上 下
28 / 115

26. フィオンのお説教1

しおりを挟む
 顔は笑っているけど目は全く笑っていないフィオンは、お説教モードでカーステン兄妹の前に立ちはだかっていた。

「えっと、そうだね。どっちから話そうかな?」

 そう言ってフィオンはティルミオとティティルナを見比べると、ティティルナの方を向いて彼女に声をかけた。

「じゃあ先ずはティナから。アカデミーを辞めるのは僕も反対だ。君の為にならないよ。」

 フィオンはなるだけ優しい声で、ティルミオと同じようにティティルナにアカデミーを辞めないようにと苦言を呈した。
 しかし、フィオンに諭されても、それ位ではティティルナの意見は変わらなかった。

「でもフィオンさん、昼間はお店を開けないといけないの。私も働かないと税金も納められないわ。」

 彼女の中では自分が学ぶ事よりお店を開けてお金を稼ぐ事の方が絶対なのだ。

 けれどもフィオンは、これ位ではティティルナの態度が変わらない事は予測済みで、気にせずに話を続けた。

「……お金の稼ぎ方については、ティオにも言いたい事があるけど、それはまぁ後にするとして、どうしてもティナが昼間に店番をしないといけないとしても、だからと言ってアカデミーを辞めるのは良く無いよ。」
「でもっ……」

 途中で口を挟もうとするティティルナを手で制しながら、フィオンは言葉を続けた。

「ティナ、話は最後まで聞きなさい。アカデミー辞めるんじゃなくて、休学でどうだろうか?だって後半年も通えば卒業だろう?辞めてしまうのは勿体無いよ。」
「休学……?」
「うん。休学。それか夜間クラスっていうのもあるんだよ。ティナみたいに様々な事情があって昼間アカデミーに通えなかった人が学ぶ場所があるんだ。まぁ夜間クラスは通常より授業時間が短いから、その分卒業までに長くかかってしまうけど。」

 アカデミーを辞めるしか選択肢がないと思い込んでいたティティルナにとって、このフィオンの提案は、全くもって思ってもみない事だった。いや、そもそもそういった制度がある事さえ知らなかったのだ。

「そ……そうなんだ。……出来るんだ。そういうことも。」
「そう、出来るんだよ、そういう事も。」

 フィオンはニッコリと笑って、意思が揺らいだティティルナに対して畳み掛けた。

「ね?ティナが昼間お店を開けて働いたとしても、アカデミーを辞めないで良い方法があるんだよ。だからアカデミーを辞めるだなんて言わないでさ、他の方法を検討しようよ。」
「そうだよティナ、フィオンの言う通りだよ。アカデミーは辞めるんじゃないよ!」

 妹には何としてもアカデミーを卒業して貰いたいティルミオも力強くフィオンの提案を後押しした事もあって、ティティルナは遂に二人の説得の前に折れたのだった。

「うん、分かったよ。休学か、夜間クラスか、どういう形にしろアカデミーは辞めないで頑張るよ。」

 考えを変えたティティルナのこの宣言に、ティルミオもフィオンも安堵していた。

 アカデミーの卒業資格があると無いとでは、就ける職業に制限があるのだ。

 この先、ティティルナがカーステン商店以外の仕事をしたくなるかは分からないが、もしそうなった時に彼女が選択に困らないようにと二人の兄たちはティティルナの未来を案じていたので、彼女のこの決断にホッと胸を撫で下ろしたのだった。

 しかし、このティティルナの決断を歓迎しない者がこの場に一人だけ居たのだ。

「私は認めないわ!休学だの、夜間クラスだの、そんなの逃げだわ!!」

 今まで黙って話を聞いていたフィオナが、泣きそうな顔でそう叫んだのだ。

 突然の事に、ティルミオもティティルナも呆気に取られて言葉なくフィオネの方を見つめて戸惑ってしまった。
 フィオネにそんな事を何故言われなくてはいけないのかが分からないのだ。

 しかし、流石は実の兄である。フィオンには妹の思っている事が直ぐに分かったので、彼はフィオネの頭をポンポンと叩くと彼女の気持ちを代弁して宥めたのだった。

「うーん、フィオネ。ティナと一緒に学ぶ事が出来なくなるのが残念なのは分かるけど、でも話がややこしくなるから今はちょっと黙ってようか。」

 そうなのだ。フィオネはティティルナと一緒に卒業が出来ないのが嫌だったのだが、それを素直に口にする事が出来ずに、あんな捻くれた感じの駄々をこねたのだ。

 フィオンは妹のことが可愛いので、フィオネの気持ちは大切にしてやりたかったのだが、でも今は黙っていて貰う事にした。そうしないと話が一向にまとまらず先に進まないから。

 だからフィオンは妹を言い含めて黙らせると、ティティルナとの話題はこれで終わりにして、今度はティルミオの方に向き合ったのだった。

「で、次はティオなんだけど……覚悟はいいかな?」

 そう言ってフィオンは笑ってない目でニッコリと笑った。

 今迄は前哨戦に過ぎなくて、ここからがお説教の本番なのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...