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第二部
55. 陥落
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あのノルモンド家の夜会の後、約束通りマキシムはロクサーヌと妹のアリッサを引き合わせていた。
最初こそアリッサは彼女を嫌っていたが、ロクサーヌが何度も何度も諦めずに通い詰めるうちに、段々と彼女の残念な部分が露見していき、アリッサもまた、結局はロクサーヌの放って置けない感じに絆されたのだった。
「マキシム様、私アリッサ様に許して貰えましたわ。」
「そうみたいだね。」
「これで、ご一考して頂けるんですよね?」
そして、アリッサと和解をしたロクサーヌは、正に怖い物なしだった。ミューズリー嫌いの祖父の顔色を伺っていたのが嘘の様に、実に堂々と人目も気にせずマキシムに直接会いに来たのだ。
ただの令嬢が王城の一室にある王太子の側近である自分の執務室に入ることなど普通ならば出来ないので、マキシムは彼女がこの場所に現れたことに驚いたが、相手がロクサーヌなのだ、そう言った常識は考えるだけ無駄であると直ぐに納得した。
マキシムは考えることを止めて目の前に現れたロクサーヌをまじまじと見つめると、彼女は期待に満ちた目で真っ直ぐにこちらを見つめていて、マキシムとバッチリと目が合うと、恥ずかしそうに顔を逸らし、それから恥じらいながら小さな声で自分の気持ちを伝えたのだった。
「私、お兄様がこのお話を持ちかけなかったとしても、マキシム様をお慕いしています。」
「どうしてそんなに……」
自分の事を慕ってくれるのか。彼女からの直球の告白に動揺して、マキシムはその言葉が上手く出なかった。
そんな言葉に詰まっている彼に少し不安そうになりながらも、ロクサーヌは節目がちに言葉を続けた。
「だって貴方は、あの時私が失礼な態度を取っていたのにも関わらず、私を助けてくださったわ。それに夜会の時も、ずっと私の勘違いに付き合ってくださいました。……お優しいんです、マキシム様は。」
「それは……当たり前の事をしたまでですよ。」
「そうだったとしても、あの時からこのタイは、私の宝物なんですの。」
そう言ってロクサーヌは手の中に大事そうに握りしめていた真っ白いタイを愛おしそうに見つめた。
それは、ガーデンパーティーの時に手当てに使ったマキシムのタイであった。
「そんな物が?そんなの何処にでもある無地のタイじゃないか。」
「ええ。ですがこれは、マキシム様が私の手当てのために使ってくださったタイです。だから宝物ですわ。」
目を潤ませて頬を少し染めながら愛しそうに微笑み手にしたタイを見つめる様子は、如何にそれが彼女にとって大切な物であるかが一目瞭然であった。
(ああ、もう、だからずるいんだってば!)
その笑顔を見て、マキシムはドキリとした。こんな風に慕われたら、誰だって悪い気はしない。その上、普段は自由で勝ち気な彼女が、しおらしく恥じらいながら好意を伝えてくる姿はとても可愛く映り、彼の心は激しく揺さぶられたのだった。
「……そんな無地の男物のタイなんかじゃなくて、もっと代わりの物を贈りますよ。」
「えっ……?」
「……婚約の話、前向きに考えます……」
これでいい。これを皆が望んでいるのだからと、自分がロクサーヌに惹かれていることを誤魔化すかの様に、心の中で繰り返しながらマキシムは顔を逸らして、照れ隠しの為にぶっきらぼうに返事をした。
ロクサーヌの顔はとてもじゃないが見れそうに無かったので、マキシムは顔を逸らしたまま彼女の反応を待つと、するとロクサーヌは、そんな彼からの言葉に顔を真っ赤にして、嬉しさのあまり勢いよくマキシムに抱きついたのだった。
最初こそアリッサは彼女を嫌っていたが、ロクサーヌが何度も何度も諦めずに通い詰めるうちに、段々と彼女の残念な部分が露見していき、アリッサもまた、結局はロクサーヌの放って置けない感じに絆されたのだった。
「マキシム様、私アリッサ様に許して貰えましたわ。」
「そうみたいだね。」
「これで、ご一考して頂けるんですよね?」
そして、アリッサと和解をしたロクサーヌは、正に怖い物なしだった。ミューズリー嫌いの祖父の顔色を伺っていたのが嘘の様に、実に堂々と人目も気にせずマキシムに直接会いに来たのだ。
ただの令嬢が王城の一室にある王太子の側近である自分の執務室に入ることなど普通ならば出来ないので、マキシムは彼女がこの場所に現れたことに驚いたが、相手がロクサーヌなのだ、そう言った常識は考えるだけ無駄であると直ぐに納得した。
マキシムは考えることを止めて目の前に現れたロクサーヌをまじまじと見つめると、彼女は期待に満ちた目で真っ直ぐにこちらを見つめていて、マキシムとバッチリと目が合うと、恥ずかしそうに顔を逸らし、それから恥じらいながら小さな声で自分の気持ちを伝えたのだった。
「私、お兄様がこのお話を持ちかけなかったとしても、マキシム様をお慕いしています。」
「どうしてそんなに……」
自分の事を慕ってくれるのか。彼女からの直球の告白に動揺して、マキシムはその言葉が上手く出なかった。
そんな言葉に詰まっている彼に少し不安そうになりながらも、ロクサーヌは節目がちに言葉を続けた。
「だって貴方は、あの時私が失礼な態度を取っていたのにも関わらず、私を助けてくださったわ。それに夜会の時も、ずっと私の勘違いに付き合ってくださいました。……お優しいんです、マキシム様は。」
「それは……当たり前の事をしたまでですよ。」
「そうだったとしても、あの時からこのタイは、私の宝物なんですの。」
そう言ってロクサーヌは手の中に大事そうに握りしめていた真っ白いタイを愛おしそうに見つめた。
それは、ガーデンパーティーの時に手当てに使ったマキシムのタイであった。
「そんな物が?そんなの何処にでもある無地のタイじゃないか。」
「ええ。ですがこれは、マキシム様が私の手当てのために使ってくださったタイです。だから宝物ですわ。」
目を潤ませて頬を少し染めながら愛しそうに微笑み手にしたタイを見つめる様子は、如何にそれが彼女にとって大切な物であるかが一目瞭然であった。
(ああ、もう、だからずるいんだってば!)
その笑顔を見て、マキシムはドキリとした。こんな風に慕われたら、誰だって悪い気はしない。その上、普段は自由で勝ち気な彼女が、しおらしく恥じらいながら好意を伝えてくる姿はとても可愛く映り、彼の心は激しく揺さぶられたのだった。
「……そんな無地の男物のタイなんかじゃなくて、もっと代わりの物を贈りますよ。」
「えっ……?」
「……婚約の話、前向きに考えます……」
これでいい。これを皆が望んでいるのだからと、自分がロクサーヌに惹かれていることを誤魔化すかの様に、心の中で繰り返しながらマキシムは顔を逸らして、照れ隠しの為にぶっきらぼうに返事をした。
ロクサーヌの顔はとてもじゃないが見れそうに無かったので、マキシムは顔を逸らしたまま彼女の反応を待つと、するとロクサーヌは、そんな彼からの言葉に顔を真っ赤にして、嬉しさのあまり勢いよくマキシムに抱きついたのだった。
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