魔法と『カギジュ』と呼ばれる人造魔法、そして『サーガ』と呼ばれる魔物が存在する異世界に迷い込んだことを知った篤樹は、エシャーと共にルエルフ村を出ることに。
外界で出会った『王室文化法暦省』のエリート職員エルグレド、エルフ族の女性レイラという心強い協力者に助けられ、篤樹は元の世界に戻るための道を探す旅を始める。
中学3年生の自分が持っている知識や常識・情報では理解出来ない異世界の旅の中、ここに『飛ばされて来た』のは自分一人だけではない事を知った篤樹は、他の同級生達との再会に期待を寄せるが……
不易流行の本格長編王道ファンタジー作品!
筆者推奨の作品イメージ歌<乃木坂46『夜明けまで強がらなくていい』2019>を聴きながら映像化イメージを膨らませつつお読み下さい!
※本作品は「小説家になろう」「エブリスタ」「カクヨム」にも投稿しています。各サイト読者様の励ましを糧についに完結です。
※少年少女文庫・児童文学を念頭に置いた年齢制限不要な表現・描写の異世界転移ファンタジー作品です。
嘘つきレイラ
織部
ファンタジー
1文800文字程度。通勤、通学のお供にどうぞ。
双子のように、育った幼馴染の俺、リドリーとレイラ王女。彼女は、6歳になり異世界転生者だといい、9歳になり、彼女の母親の死と共に、俺を遠ざけた。
「この風景見たことが無い?」
王国の継承順位が事件とともに上がっていく彼女の先にあるものとは……
※カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる