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52. 魔導士登録
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「ティティルナさんの錬金術は、商売をしている以上このままずっと秘密にしておけるとは思えませんし、なにより、今回の騒動を報告するのに、貴女が錬金術を使えるという事を言わないと、説明が出来ないのです。」
ティティルナに魔導士として国に登録するように勧めたオデールの意図の一つは、そうしないと上に合理的な説明が出来ないからだった。
そもそも、彼がカーステン商店を訪ねた理由が、出所不明の安い上質紙がどこでどうやって作られたかを調査する事なので、違法性が無いことを説明するには、ティティルナが錬金術を使える事は絶対に明かす必要があったのだ。
「説明が出来ないとどうなるのですか?」
「やましい事があると判断されて、捕まります。」
ふと、ティルミオが疑問に思った事を口にすると、実にしれっとオデールが恐ろしい事を言ってのけたので、兄妹は驚いて言葉に詰まってしまったが、そんな中ミッケだけは相変わらずだった。
「お前、さっきティニャたちは捕まえないって言ったじゃにゃいか!!」
「えぇ。だからお二人を捕まえないで済む為には、ちゃんとした説明をして上を納得させる必要があるのです。」
「捕まえないって言ったのに嘘つきにゃ!やっぱりお前はティニャたちのこと虐めてるにゃ?!」
「いえ、そうではありません。むしろ守りたいんですよ。」
オデールは威嚇してくるミッケを落ち着かせると、自分が何故魔導士登録を勧めるのか続きを話した。
「ティティルナさん達の潔白を上に説明し易くする為に魔導士登録して欲しいのが一番の理由ですが、それ以外にも理由があります。登録すれば地位と利権が得られるからです。」
「地位と利権……?」
「はい。この国に魔法を使える人は多くありません。なので貴重な人材を国が把握して管理したいって意図は有りますが、その代わりに登録魔導士は準貴族に認定されます。そうなれば、今回の様に貴女たちを騙そうとする輩も簡単には近寄らなくなると思います。」
準貴族とは、平民の中で優れた功績を立てた者や、盤石な経済基盤を持っている豪商などに与えられる貴族と平民の中間に位置する身分であり、フィオン達ザイルード家もこれに当たる。
貴族と違って強大な権力が有るわけではないが、それでも準貴族の特権が有れば確かにただの平民よりかは守られる立場になるのだが、しかし、それが本当に自分たちにとって良い事なのか、二人は判断出来ないでいた。
「うーん。悪い奴が寄ってこなくなるって言うけど、こんな子供が準貴族だなんて、余計に利用しようと企む奴が寄ってこないか?」
「そうですね……無いとは言い切れませんが、貴方たちの場合、無知な子供だと思われたからつけ入られたんであって、ちゃんとした肩書きがあれば、変な小物は湧いてこないでしょう。」
「つまり、大物は寄ってくるんだにゃ?」
オデールの説明に兄妹が困惑していると、ミッケが真っ直ぐにオデールを見返してそう言った。この三毛猫は、猫らしく気ままに振る舞っているものの、こういった本質は的確に突いてくるのだ。
けれど、そんな鋭い指摘にもオデールは臆する事なく堂々と答えた。
「そうならない為に、我々役人や衛士が特に目を光らせて貴女たちを守るんですよ。」
そう話すオデールの目は曇り一つなく澄んでいて、これがティルミオ達を騙す為の方便などでは無いことは兄妹も十分に感じ取っていたが、しかしティルミオは、ある事が気になって、オデールに聞き返したのだった。
「それって、つまり日常的に監視されるって事?」
「基本的にはそういう事はしませんが……でも、登録魔導士になると定期的な面談が課せられるので、そこで誰かに騙されてないかとか、道を踏み外していないかとかを確認して、危ないと思ったら然るべき対処がされます。」
ティルミオは、国の管理下に入るというのはつまり自分たちが監視されるのでは無いかという懸念をオデールにぶつけたが、しかし、オデールからの説明はどこか曖昧でティルミオはすんなりと受け入れられなかった。然るべき対処がなんなのか気になったし、結局は監視されているような物では無いかと感じたのだ。
だからティルミオは疑いの目を持ったまま、考えを巡らせていたのだが、しかし、妹のティティルナは、続きのオデールの言葉で簡単に靡いてしまうのであった。
「あぁ、そうだ。そう言えば登録魔導士にはマナポーションが毎月国から支給されますよ。貴女たちにとって、悪い話じゃないでしょう?」
マナポーション。飲むと体内魔力が回復するそれは、魔力量がまだまだ少ないティティルナたちにとって、とても欲しい物であったのでティティルナはこの魅力的な話に思わず「魔導士登録します!」と言いそうになったのだ。
