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13. 説得

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「あの……良いですか?」

 今まで黙ってティルミオとティティルナを見守っていたオデールが、二人のやり取りが終わりそうにないのに痺れを切らして声を上げたのだ。

「お話が纏まっていないようでしたら、今日はこれで引き上げます。もう一度お二人で良く話し合って決めて下さいね。税金も払えていないような状況では、私個人の意見を言えば、店を続けるより、畳む方が、傷は浅く済むと思いますよ。それに、素人がいきなり冒険者になるのも感心いたしません。そこは妹さんの意見と同じです。」

 オデールはあくまでも冷静にティルミオに再考を促した。彼からしてみたら、この少年は自分が無理をしてでも両親が残した店を守りたくて、無謀な事をしようとしているとしか見えなかったのだ。

「いえ、話は纏まってます。大丈夫です。」
「とても妹さんは納得しているようには見えませんが……」

 無理を通そうとするティルミオに対して、オデールは彼を嗜めるとチラリとティティルナの方を見た。彼女は、不安そうな顔でずっと兄を見つめているのだ。
 
 そんなオデールの視線から、彼が言わんとしている事を察すると、ティルミオは再度ティティルナと向き合って、彼女に納得して貰えるように、なるだけ優しい声で、彼女の目を見て、真剣にその想いを説明した。

「ティナ、俺、昨日夜に考えたんだ。ティナがパンを売っている間に俺も他の方法でお金を稼げないかって。それが冒険者という結論だった。絶対に危険な事はしないと約束するから、だからティナ、二人でそれぞれのやり方で頑張ろう?」
「……お兄ちゃんが、そこまで言うなら……」

 ティルミオの説得にティティルナは渋々と言った感じで納得した。
 勿論、兄が冒険者になるという不安は拭えていなかったが、今の現状で役人であるオデールにお店を継続する事を認めて貰うには、二人の意見が一致していないとダメだと言うのは即座に理解したので、ティルミオとは後でじっくりと話し合うことにして、ティティルナは空気を読んで、ここは一先ず兄の考えに賛同したのだった。

「ね?ほら、俺たちの考えは纏まりました。だからオデールさん、お店を続けさせて下さい。」
「お願いします。」

 兄妹は再び二人揃ってオデールに深く頭を下げた。

 そんな彼らの意思の固さを目の当たりにして、オデールは思わず深いため息を吐きそうになったが、なんとかそれを飲み込んで、努めて冷静に大人として無謀な考えの子供たちを諭す様に説得を続けた。

「しかし現実はそう甘くありません。冒険者登録したからといって、必ずしも割りの良い仕事があるとは限らないのですよ?その様な時は一体どうするおつもりですか?身の丈以上の依頼に手を出すのですか?」

「勿論、無茶はしません。自分に無理の無い範囲しか依頼を受けません。自分が平凡な人間であると身の程は弁えているから、過信して出来もしない依頼を受けるなんて馬鹿な真似はしないです。大丈夫です。」

「しかしそれでは、稼げる額は限られる。貴方たちの生活費を稼ぐのがやっとでしょう。いつまで経っても借金も返せないし税金も納められないのでは?」

「でも、一ヶ月……税金の支払いにはまだ一ヶ月猶予がありますよね?」
「え、えぇ。そうですね、最終期日は一ヶ月後ですね。」

 それをオデールの口から確認すると、ティルミオは一気に畳み掛けた。

「なら、一ヶ月間チャンスを下さい。俺が冒険者になって、妹がこの店でパンを焼いて売って、それでキッチリと税金を全額納めてみせますから。自分たちが、借金も返していけるって証明して見せます!」

 ティルミオはオデールの目を見てそう言い切った。その瞳は真っ直ぐで力強く輝いていて、彼の決意の強さが嫌と言うほど伝わって来た。そしてその隣では妹のティティルナもまた、真剣な眼差しをオデールに向けていたのだ。

 二人の強い意志を感じとったオデールは、これはもう、これ以上何を言ってもこの子たちは考えを変えないだろうと察して、説得を諦めたのだった。

「……分かりました。私はただの役人ですので、これ以上は何も言いません。貴方たちの思う方法を見守りましょう。」

「「ありがとうございます!!」」

「ただし、猶予は一ヶ月だけですよ。一ヶ月後に税金を納められなかったら、その時は強制差し押えになって、この店で自体を取り上げなくてはならなくなります。……そうならない事を願いますよ。」

「はい、分かってます。絶対に一ヶ月後に税金を納めますから、大丈夫です!」

 オデールからの忠告に、ティルミオは力強く返事をした。

 これでまず、昨日想定していた課題の一つ、”お店の継続を役人がに納得して貰う”が達成できたのだった。
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