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6. 思い出の味

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「……俺、また何も言葉が浮かばなかった……」

 ミッケからの贈り物ギフトを物にした妹とは対照的に、何も贈り物ギフトのきっかけが発動しないティルミオは、苦しそうな顔でそう溢した。

 試しにティルミオもティティルナと同じようにもう一度ミルクの入ったコップを持って彼女と同じ呪文を唱えても、何も起こらないのだ。今のままだと自分は何も出来ない。そう実感してしまい、ティルミオは落ち込んでしまったのだった。

 そんなティルミオの様子に、ティティルナはハッとして、慌てて彼の手を握って、兄を励ました。

「大丈夫だよお兄ちゃん。お兄ちゃんには別の力がきっとあるんだよ!」
「そうにゃ!大丈夫にゃ!元気を出すにゃ!!テオにはテオの贈り物ギフトがきっとあるにゃ!」

 ミッケもティティルナと一緒になって、なんとか懸命にフォローした。

「それにさ、うちのパンのレシピは今はもうお兄ちゃんしか知らないんだよ?私が錬金術使えても、お兄ちゃんの知識が無かったら、結局パン作れないんだよ?」
「そうにゃ!ティオの知識が必要にゃんだにゃ!」
「そうだよ!お兄ちゃん頭良いもんね、私と違って。私の知らない事いっぱい知ってるわ。」
「そうにゃ!それにティオは……えーと、えぇっと……とにかくカッコイイ良いんだから元気だすにゃ!!」
「そうそう、後はえーっと、声が良いって八百屋のおばさんが褒めていたわ!」
「そうにゃ!えーっと、えーっと、隣の茶トラもティオの良い匂いがすると褒めていたにゃ!!」

 ティティルナとミッケは、かわるがわる励ましの言葉を思いつく限り投げかけ続けた。最後の方はだいぶ意味不明な褒め言葉であったが、それでも、そんな二人の必死な様子に絆されて、ティルミオは少しだけ、ふふっと笑ったのだった。

「分かった。悪かったよ、拗ねたりして。……そうだよな、俺は俺に出来ることをやらないとな。」

 そう言うと、彼は自分の両頬をパンッと叩いて気合を入れた。

「よし!次はパンを作ってみるんだろう?父さん達のパンを。じゃあ先ずはバターを用意しないとな。ティナ、もう一回バターを作れるか?」
「作れると思うけど、今作ったのだけじゃ足りなかったの?」
「うちのパンに使うのは無塩バターだよ。父さん達の味を完全に再現するなら、同じ物を使わないとな。」
「そうだったんだ。知らなかった。」

 兄の説明にティティルナが驚いてみせると、ミッケはにゃっと笑ってティルミオに擦り寄った。

「ほらにゃ、やっぱりティオの力が必要なんだにゃ。」
「有り難う、ミッケ。」

 その言葉にティルミオは、少し照れ臭そうにミッケを撫でた。彼は、自分にも出来る事があると実感できて、どこか嬉しそうだった。

 そうして、ティルミオの指示の元パンの材料を全て分量通りに計量し終えて、一纏めにしてボールの中に入れると、ティティルナは兄と飼い猫が見守る中、集中して呪文を唱えたのだった。

生産錬金マニュファルケム

 すると、テーブルの上に置かれたボールが光輝き、次の瞬間その中にはぎっしりと丸パンが詰まっていたのだった。

「やった!丸パンが出来たよお兄ちゃん!!」
「凄っ……一瞬でパンになった……」

 目の前で起こった奇跡に、ティティルナは無邪気に感嘆の声を上げて、ティルミオは思わず唖然とした。まさかこんな簡単に出来るとは思ってもみなかったのだ。

「やったにゃ!大成功にゃ!!お前たち食べてみるにゃ!」
「た、食べれるのかコレ?!食べて平気なのか?!!」
「食べられるに決まってるにゃ。パンの材料からちゃんと作ってるんだからにゃ。」

 ミッケに促されて、二人は恐る恐る錬金術で出来上がった丸パンを手に取った。

 丸パンはふんわりとしていて、持った感じに違和感はなかった。それから食べやすい大きさにパンを割ってみると、中はふわっふわで、小麦の香りがブワッと辺りに広がった。

 その香りに釣られて、兄妹は、パクリと一口丸パンを食べた。すると、口に入れた瞬間に二人は衝撃を受けたのだった。

「凄っ!……本当に店のパンと同じ味だ!!」
「うん。お店のパンの味がする。……お父さんとお母さんのパンだ……」

 それは紛れもなく、いつも両親が焼いている味のパンであった。錬金術で再現する事に成功したのだ。

「どうにゃっ!我の贈り物ギフトの偉大さを思い知ったかにゃっ!!」
「凄い凄い!発酵時間も焼き時間も要らないで一瞬でパンになるのか!!」

 自分の功績にドヤ顔で胸を張るミッケに、錬金術の可能性に目を輝かせているティルミオ。一人と一匹は大はしゃぎで、これで借金が返せると色めき立っていた。

 しかし、そんな風にティルミオとミッケが浮かれていると、隣から啜り泣きが聞こえて来たのだった。

「うっ……うぅっ……」
「ティナ…?!」

 驚いてティルミオが隣を見ると、妹のティティルナが泣きながらパンを齧っているのだ。

「ふっ……うぇっ……ひっく……お父さんと……お母さんのパンだ……」

 彼女は、二度と食べれないと思っていた両親が作る丸パンと同じ味を食べて、亡くなった両親が一気に恋しくなってしまったのだ。

「ティナ……」
「うっ……うぅっ……」

 ティルミオはパンを食べながら啜り泣く妹の頭を優しく撫でた。ミッケも、ティティルナが心配でその足元で、困ったようにウロウロしている。

「うっ…うぅ……どうして、死んじゃったの……」
「……うん。……うん。」

 泣きじゃくるティティルナに釣られて、ティルミオも寂しい気持ちが押し寄せて来たが、自分は兄だからと泣くのを我慢した。

 その代わりに、彼はティティルナの事をギュッと抱きしめると、妹の気持ちが落ち着くまで、その背中を摩り続けたのだった。
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