当て馬令嬢だと落ち込んでいたらいつの間にかお兄様に外堀を埋められて、結果、真の最愛の人に気づく事が出来ました。

石月 和花

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第二部

閑話. アリッサ・スタインの憂鬱3

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私が”ミューズリー側に誠意を見せて”とロクサーヌ様に進言してから直ぐに、彼女からのお茶会への招待状が届いた。

噂によると、ロクサーヌ様はミューズリー側の貴族令嬢に片っ端から招待状を送っているらしい。

(そんな事をしても、無駄なのにね。)

私はこのお茶会が失敗すると分かっていたので、冷ややかに彼女からの招待状を眺めた。

そして、当日。

「貴女馬鹿なんですの?!今まで散々ミューズリーの事を蔑んで見ていたノルモンド家からの招待だなんて、怪しくって誰も来ませんわ!」
「けれども、アリッサ様は来てい下さいましたわ!」
「私は、仕方なくです!!」

私が招待状を手にノルモンド家を訪れると、案の定ロクサーヌ様は、一人ぽつんと誰も来ない招待客を待っていたのだ。

それもそうだろう。

私たちミューズリーの系譜の貴族は、ノルモンド家を筆頭としたシュテルンベルク純血主義者に散々蔑まられてきたのだ。

そのノルモンド家の御令嬢からお茶会の招待状が届いたとしても、素直には受け止められるわけがない。何か裏があると考えてしまって、参加しようとは思う訳がない。

だから私は、ロクサーヌ様が一人で待ちぼうけを喰らっている姿が容易に想像できたので、彼女を焚きつけた手前仕方なく、ノルモンド家を訪れて彼女の認識の甘さを指摘して、こんな茶番は止めるように諭そうと思ったのだが、ロクサーヌ様は私の姿を見るととても嬉しそうな顔をして、自分の隣に座る様に手招きをしたのだった。

(招待客が誰も来ていないのに、この状況でもまだお茶会をしようというの?!)

私は頭を抱えながら、彼女の図太さに深い溜息を吐いた。

「貴女、この状況を分かっていまして?ミューズリー系譜の御令嬢たちを招待して誰も来なかったんでしょう?これが全てですわ。皆、ノルモンド家とは仲良くしたくないのですわ。」

「そんな……どうしたら、皆さま来てくださるのでしょうか……日取りを変えたら良かったかしら。それとも場所を変えたら……」
「そうね、場所は変えたほうがいいわね。いきなりノルモンド家だなんて、今まで散々蔑まれてきたんですから来れるはずがないですわ……って、そういう事じゃ無くて、もっと根本的にですねぇ……」
「成程!流石アリッサ様ですわ!」

いや、話を最後まで聞いてください。
ロクサーヌ様が、私のうっかり漏らした言葉でまた何かやる気に満ちた顔で思案を始めたので、私は再び溜息を吐いた。

(はぁ……ロクサーヌ様は止まらないわね……。場所を変えたくらいではどうにもならないのに……)

私はやる気に満ちているロクサーヌ様を冷ややかに眺めて、彼女の考えを訂正するのを諦めた。きっと無理だろうから。

(もう、紅茶だけ飲んだら帰ろうかしら……)

客観的にロクサーヌ様を眺めているだけでも疲れるので、私は早々にこの場から帰る事にした。けれどもその前に、せっかくお茶会に来たのだから紅茶の一杯でも飲んでから帰ろうと、私は給仕された淹れたての紅茶を頂くことにした。

(うん、流石うちと同じ公爵家。良い茶葉を使っているわね。)

一口飲んだだけで高級紅茶であることが分かる程、香り高く私好みの味だった。

(まぁ、この紅茶に免じて本日私がここへ来たことの足労を水に流してあげましょう。)

紅茶を飲んで気分を落ち着けた私は、これだけ飲んだらもう帰ろうと思っていたのだがけれども、ふと、脇のテーブルに、お茶会には似つかわしくない豪華な宝飾品が並べられているのが目に入った。

