上 下
50 / 116

48. 来客は続く

しおりを挟む
 話を終えてフィオンが帰ると、ティティルナはいつも通りにお店を開店させた。

「ティニャ、大丈夫にゃ?アイツにいじめられて元気を無くしてにゃいか?」
「あれは虐められた訳じゃ無いのよ。フィオンさんは私たちの為に注意しに来てくれたのだから。」

 朝から思いもよらぬ事でフィオンに注意されて、少し凹んでしまった事は事実だが、気を取り直して、元気よく、ティティルナは今日も仕事を始めたのだった。

 そして、お昼を過ぎて客足もまばらになった頃、がらんとした店内でミッケと少し遅い昼食を食べていると、朝と同じ様に、見知った顔……今度は兄妹を気に掛けてくれている役人オデール・サーヴォルトがカーステン商店に兄妹を訪ねにやって来たのだった。

 その急な来訪は、あまり良い理由では無いなとティティルナは瞬時に感じ取った。何故なら、彼は先程のフィオンと同じ様な難しい顔をしていたのだ。

「こんにちは、ティティルナさん。今日は貴方お一人なんですか?」
「こんにちは、サーヴォルトさん。えぇ、お兄ちゃんはギルドの仕事に行っているわ。」
「ティルミオ君は冒険者として順調なんですか?」
「えぇ。それはもう大順調です!」

 大順調はちょっと言い過ぎではあったが、実際ティルミオは、ジェラミーと一緒に毎日仕事をして、すっかりとこの街の冒険者として馴染んでいたのだ。

「そうですか、それは良かった。ところでティルミオ君はいつ頃帰って来ますか?」
「えぇっと、いつも通りなら、もう少ししたら帰ってくると思いますけど……」
「そうですか、では中で待たせて頂いても宜しいでしょうか?」
「えっ?あ、はい。」

 ティティルナは何か良くない事がこれから起こるのだろうと胸がざわつく思いがしたが、流石に断われるはずも無く、オデールに椅子に座って待つように勧めた。

「……」
「……」

 店内は気まずい沈黙が流れた。

「あの、サーヴォルトさんは何か用事があってここに来たんですよね?それってお兄ちゃんも居た方が良い話なんでしょうか?」
「そうですね、出来れば二人に聞いてもらいたいですね。」
「そう……ですよねぇ……」

 店内の重苦しい空気にミッケも落ち着かなく尻尾をパタパタしていたが、不安そうにこちらを見るティティルナに気付くと、その身を擦り寄せて、彼女の不安を和らげようと努めた。今はオデールが側にいるから喋ることが出来無いので、ミッケに出来る事と言ったらこれくらいなのだ。

(お兄ちゃん早く帰って来てくれないかな……)

 そしてティティルナは、ミッケを撫でて心細い気持ちを誤魔化しながら、ティルミオがいつもより早く帰ってくる事を祈ったのだった。


***


 結局、ティルミオがギルドの仕事を終えて帰ってきたのは、オデールが店にやって来てから一刻程経った頃だった。

 彼は帰宅するや否や店にオデールがいる事に驚いたが、店内に漂う何か重苦しい空気を感じ取って、何となく、自分たちにとって良くない話があるのだろうなと察した。

「こんにちは、サーヴォルトさん。何か、あったんですか?」
「こんにちは、ティルミオ君。そうですね、ちょっと君たちにお話があって、君の帰りを待たせて貰いました。」

 そう言って席を立って出迎えるオデールに対して、ティルミオは直立不動で身構えてしまった。この前のアーヴァイン商会長の件があるから、予期せぬ来客にはどうしても警戒してしまうのだ。

 けれども、このまま立っていても話が進まないので、ティルミオは気は進まなかったが腹を括って、妹と一緒にオデールの前に向き合って座ったのだった。

「昨日、商業ギルドでいざこざがあったのはご存知ですか?」
「いや……」

 兄妹が揃うと、オデールは難しい顔のまま、早速本題を切り出してきたのだが、開店前のフィオンとのやり取りを知らないティルミオは、当然、何のことを話しているのかが分からなかった。

