99 / 109
第二部
55. 陥落
しおりを挟む
あのノルモンド家の夜会の後、約束通りマキシムはロクサーヌと妹のアリッサを引き合わせていた。
最初こそアリッサは彼女を嫌っていたが、ロクサーヌが何度も何度も諦めずに通い詰めるうちに、段々と彼女の残念な部分が露見していき、アリッサもまた、結局はロクサーヌの放って置けない感じに絆されたのだった。
「マキシム様、私アリッサ様に許して貰えましたわ。」
「そうみたいだね。」
「これで、ご一考して頂けるんですよね?」
そして、アリッサと和解をしたロクサーヌは、正に怖い物なしだった。ミューズリー嫌いの祖父の顔色を伺っていたのが嘘の様に、実に堂々と人目も気にせずマキシムに直接会いに来たのだ。
ただの令嬢が王城の一室にある王太子の側近である自分の執務室に入ることなど普通ならば出来ないので、マキシムは彼女がこの場所に現れたことに驚いたが、相手がロクサーヌなのだ、そう言った常識は考えるだけ無駄であると直ぐに納得した。
マキシムは考えることを止めて目の前に現れたロクサーヌをまじまじと見つめると、彼女は期待に満ちた目で真っ直ぐにこちらを見つめていて、マキシムとバッチリと目が合うと、恥ずかしそうに顔を逸らし、それから恥じらいながら小さな声で自分の気持ちを伝えたのだった。
「私、お兄様がこのお話を持ちかけなかったとしても、マキシム様をお慕いしています。」
「どうしてそんなに……」
自分の事を慕ってくれるのか。彼女からの直球の告白に動揺して、マキシムはその言葉が上手く出なかった。
そんな言葉に詰まっている彼に少し不安そうになりながらも、ロクサーヌは節目がちに言葉を続けた。
「だって貴方は、あの時私が失礼な態度を取っていたのにも関わらず、私を助けてくださったわ。それに夜会の時も、ずっと私の勘違いに付き合ってくださいました。……お優しいんです、マキシム様は。」
「それは……当たり前の事をしたまでですよ。」
「そうだったとしても、あの時からこのタイは、私の宝物なんですの。」
そう言ってロクサーヌは手の中に大事そうに握りしめていた真っ白いタイを愛おしそうに見つめた。
それは、ガーデンパーティーの時に手当てに使ったマキシムのタイであった。
「そんな物が?そんなの何処にでもある無地のタイじゃないか。」
「ええ。ですがこれは、マキシム様が私の手当てのために使ってくださったタイです。だから宝物ですわ。」
目を潤ませて頬を少し染めながら愛しそうに微笑み手にしたタイを見つめる様子は、如何にそれが彼女にとって大切な物であるかが一目瞭然であった。
(ああ、もう、だからずるいんだってば!)
その笑顔を見て、マキシムはドキリとした。こんな風に慕われたら、誰だって悪い気はしない。その上、普段は自由で勝ち気な彼女が、しおらしく恥じらいながら好意を伝えてくる姿はとても可愛く映り、彼の心は激しく揺さぶられたのだった。
「……そんな無地の男物のタイなんかじゃなくて、もっと代わりの物を贈りますよ。」
「えっ……?」
「……婚約の話、前向きに考えます……」
これでいい。これを皆が望んでいるのだからと、自分がロクサーヌに惹かれていることを誤魔化すかの様に、心の中で繰り返しながらマキシムは顔を逸らして、照れ隠しの為にぶっきらぼうに返事をした。
ロクサーヌの顔はとてもじゃないが見れそうに無かったので、マキシムは顔を逸らしたまま彼女の反応を待つと、するとロクサーヌは、そんな彼からの言葉に顔を真っ赤にして、嬉しさのあまり勢いよくマキシムに抱きついたのだった。
最初こそアリッサは彼女を嫌っていたが、ロクサーヌが何度も何度も諦めずに通い詰めるうちに、段々と彼女の残念な部分が露見していき、アリッサもまた、結局はロクサーヌの放って置けない感じに絆されたのだった。
「マキシム様、私アリッサ様に許して貰えましたわ。」
「そうみたいだね。」
「これで、ご一考して頂けるんですよね?」
そして、アリッサと和解をしたロクサーヌは、正に怖い物なしだった。ミューズリー嫌いの祖父の顔色を伺っていたのが嘘の様に、実に堂々と人目も気にせずマキシムに直接会いに来たのだ。
ただの令嬢が王城の一室にある王太子の側近である自分の執務室に入ることなど普通ならば出来ないので、マキシムは彼女がこの場所に現れたことに驚いたが、相手がロクサーヌなのだ、そう言った常識は考えるだけ無駄であると直ぐに納得した。
マキシムは考えることを止めて目の前に現れたロクサーヌをまじまじと見つめると、彼女は期待に満ちた目で真っ直ぐにこちらを見つめていて、マキシムとバッチリと目が合うと、恥ずかしそうに顔を逸らし、それから恥じらいながら小さな声で自分の気持ちを伝えたのだった。
「私、お兄様がこのお話を持ちかけなかったとしても、マキシム様をお慕いしています。」
「どうしてそんなに……」
自分の事を慕ってくれるのか。彼女からの直球の告白に動揺して、マキシムはその言葉が上手く出なかった。
そんな言葉に詰まっている彼に少し不安そうになりながらも、ロクサーヌは節目がちに言葉を続けた。
「だって貴方は、あの時私が失礼な態度を取っていたのにも関わらず、私を助けてくださったわ。それに夜会の時も、ずっと私の勘違いに付き合ってくださいました。……お優しいんです、マキシム様は。」
