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7. 第一回カーステン家会議
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暫くの間ティルミオは、泣きじゃくるティティルナの背中を、彼女が落ち着くようにと優しく摩り続けた。
「ティニャ、泣かにゃいで。我が居るにゃ!ティオも居るにゃ!」
ミッケもオロオロと忙しなくティティルナの前を行ったり来たりして、その身体を擦り付けたり、手の甲をペロペロしたり、猫らしく彼女を慰めようとした。
こうして、一人と一匹で懸命にティティルナを慰めて、やっと彼女は落ち着きを取り戻したのだった。
「……うん、有り難うお兄ちゃん、ミッケ。ちょっと寂しくなっちゃっただけだよ。もう大丈夫。しっかりするよ。」
「……無理しなくていいんだぞ。」
「ううん、大丈夫。お父さんもお母さんももう居ないんだもん……これからは、二人で頑張らないとね。」
ティティルナは涙を拭って前を向いた。しかし、そんな彼女の決意表明に、抗議の声が上がったのだった。
「我も居るにゃっ!!」
数にカウントされなかったミッケが、不服だとばかりに不機嫌な声を上げたのだ。
「ごめんごめん、そうだね。二人と一匹で頑張ろうね。」
ティティルナは拗ねているミッケを抱き上げて頬擦りすると、改めて決意を言い直してふわりと柔らかく笑った。
両親を失った悲しみは勿論まだ胸に残るけれども、この二人と一匹ならきっとその悲しみも乗り越えられると、自然とそう思えたのだった。
妹の様子が落ち着いたのを確認すると、ティルミオは手を大きくパンパンッと叩いてティティルナとミッケの注目を集めた。
しんみりするのも悪く無いが、しかし、彼には今すぐに話し合わなければいけない話題があったのだ。
「よし、ティナも落ち着いた事だし、それじゃあ第一回カーステン家会議を開催するよ!」
「えっ……お兄ちゃん唐突……」
「そうにゃ、ここはもっと余韻を大事にするところにゃ。」
「そうは言ってもね……」
突然の兄の宣言にティティルナとミッケは戸惑った。けれども、これは今夜の内に話し合っておかなければならない大事な事だったのだ。
ティルミオは真面目な顔をして二人に説明を始めた。
「明日の朝に役人が来る事になってるんだ。もう夜も遅い時間だし、早めに決めておかないといけない事を話し合わないと。」
「例えば何にゃ?」
「先ず、店を続けるかどうか。」
「そんなの続けるに決まってるわ!パンが作れるようになったんだもの。」
兄の問いに、ティティルナは驚いたように強く意見した。両親のパンが再現出来たのに、お店を辞める理由など無いからだ。
そして、その考えはどうやらティルミオも同じだった。
「あぁ。そうだな。それについては俺も異論はない。だけれども、明日役人は、うちの店の廃業手続きに来る事になってるんだ。さて、急に考えを変えた事をなんて言い訳しよう?」
そうなのだ。両親が死んだ時に滞納している税金について役人に相談をしたら、兄妹にはその支払い能力が無いと判断されて、店を廃業する道を勧められていたのだ。
その時は、確かにそうする事がベストだと思っていた。けれども、今は違う。今、二人には錬金術という新たな力があるのだ。
「やっぱりお店辞めるのを止めます。じゃダメにゃのか??」
「具体的な理由が無いと怪しまれるだろうし、ちゃんと収益を上げて税金が納められるって見込みを示さないと、このまま廃業を勧められると思うよ。」
「そうにゃのか。ニンゲンって面倒くさいにゃあ……」
ティルミオの説明を聞いて、ミッケは不満げに呟いた。猫には人間社会のルールは中々理解し難かった。
「はい!じゃあ普通に錬金術でパン屋をやっていきますって説明じゃダメなの?」
今度はティティルナが、会議らしく手を挙げて発言をした。するとティルミオは、その質問を待ち構えてたかのように、勢いよく発言を返したのだった。
「そう、そこ!そこなんだよっ!!」
ティルミオが急に大きな声を出したので、ティティルナもミッケも驚いて目を丸くしたが、そんな彼女らの様子には構わずに、彼は少し声を落として話を続けた。
「……ティナが錬金術を使えるようになったって事は、他人にバレても良いと思うか?俺はそうは思わないんだよ。」
これは、兄として妹を心配しての事だった。ただでさえ贈り物持ち自体が珍しいのに、錬金術なんてレア中のレアな贈り物なのだ。もしもティティルナが錬金術が使える事が世間に知れ渡れば、きっと彼女を利用しようとする悪い輩が現れるに違いないと思ったのだ。
「確かににゃ……用心するに越したことはにゃいにゃ……」
ティルミオの意見にミッケも同意した。彼女の身を案じる気持ちは同じなのだ。長く生きている分ニンゲンの汚い部分もそれなりに見て来ているのだ。
「うーん。じゃあ、普通に、このまま二人でパンを作って今まで通り売っていきます。でいいんじゃないの?」
「そうだな。オーブンが無いことだけバレないようにしないとな。」
「奥まで入ってくるかな?」
「そこまでは入らないと思うけど、絶対にとは言い切れないな。」
「もしも、奥に行きそうににゃったら、我が引っ掻いて止めるにゃ!我、猫だから多少の事は許されるにゃ!」
「ははっ、そいつは頼もしいな。」
自信満々に自慢の爪を見せながらそう宣言したミッケの頭を、ティルミオは笑いながら撫でた。自分では考えもつかなかったが、その猫らしい発想に感心し、多少何かしらの問題が発生したとしても、この不思議な飼い猫が何とかしてくれるだろうと思うと、ちょっと気持ちが楽になったのだった。