 けれどもティティルナは、フィオンから事前に話を聞いていた為に、オデールが何を言おうとしているかを察したので、まだ何も事情を知らない兄を遮って、彼女が変わりに会話を進めた。

「もしかして……紙の件ですか……?」
「ええ、そうです。昨日、印刷所に大量の上質な白紙が持ち込まれて破格の値段で売られたのですが、余りに不自然な点が多かったので、なにか不正があったのでは無いかと役人が呼ばれたのです。それで売主を問いただしたら、この店で更に破格の値段で買ったと言ったんですよ。」

 寝耳に水の話であったが、心当たりがあり過ぎる為、ティルミオはチラリと横目で妹の表情を伺がった。

 するとティティルナは、あっという顔をすると、直ぐにオデールに対して深々と頭を下げて、謝罪の言葉を口にしたのだった。

「その件は本当にごめんなさい。さっきフィオンさん……あ、商会長の息子さんなんだけど、その人からも注意を受けたわ。だから次からは相場を崩さないように気をつけます。」
「それもそうなんですが、いや、私が言いたいのはそういう事ではなくてですね……」

 そう言うとオデールは言葉を切って一つ溜息を吐くと、とても深刻そうな顔で話を続けた。

「貴女たち、悪い大人に騙されたんですよ!」
「「えっ??」」

 兄妹は、てっきり自分たちは責められるものだと覚悟して身構えていたのだが、オデールの口からは全くの予想外な言葉が出てきたので、ティルミオとティティルナはその意味を即座に理解できずにキョトンとした顔をしてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したけど平民でした!もふもふ達と楽しく暮らす予定です。

まゆら
ファンタジー
回収が出来ていないフラグがある中、一応完結しているというツッコミどころ満載な初めて書いたファンタジー小説です。 温かい気持ちでお読み頂けたら幸い至極であります。 異世界に転生したのはいいけど悪役令嬢とかヒロインとかになれなかった私。平民でチートもないらしい‥どうやったら楽しく異世界で暮らせますか? 魔力があるかはわかりませんが何故か神様から守護獣が遣わされたようです。 平民なんですがもしかして私って聖女候補? 脳筋美女と愛猫が繰り広げる行きあたりばったりファンタジー!なのか? 常に何処かで大食いバトルが開催中! 登場人物ほぼ甘党! ファンタジー要素薄め!?かもしれない? 母ミレディアが実は隣国出身の聖女だとわかったので、私も聖女にならないか?とお誘いがくるとか、こないとか‥ ◇◇◇◇ 現在、ジュビア王国とアーライ神国のお話を見やすくなるよう改稿しております。 しばらくは、桜庵のお話が中心となりますが影の薄いヒロインを忘れないで下さい! 転生もふもふのスピンオフ! アーライ神国のお話は、国外に追放された聖女は隣国で… 母ミレディアの娘時代のお話は、婚約破棄され国外追放になった姫は最強冒険者になり転生者の嫁になり溺愛される こちらもよろしくお願いします。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

幼女エルフの自由旅

たまち。
ファンタジー
突然見知らぬ土地にいた私、生駒 縁-イコマ ユカリ- どうやら地球とは違う星にある地は身体に合わず、数日待たずして死んでしまった 自称神が言うにはエルフに生まれ変えてくれるらしいが…… 私の本当の記憶って? ちょっと言ってる意味が分からないんですけど 次々と湧いて出てくる問題をちょっぴり……だいぶ思考回路のズレた幼女エルフが何となく捌いていく ※題名、内容紹介変更しました 《旧題:エルフの虹人はGの価値を求む》 ※文章修正しています。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【10話完結】 後妻になりました後継者に、女の子の扱いを授業しています。

BBやっこ
恋愛
親子仲はまあまあでしょうか? 元は娼館に居た女。お客だった貴族から後妻にと望まれた。 迷ったが、本当に出ていくことを決める。 彼の家に行くと、そこには後継者として育てられているお子様がいて?

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...