怪しいおまじないに頼った結果好きな人の前でだけ声が出なくなってしまったけれども、何故か上手くいきました

石月 和花

文字の大きさ
上 下
3 / 6

第3話

しおりを挟む
 エルレイン様におまじないをかけて貰った私は、その足でいつもの様にカラーラス様の雄姿を見学しにアカデミーの鍛錬場に向かった。

(あぁ、お兄様は今日も格好良いですわ……)
 
 ご学友と共に剣の鍛錬に励むカラーラス様の姿をウットリと見つめて、私はいつものように力いっぱい大きな声で声援を贈ろうとした。

 しかし……

「(お……)……っ?!」

 お兄様と呼びかけようとしても、声が出ないのだ。

「えっ、な、何?なんで?どうしてですの??」

 驚いて出た自分の声はちゃんと発声出来ているのに、カラーラス様への声援だけは、何度試みても声にならなかったのだ。

(何故……?!私の声はどうしてしまったの?!!)

 すると、私の様子がおかしいのに気づいたのかカラーラス様がこちらをじっと見ていたので、私はもう一度、カラーラス様に大きな声で呼びかけようとした。

「……っ!!」

 しかし、やはり声が出なかった。

 私は何も言えないまま、困った様な顔でカラーラス様をじっと見つめた。

 けれどもカラーラス様は、そんな私の異変など知る由もなく、少しだけ怪訝な目をこちらに向けると周囲のご令嬢様たちに促されて、去って行ってしまったのだった。

(もしかして……これがエルレイン様のおまじないの効果だと言うの?!)

 その可能性に気付いて、私は青ざめた。

(冗談じゃないですわ!お兄様とお話が出来ないなんて有り得ませんわ!!)

 私は自分の身に起こっている事の真相を確認する為に、急いでエルレイン様がいる裏庭へと戻った。


◇◇◇


「一体どういうことですの?!話が違いますわ!!」

 裏庭のベンチで、優雅に読書をしているエルレイン様の姿が目に入ると、私は淑女らしからぬ速さで駆け寄って、思わず大きな声で詰め寄った。

 だって、カラーラス様とお話し出来ないのはそれくらい非常事態なのだ。淑女らしくもしてられなかった。

 するとエルレイン様は、私の声に反応して涼しげな顔でこちらをチラリと見ると、読んでいた本を閉じて、私に意味深な言葉を投げかけたのだった。

「私はちゃんと言ったでしょう?この力は強力だから、生半可な覚悟ではダメだと。」
「私は、カラーラス様と元のように仲良くなりたいと願ったのに、それが何で、カラーラス様の前でだけ声が出なくなるのですか?!全然違うじゃないですか!!」

 エルレイン様の説明に全然納得できなくて、私は一歩も引かずに彼女に詰め寄った。正に怒り心頭。私は、本気で怒っていたのだ。

 けれども、エルレイン様は私の剣幕に全く怯むことなく平然とした様子でこちらをまじまじと見つめ返すと、感慨深げに呟いたのだった。

「なるほど、貴女にはそういう効果が現れたのですね。これは興味深いですわ……」
「えっ……?」

 彼女が何を言っているのか分からずに、私は思わず聞き返してしまった。

「待ってください。今の口ぶりでは、まるでエルレイン様にもおまじないによってどういった効果が出るのか分かっていなかったのですか?!」

 もし本当にそうなら、溜まったものじゃない。私はカラーラス様と元のように仲良くなりたいと願ったのに、これではまるで望んでいた事と真逆なのだ。

 そんなことはあってはならないのだが、しかし、エルレイン様は全く悪びれる様子もなく、それでいてどこか楽しそうに、私にとって残酷な事実を告げたのだった。

「私のおまじないはね、人によって効果が違うのよ。カラーラス様にだけお声がけが出来なくなったのであれば、貴女の場合はきっと、カラーラス様に話しかけるのをやめる事で、願いが成就するのだと思いますわ。」

 そう言ってニッコリと笑いかけるエルレイン様に、私は思わず声を荒げてしまった。

「そんなことで上手く行くはずがありませんわ!!今直ぐに”おまじない”を解いてくださいませ!!」

 そう、これは私の思っていた事と違うのだ。こんなとんでもない”おまじない”は直ぐに解いてもらわないといけなかった。
 なので私は必死に食い下がったのだが、けれどもエルレイン様は、相変わらず飄々とした態度で、私の必死なお願いをキッパリと断ったのだった。

「それは出来ませんわ。そういった術ですから。」
「貴女がかけた”おまじない”なのに?!」
「だからお伝えしていますように、私の”おまじない”は強力なんです。途中で止めるなんて事は出来ないのですわ。」
「そんな……それじゃあ私は一生カラーラス様とお話し出来ないの……?」

 エルレイン様の言葉に、私は目の前が真っ暗になってしまった。

 今後ずっとカラーラス様とお話しすることが出来ないだなんて、そんなのは耐えられなかった。絶望的な気分とは、正にこんな感じなのだろう。

 そんな風に私はすっかり打ちひしがれてしまったが、けれどもエルレイン様は、ニッコリと笑うと、私を宥めるように優しく言葉をかけたのだった。

「そんなことは有りませんよ。セシリア様の想いが成就したらこのおまじないは完遂して、また元の通りにお話しすることが出来ますわ。」
「この状態で、カラーラス様と元のように仲良く出来ると言うのですか?!」
「えぇ、大丈夫ですわよ。だって私の”おまじない”は強力ですから。」

 そう言って自信満々に微笑んで見せるエルレイン様に、私は疑いの目を向けた。彼女の言うことがどうしても信じられなかったのだ。
 けれども、余りにもエルレイン様が堂々と言い切ったので、これ以上はもう何を言っても堂々巡りであった。

 なので私は、出かかっていた言葉を飲み込むと、しぶしぶとこの場を引き下がったのだった。

「……”おまじない”を解いていただけないということ、分かりましたわ……」

 こうして、釈然としない気持ちではあったが、ここで押し問答を続けても問題は何も解決しないと思い、私は「失礼します」と言ってエルレイン様に一礼をすると、その場を後にしたのだった。

「さて、貴女はどんな面白いお話しを聞かせてくれるのかしらね。」

そんなエルレイン様の呟きを、背後に聞きながら。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ

青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人 世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。 デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女 小国は栄え、大国は滅びる。

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

踏み台令嬢はへこたれない

三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

婚約ですか?呪いも一緒について来ますがよろしいでしょうか?

里見知美
恋愛
シャルル・ベイカーは呪われている。 彼女を手に入れようとする者には呪いが降りかかり、滅亡へと導かれるのだ。 全8話で完結です。 ※ 途中、内容が重複しており、混乱させました。申し訳ありません。6話からおかしなことになっていたので直しました。ご指摘いただきましてありがとうございました。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?

宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。 そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。 婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。 彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。 婚約者を前に彼らはどうするのだろうか? 短編になる予定です。 たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます! 【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。 ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

処理中です...