「ティニャ、泣かにゃいで。我が居るにゃ!ティオも居るにゃ!」
ミッケもオロオロと忙しなくティティルナの前を行ったり来たりして、その身体を擦り付けたり、手の甲をペロペロしたり、猫らしく彼女を慰めようとした。
こうして、一人と一匹で懸命にティティルナを慰めて、やっと彼女は落ち着きを取り戻したのだった。
「……うん、有り難うお兄ちゃん、ミッケ。ちょっと寂しくなっちゃっただけだよ。もう大丈夫。しっかりするよ。」
「……無理しなくていいんだぞ。」
「ううん、大丈夫。お父さんもお母さんももう居ないんだもん……これからは、二人で頑張らないとね。」
ティティルナは涙を拭って前を向いた。しかし、そんな彼女の決意表明に、抗議の声が上がったのだった。
「我も居るにゃっ!!」
数にカウントされなかったミッケが、不服だとばかりに不機嫌な声を上げたのだ。
「ごめんごめん、そうだね。二人と一匹で頑張ろうね。」
ティティルナは拗ねているミッケを抱き上げて頬擦りすると、改めて決意を言い直してふわりと柔らかく笑った。
両親を失った悲しみは勿論まだ胸に残るけれども、この二人と一匹ならきっとその悲しみも乗り越えられると、自然とそう思えたのだった。
妹の様子が落ち着いたのを確認すると、ティルミオは手を大きくパンパンッと叩いてティティルナとミッケの注目を集めた。
しんみりするのも悪く無いが、しかし、彼には今すぐに話し合わなければいけない話題があったのだ。
「よし、ティナも落ち着いた事だし、それじゃあ第一回カーステン家会議を開催するよ!」
「えっ……お兄ちゃん唐突……」
「そうにゃ、ここはもっと余韻を大事にするところにゃ。」
「そうは言ってもね……」
突然の兄の宣言にティティルナとミッケは戸惑った。けれども、これは今夜の内に話し合っておかなければならない大事な事だったのだ。
ティルミオは真面目な顔をして二人に説明を始めた。
「明日の朝に役人が来る事になってるんだ。もう夜も遅い時間だし、早めに決めておかないといけない事を話し合わないと。」
「例えば何にゃ?」
「先ず、店を続けるかどうか。」
「そんなの続けるに決まってるわ!パンが作れるようになったんだもの。」
兄の問いに、ティティルナは驚いたように強く意見した。両親のパンが再現出来たのに、お店を辞める理由など無いからだ。
そして、その考えはどうやらティルミオも同じだった。
「あぁ。そうだな。それについては俺も異論はない。だけれども、明日役人は、うちの店の廃業手続きに来る事になってるんだ。さて、急に考えを変えた事をなんて言い訳しよう?」
そうなのだ。両親が死んだ時に滞納している税金について役人に相談をしたら、兄妹にはその支払い能力が無いと判断されて、店を廃業する道を勧められていたのだ。
その時は、確かにそうする事がベストだと思っていた。けれども、今は違う。今、二人には錬金術という新たな力があるのだ。
「やっぱりお店辞めるのを止めます。じゃダメにゃのか??」
「具体的な理由が無いと怪しまれるだろうし、ちゃんと収益を上げて税金が納められるって見込みを示さないと、このまま廃業を勧められると思うよ。」
「そうにゃのか。ニンゲンって面倒くさいにゃあ……」
ティルミオの説明を聞いて、ミッケは不満げに呟いた。猫には人間社会のルールは中々理解し難かった。
「はい!じゃあ普通に錬金術でパン屋をやっていきますって説明じゃダメなの?」
今度はティティルナが、会議らしく手を挙げて発言をした。するとティルミオは、その質問を待ち構えてたかのように、勢いよく発言を返したのだった。
「そう、そこ!そこなんだよっ!!」
ティルミオが急に大きな声を出したので、ティティルナもミッケも驚いて目を丸くしたが、そんな彼女らの様子には構わずに、彼は少し声を落として話を続けた。
「……ティナが錬金術を使えるようになったって事は、他人にバレても良いと思うか?俺はそうは思わないんだよ。」
これは、兄として妹を心配しての事だった。ただでさえ贈り物持ち自体が珍しいのに、錬金術なんてレア中のレアな贈り物なのだ。もしもティティルナが錬金術が使える事が世間に知れ渡れば、きっと彼女を利用しようとする悪い輩が現れるに違いないと思ったのだ。
「確かににゃ……用心するに越したことはにゃいにゃ……」
ティルミオの意見にミッケも同意した。彼女の身を案じる気持ちは同じなのだ。長く生きている分ニンゲンの汚い部分もそれなりに見て来ているのだ。
「うーん。じゃあ、普通に、このまま二人でパンを作って今まで通り売っていきます。でいいんじゃないの?」
「そうだな。オーブンが無いことだけバレないようにしないとな。」
「奥まで入ってくるかな?」
「そこまでは入らないと思うけど、絶対にとは言い切れないな。」
「もしも、奥に行きそうににゃったら、我が引っ掻いて止めるにゃ!我、猫だから多少の事は許されるにゃ!」
「ははっ、そいつは頼もしいな。」
自信満々に自慢の爪を見せながらそう宣言したミッケの頭を、ティルミオは笑いながら撫でた。自分では考えもつかなかったが、その猫らしい発想に感心し、多少何かしらの問題が発生したとしても、この不思議な飼い猫が何とかしてくれるだろうと思うと、ちょっと気持ちが楽になったのだった。
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