しかし慎重なティルミオは、そんな妹を制してオデールとの話を続けたのだった。
ティティルナに魔導士として国に登録するように勧めたオデールの意図の一つは、そうしないと上に合理的な説明が出来ないからだった。
そもそも、彼がカーステン商店を訪ねた理由が、出所不明の安い上質紙がどこでどうやって作られたかを調査する事なので、違法性が無いことを説明するには、ティティルナが錬金術を使える事は絶対に明かす必要があったのだ。
「説明が出来ないとどうなるのですか?」
「やましい事があると判断されて、捕まります。」
ふと、ティルミオが疑問に思った事を口にすると、実にしれっとオデールが恐ろしい事を言ってのけたので、兄妹は驚いて言葉に詰まってしまったが、そんな中ミッケだけは相変わらずだった。
「お前、さっきティニャたちは捕まえないって言ったじゃにゃいか!!」
「えぇ。だからお二人を捕まえないで済む為には、ちゃんとした説明をして上を納得させる必要があるのです。」
「捕まえないって言ったのに嘘つきにゃ!やっぱりお前はティニャたちのこと虐めてるにゃ?!」
「いえ、そうではありません。むしろ守りたいんですよ。」
オデールは威嚇してくるミッケを落ち着かせると、自分が何故魔導士登録を勧めるのか続きを話した。
「ティティルナさん達の潔白を上に説明し易くする為に魔導士登録して欲しいのが一番の理由ですが、それ以外にも理由があります。登録すれば地位と利権が得られるからです。」
「地位と利権……?」
「はい。この国に魔法を使える人は多くありません。なので貴重な人材を国が把握して管理したいって意図は有りますが、その代わりに登録魔導士は準貴族に認定されます。そうなれば、今回の様に貴女たちを騙そうとする輩も簡単には近寄らなくなると思います。」
準貴族とは、平民の中で優れた功績を立てた者や、盤石な経済基盤を持っている豪商などに与えられる貴族と平民の中間に位置する身分であり、フィオン達ザイルード家もこれに当たる。
貴族と違って強大な権力が有るわけではないが、それでも準貴族の特権が有れば確かにただの平民よりかは守られる立場になるのだが、しかし、それが本当に自分たちにとって良い事なのか、二人は判断出来ないでいた。
「うーん。悪い奴が寄ってこなくなるって言うけど、こんな子供が準貴族だなんて、余計に利用しようと企む奴が寄ってこないか?」
「そうですね……無いとは言い切れませんが、貴方たちの場合、無知な子供だと思われたからつけ入られたんであって、ちゃんとした肩書きがあれば、変な小物は湧いてこないでしょう。」
「つまり、大物は寄ってくるんだにゃ?」
オデールの説明に兄妹が困惑していると、ミッケが真っ直ぐにオデールを見返してそう言った。この三毛猫は、猫らしく気ままに振る舞っているものの、こういった本質は的確に突いてくるのだ。
けれど、そんな鋭い指摘にもオデールは臆する事なく堂々と答えた。
「そうならない為に、我々役人や衛士が特に目を光らせて貴女たちを守るんですよ。」
そう話すオデールの目は曇り一つなく澄んでいて、これがティルミオ達を騙す為の方便などでは無いことは兄妹も十分に感じ取っていたが、しかしティルミオは、ある事が気になって、オデールに聞き返したのだった。
「それって、つまり日常的に監視されるって事?」
「基本的にはそういう事はしませんが……でも、登録魔導士になると定期的な面談が課せられるので、そこで誰かに騙されてないかとか、道を踏み外していないかとかを確認して、危ないと思ったら然るべき対処がされます。」
ティルミオは、国の管理下に入るというのはつまり自分たちが監視されるのでは無いかという懸念をオデールにぶつけたが、しかし、オデールからの説明はどこか曖昧でティルミオはすんなりと受け入れられなかった。然るべき対処がなんなのか気になったし、結局は監視されているような物では無いかと感じたのだ。
だからティルミオは疑いの目を持ったまま、考えを巡らせていたのだが、しかし、妹のティティルナは、続きのオデールの言葉で簡単に靡いてしまうのであった。
「あぁ、そうだ。そう言えば登録魔導士にはマナポーションが毎月国から支給されますよ。貴女たちにとって、悪い話じゃないでしょう?」
マナポーション。飲むと体内魔力が回復するそれは、魔力量がまだまだ少ないティティルナたちにとって、とても欲しい物であったのでティティルナはこの魅力的な話に思わず「魔導士登録します!」と言いそうになったのだ。
しかし慎重なティルミオは、そんな妹を制してオデールとの話を続けたのだった。
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