三毛猫ミッケの贈り物〜借金返済の為に兄妹で錬金術始めました〜

石月 和花

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33. ジェラミーは良い奴

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 一通りのレクチャーが終わると、今度はジェラミーはティルミオの為に彼が出来そうな依頼を選んでいた。

「今のティルミオが出来そうな仕事は……そうだな、初歩の初歩だからこの辺りかな。」

 そう言って彼は、沢山の依頼書の中から見つけた蒼生草という薬草を二十本の納品する採取クエストの依頼書を、掲示板から剥がしてティルミオに手渡した。

「薬草の採取か。これなら確かに俺でも出来そうだ。」
「あぁ、蒼生草は森といっても街道に近い場所に良く生えているから比較的安全に見つけられるはずだ。街道沿いは魔物も滅多に出ない場所だから安心して取り組めると思うぞ。」

 ジェラミーの説明を聞いてティルミオは納得すると、初めて受ける依頼書を手に、意気揚々と受付で手続きを済ませた。
 これで、クエストを受注出来たのだ。

 そんな冒険者としての初めの一歩を踏み出して気持ちが昂揚しているティルミオの様子を見守っていたジェラミーは、これで何とか冒険者としてやっていけるだろうと判断して、最後に彼に激励の言葉を投げかけたのだった。

「ま、後は一人で頑張ってな。初めは上手くいかないこともあるだろうけど、検討を祈るよ。」

 そう言ってジェラミーはこの場を去ろうとしたのだが、しかし、ティルミオはそれを許さなかった。彼は慌ててジェラミーの腕を引っ張ると、この場に引き留めたのだ。

「えっ?!待って、一緒にやってくれるんじゃ無いのか?!この流れなら普通一緒にやるだろう?!」

 そう、ティルミオはこんなに親切にしてくれるのだから、当然最初の依頼はジェラミーも一緒にやってくれるものだと思っていたのだが、けれども、ジェレミーの考えは違ったのだ。

「……そこまで面倒見るのはなぁ……それにその依頼は二人でやるもんじゃないよ。報酬の額見てみろよ。こっちも生活かかってるんだから。俺はもっと実入りの良い依頼を受けるよ。」
「そこを何とか!最初なんだし!!」
「そんなこと言ったって、この依頼を二人でやったら稼ぎが悪いぞ?お前は金を稼ぎたいんだろ?!」
「うっ……それは、そうだけど……」

 ジェラミーにそう言われて、ティルミオは言葉に詰まってしまった。確かに彼の言うことは正論で、採取クエストの報酬は安く、二人で受けたら一人当たりが大した額にならないのだ。

 しかし、それでもやはりティルミオは慎重な性格だったので、初めてのクエストは、ジェラミーに一緒にやって欲しかった。

 だから彼はしつこく食い下がって、ジェラミーにお願いを続けたのだった。

「頼むよ。いつでも相談に乗るってさっき言ったじゃないか!」
「コレは相談じゃなくて、完全にボランティアだ。オレにメリットが何も無い。ま、何か報酬でもくれるんなら話は別だけどね。」

 必死にお願いをするティルミオに対して、ジェラミーは非常にシビアだった。勿論、手を貸してやりたい気持ちが無いわけではないが、しかし今は手持ちが心許なくガッツリと稼げる討伐依頼を一人で受けたかったのだ。

 だからジェラミーはティルミオに諦めて貰う為に彼にお金が無いことが分かっていて、わざとそんな事を言ったのだ。

 しかしティルミオは、諦めるどころかジェラミーのこの発言で、ある事を思い付いたのだった。

「分かった、それじゃあ……」

 そう言ってティルミオはゴソゴソと自分の鞄の中を漁ると、布包を取り出してジェラミーに差し出したのだ。

「……この丸パン二個で、一緒に依頼をやってくれないだろうか。」
「お前たち兄妹思考が同じだな?!パン二個でどうにか出来ると本気で思ってるのか?!」

 ジェラミーは、昨日丸パン二個で店番をやらされた事を思い出して、思わず突っ込まずにはいられなかった。

「う……けれども今あげられる物ってこれしか無いんだよ。」

 ティルミオは申し訳なさそうにそう言うと、ジェラミーに向かってパンを差し出したまま頭を下げた。

「頼む!この通りだ!」

 そして、そんなティルミオの必死な様子に根負けして、結局ジェラミーは彼のお願いを受け入れる事にしたのだった。

「……仕方ねぇな……今日だけだからな!」

 そう言ってジェラミーはため息を吐くと、ティルミオから丸パン一個を受け取ってそれを頬張った。食べたからにはお願いを聞いてあげるしか無いのだ。

「丁度朝飯食ってなかったからな。このパン一個で仕方ないから付き合ってやるよ。うん、やっぱりお前ん家のパンは美味いな。」
「有難う!一個でいいのか?もう一個あるぞ?」
「だってこれお前の昼飯なんだろう?腹を空かせてたら仕事にならないからな。それはお前の分だよ。」

 そうしてジェラミーは、丸パン一個を食べ終えると、ティルミオを引き連れて蒼生草の採取地へと向かったのだった。

 とにかく、ジェラミーという若者は、とんでもなく良い奴だったのだ。
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