「ロクサーヌ様、何なんですかコレは?自慢したかったのですか?」
「何って、お客様にお待たせするお土産ですわ。」
「貴女馬鹿なんですか?!そんな事をしたら良い様に集られますわよ?!」

そこに並べられていたのは、どう見ても宝石が散りばめられた豪華な宝飾品で、とてもじゃないが気軽に人にあげるような代物では無かったのだ。
こんな物を気軽に人にあげてしまったら、中には付け上がる人だって絶対に出てくる筈だ。

私は呆れたように彼女に忠告したが、ロクサーヌ様はそれが分かっていなかったようで、少し困惑しながら首を傾げた。

「けれども、これくらいの宝石であれば他にも持っているし、誠意を見せるってこう言うことではないの?」
「そんなのはただの金に物を言わせた傲慢よ。施しであって誠意ではないわ。」
「……難しいですわね……」

どうやらロクサーヌ様は本気でそれが誠意をみせる事になると思っていたみたいで、私からの指摘で自分が間違っている事に気付いて、意気消沈してしまった。

今までの猪突猛進な勢いが消えて、余りにも分かりやすく落ち込む彼女がなんだか可哀想に思えて、私はつい、余計な事を言ってしまったのだった。

「お金があるのならば直接配るのでは無く、ミューズリーの貴族が行っている慈善活動に寄付をしたり、事業に投資したりすれば良いのですよ。」

私はなんで敵に塩を送っているのだろう。
言ってから”しまったな”と少しだけ自分のお人好しな部分を恨めしく思った。

(けれども、私のアドバイスを真に受けてロクサーヌ様が本当に誰かに寄付や投資をしたならば、それはミューズリー側の貴族にとっては良い事だから、利用出来るところは利用させてもらうのが得策かしら……)

そんな事を考えていると、私からのアドバイスで元気とやる気を取り戻したロクサーヌ様は、顔を明るくして力一杯こちらが不安を覚えるような事を口にしたのだった。

「成程!そう言えば丁度先日、ハシェール男爵から幸運を呼ぶ壺を買わないかと商談がありましたの。私にはよく分からない安物のツボに見えましたのでその時はお断りしましたが、男爵に投資するのは有りですわね!」
「いや、それは騙されてるから!!」

本日何度目かも分からない溜息を吐いて、私は再び頭を抱えた。

「分かった……分かりましたから。貴女の思いはもう十分に伝わりましたわ……だからもう、何もしないで下さい!!」

この数週間、彼女と接して分かったのだが、このロクサーヌ・ノルモンドと言う令嬢は、良くも悪くも素直で、人に影響されやすく、騙されやすいのに、それでいて行動力だけは異様に高いので、放っておくと何をしでかすか分からないのだ。

これ以上彼女が変な言動をして、それにいちいち突っ込んでいたら私の心身が疲弊しきってしまうので、だから物凄く不本意だったけれども、私はロクサーヌ様の事を受け入れる事にしたのだった。

本当に、不本意だけどもね。

するとロクサーヌ様は、そんな私の複雑な気持ちとは正反対に、今まで見た事も無いような笑みを浮かべて、私の手を取って嬉々として伝えて来たのだ。とんでもない事を。

「まぁ、アリッサ様嬉しいですわ!私の事はお義姉様と呼んで良くってよ!」
「そこまで飛躍してませんわ!私は貴女がミューズリーへ誠意を見せた事を認めたのであって、お兄様の件はまた別ですわ!!」

私は力一杯、彼女の早とちりを指摘させて貰ったが、そうは言ってもロクサーヌ様は、全然こちらの話を聞いてくれなかった。

(あぁ、判断間違えたかも……)

一人で勝手に盛り上がっているロクサーヌ様を前に、彼女との付き合いが今後長く続く事を予感して、私はまた大きな溜息を吐いたのだった。
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