三毛猫ミッケの贈り物〜借金返済の為に兄妹で錬金術始めました〜

石月 和花

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22. 代理の店番

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「……しっかし不思議な猫だなぁ。丸で人間の言葉が分かってるみたいだな、お前。」

 ティティルナに頼まれて、若者は店番を引き受けたが、客が来ないければ特にやることは無くて暇だった。

 だから若者は、暇を持て余してレジ横に居るミッケを構おうと、その頭の上に手を伸ばして撫でようとしたのだが、しかし、ミッケはそれを許さなかった。

「フシャァ!!」

 伸びてきた手を爪を立ててバシッと叩くと、全身全霊で拒否したのだ。

 ミッケは、ニンゲンに撫でられる事は好きであった。たまに撫で方が物凄く下手なニンゲンも居たが、それでも、人にチヤホヤされるのが好きだったのだ。

 けれども、コイツに撫でられるのだけは許さなかった。なにせミッケからしてみたら、コイツは勝手にパンを食べた悪い奴だから。

「うーん、相当嫌われたなぁ。まぁ、仕方ないけど。」

 そんな若者の独り言にも、ミッケはそっぽを向いて取り合わなかった。

 そうこうしていると、お客さんが一人、また一人と来店して、若者は意外にも真面目に接客をしていた。
 側にいるミッケも、「にゃあん」と猫撫で声で鳴いて、お客さんに愛嬌を振り撒いている。

 表の店の若者の声とミッケの声を聞きながら、ティティルナは裏でうとうとと微睡んでいた。
 これなら、彼らに店を任せて自分は魔力の回復に専念できそうだと、安心して深く眠りに付こうとしたのだが、しかし、それは叶わなかった。

 表から、驚いている人の声が聞こえてきたのだ。

「えっ?!誰っ?!!」

 その声を聞いて、ティティルナは自分の立てていた予定が崩れ去った事を察した。

(あー……帰ってきちゃったか……)

 兄ティルミオが帰宅してしまったのだ。

 ティティルナは、彼が帰ってくるまでの間に何とか体調を回復して、彼に自分がまた魔力切れを起こした事を隠したかったのだが、どうやらその計画は失敗に終わってしまった。


***

 遡る事少し前、ギルドに出向いて冒険者としてのライセンス登録を終えたティルミオは、急いで家に帰っていた。

 ミッケが居るとはいえ、再開初日の店を妹一人に任せてしまった事が不安だったのだ。

 ティティルナの性格なら、絶対にまた、無理をしてしまっているかもしれない。ミッケが上手く止められたのなら良いが……

 そんな不安から、とにかくティルミオは帰宅を急いだ。



 カラン、コロン

 店の扉を開けると、その瞬間ティルミオの思考は止まってしまった。

 何故なら彼の目に飛び込んできたのは、全く見ず知らずの他人が店番をしている姿だったのだ。驚かない訳がなかった。

「えっ?!誰っ?!!」

 咄嗟のことで、ティルミオは思わず思ったことをそのまま声に出してしまったが、そんな彼の驚く様を怪訝に思いながらも、若者はお決まり通りの接客を続けた。

「……いらっしゃいませ?」
「えっ、いや、いらっしゃいませじゃなくって、あんた誰?!!」

 一体どういう状況なのか全く分からずにティルミオが入り口の所で面食らって立っていると、ミッケが彼の足元に素早く駆け寄って、身体を擦り寄せて甘えるような声で鳴いてティルミオの気を引こうと頑張っていた。

「にゃあ。にゃーん」

 事情を説明したくても、この若者の前では言葉が喋れないのだ。だからミッケはとにかくティルミオを落ち着かせようと、猫として出来る範囲で必死に宥めたのだ。

「誰って言われても……」

 けれども、困惑しているのは若者の方も同じだった。彼にしてみたら、急に入ってきた客に誰だ?!といきなり凄まれたんだから、訳が分からない。

 すると、ティルミオの声を聞いて、奥からヨロヨロとティティルナが顔を出したのだった。

「お兄ちゃん、おかえり……」

 そんな具合の悪そうな妹の姿を見て、ティルミオは自分の不安は的中していたのだと瞬時に察した。ティティルナは、やっぱり無理をして錬金術を使ってしまっていたのだ。

「お前、あれほど約束したのに、無理したな?!駄目じゃ無いか!」
「う……ごめんなさい。イケると思ったんだ……」
「ごめんじゃ無いだろう?!小さな子供じゃ無いんだから、自分の体調は自分で管理しないと。」

 ティルミオは約束を破って無理をして魔力切れを起こした妹を厳しく戒めた。
 そうして兄に叱られたティティルナは、返す言葉も無く、シュンと縮こまって素直に反省したのだった。

 それからティルミオは足元でしおらしくして居るミッケに視線を向けると、こちらに対してもちゃんとティティルナを止めなかった事について一言物申そうとしたのだが、しかし、寸前の所で彼は言葉を飲み込んだ。

 この場に、第三者である見知らぬ若者が居るのを思い出したのだ。

「あ、えーっと、……それで貴方は一体?」

 彼の存在を思い出して、ティルミオは少し気まずそうに、それでいて先程とは打って変わって冷静に、この第三者である見知らぬ若者に、その素性を訊ねたのだった。
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