「それは……当たり前の事をしたまでですよ。」
「そうだったとしても、あの時からこのタイは、私の宝物なんですの。」
そう言ってロクサーヌは手の中に大事そうに握りしめていた真っ白いタイを愛おしそうに見つめた。
それは、ガーデンパーティーの時に手当てに使ったマキシムのタイであった。
「そんな物が?そんなの何処にでもある無地のタイじゃないか。」
「ええ。ですがこれは、マキシム様が私の手当てのために使ってくださったタイです。だから宝物ですわ。」
目を潤ませて頬を少し染めながら愛しそうに微笑み手にしたタイを見つめる様子は、如何にそれが彼女にとって大切な物であるかが一目瞭然であった。
(ああ、もう、だからずるいんだってば!)
その笑顔を見て、マキシムはドキリとした。こんな風に慕われたら、誰だって悪い気はしない。その上、普段は自由で勝ち気な彼女が、しおらしく恥じらいながら好意を伝えてくる姿はとても可愛く映り、彼の心は激しく揺さぶられたのだった。
「……そんな無地の男物のタイなんかじゃなくて、もっと代わりの物を贈りますよ。」
「えっ……?」
「……婚約の話、前向きに考えます……」
これでいい。これを皆が望んでいるのだからと、自分がロクサーヌに惹かれていることを誤魔化すかの様に、心の中で繰り返しながらマキシムは顔を逸らして、照れ隠しの為にぶっきらぼうに返事をした。
ロクサーヌの顔はとてもじゃないが見れそうに無かったので、マキシムは顔を逸らしたまま彼女の反応を待つと、するとロクサーヌは、そんな彼からの言葉に顔を真っ赤にして、嬉しさのあまり勢いよくマキシムに抱きついたのだった。
1
お気に入りに追加
1,429
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
侍女から第2夫人、そして……
しゃーりん
恋愛
公爵家の2歳のお嬢様の侍女をしているルイーズは、酔って夢だと思い込んでお嬢様の父親であるガレントと関係を持ってしまう。
翌朝、現実だったと知った2人は親たちの話し合いの結果、ガレントの第2夫人になることに決まった。
ガレントの正妻セルフィが病弱でもう子供を望めないからだった。
一日で侍女から第2夫人になってしまったルイーズ。
正妻セルフィからは、娘を義母として可愛がり、夫を好きになってほしいと頼まれる。
セルフィの残り時間は少なく、ルイーズがやがて正妻になるというお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です
流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。
父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。
無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。
純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】愛してるなんて言うから
空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」
婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。
婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。
――なんだそれ。ふざけてんのか。
わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。
第1部が恋物語。
第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ!
※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。
苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。
【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい
春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。
そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか?
婚約者が不貞をしたのは私のせいで、
婚約破棄を命じられたのも私のせいですって?
うふふ。面白いことを仰いますわね。
※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。
※カクヨムにも投稿しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
想い合っている? そうですか、ではお幸せに
四季
恋愛
コルネリア・フレンツェはある日突然訪問者の女性から告げられた。
「実は、私のお腹には彼との子がいるんです」
婚約者の相応しくない振る舞いが判明し、嵐が訪れる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる