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27. フィオンのお説教2

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「さて。じゃあティオ、じっくり話をしようじゃないか。」

 そう言ってニッコリと笑うフィオンの前で、ティルミオはヘビに睨まれたカエルのように微動だにせずに固まっていた。

 この後の展開は読めている。フィオンが理詰めの正論でガンガン殴ってくるのだ。彼は怒ると怖いのだ。ティルミオはそれを良く知っているので覚悟を持ってフィオンからの言葉に備えた。

「まず、パン屋からよろず屋の件はまぁ良い。スルーしてあげよう。でも冒険者になるって何かな?君は両親の後を継いでパン職人になるんじゃないの?」

 フィオンは、その美しい顔で微笑みを携えながら無言の圧でティルミオの顔をじっと見つめているが、見つめられた方のティルミオはたまったもんじゃない。彼は内心冷や汗をダラダラかきながら、慎重に言葉を選んでフィオンの問いに答えた。

「……今はティナも作れるよ。俺が分量とかを教えたから。」
「なんだって?!それじゃあ君はパン作りもティナにやらせてるのか?!その上店番もティナにさせて……ティオ、君は妹に頼りすぎじゃないか?!」
「う……それは、ティナと俺とでは出来る事が違うから。後、店の売り上げだけではどうしても稼ぎが足りなくって、だから俺は別で稼がないと……」

 フィオンの追及にティルミオはしどろもどろに答えたが、彼はどうやら回答を間違えてしまったらしい。
 ティルミオの曖昧な説明に、フィオンだけでなく横で聞いていたフィオネまでが、ティルミオに集中砲火を浴びせてきたのだ。

「まぁ、それで冒険者なんですの?短絡的過ぎません?誰でもなれるけれども、適性がない人は結局何も出来ずに落ちぶれるだけですわ。」
「そうだよ。ティオは運動神経は良い方だとは思うけど、剣術とか弓術とか武芸は何も身に付けていないだろう?そんなんでいきなり冒険者だなんて浅はかだよ。」
「本当ですわ。それに慣れないことをして怪我でもしたらどうするんですの?ティナに迷惑をかけるのは止めて欲しいわ。」
「それから、例え冒険者として仕事を請負ったとしてもそんな簡単に稼げる訳無いよね。ティオは考えが甘すぎるんじゃ無いかな?」

 フィオンとフィオネのティルミオに対するダメ出しは、矢継ぎ早に繰り出されてくる。
 その容赦のない口撃にティルミオは反論する余裕もなくただ一身に受け止めていたが、しかし、そんな兄を可哀想に思ってか、ティティルナが熱くなっているザイルード兄妹に制止の声を掛けたのだった。

「フィオンさん、フィオネ、お兄ちゃん泣いちゃうからその辺にしておいて。」
「泣かないわっ!!」

 ティティルナのどこかズレた仲裁にティルミオは即座にツッコミを入れたが、それはそれとして、彼は神妙な顔でフィオンたちから言われた事を噛み締めて、自分に出来ることについて考えを巡らせた。

「でも、本当に二人の言う通りだよ。今の現状はティナにばっか負担になってるよな。だから、俺も一日でも早く冒険者として安定した収入が得られるように頑張るよ!」

 彼は、自分なりに考えてその結論に辿り着いた。
 だからティルミオは、胸を張って堂々その決意を宣言したのだが、しかし、フィオンは腑に落ちないと言う顔をして、ティルミオに更に質問を投げかけたのだった。

「いや……だからさっきから気になってたんだけど、それなら何故、ティオはパンを焼かない?ティオがパンを焼いてティナが店番する。これができない理由があるのか?」

「それは……」
 
 フィオンからのもっともな疑問にティルミオは言葉に詰まった。
 オーブンが無いので、ティナの錬金術じゃ無いとパンが焼けないのだけれども、勿論そんなことは言える訳がないのだ。

 咄嗟に上手い言い訳が浮かばずにティルミオが黙ってしまっていると、そんな兄を思い遣って、ティティルナが横から助け舟を出したのだった。

「それは、私たちがとっても仲が悪いからです!」

 果たしてこの言い訳が正解だったかは分からないが、兄妹が一緒に仕事をしない事のそれらしい理由は、コレしか思いつかなかったのだ。
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