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第二部
50. 恋の歌
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マグリットは、優しい眼差しでウィルフレッドを見つめながら、彼の歌う事が好きだという気持ちに寄り添った。
「貴方は、本当に歌うのが好きなのね。」
「あぁ、そうだね。僕は歌うのが何よりも大好きだ。……そんな僕の歌を、貴女は好きだって言ってくれたよね。あれはすごく嬉しかったな。……有難う。」
ウィルフレッドが、本当に嬉しそうな笑顔を浮かべるので、マグリットはその笑顔にドキリと胸が高鳴って、少し頬を赤く染めると、思わず顔を逸らしてしまった。
「お……お礼を言うのは私の方よ。出会った時から、今も……貴方の歌に救われたわ。何故だか貴方の歌に惹かれるの。不思議な魅力だなと思ったけど、貴方の話を聞いてわかったわ。歌に対する思いが、とてもとても強いのね。その強い思いがそのまま貴方の歌にのって力を私に分けてくれてたんだわ。ううん、私だけじゃ無い。貴方の歌を聞いた人はみんな、貴方の歌に力を貰っているはずだわ。」
マグリットからの思いがけない言葉に、ウィルフレッドは少し照れくさそうにはにかむと、そのまま視線を遠くへと向けて、噛み締めるように呟いた。
「そうか……そう思ってくれるなら嬉しいよ。僕にとってはそれが一番の喜びなんだ。自分の歌に力があると言うのならば、やっぱり僕は、これからも歌を歌って生きたいな。」
真っ直ぐ前を向いてそう語るウィルフレッドの横顔はとても力強くて、マグリットは彼のその姿に見惚れてしまった。
「そうよ、これからも貴方には歌を歌っていて欲しいわ。ねぇ、そう言えば貴方約束したわよね?私が望めばいつでも歌ってくれるって。私は丁度今、貴方の歌を聞きたいって思っているのだけど?」
「あいにく楽器は無いですが、どんな歌をお望みですか?」
「そうね、恋の歌が良いわ。とびきり幸せなやつね。」
「承知しました。お嬢様。」
悪戯っぽく笑って彼が歌うのを期待するマグリットに、ウィルフレッドは恭しく一礼すると、直ぐに姿勢を正して、大きく息を吸った。
そして次の瞬間、彼は今まで聞いたどの曲よりも優しく美しい声で、マグリットの為だけに異国の恋歌を歌い始めたのだった。
その姿に見惚れない訳がなかった。
月明かりに照らされて、その金色の髪は美しく輝いて、澄んだ青空の様な瞳でじっとマグリットの目を見つめながら歌い上げる彼の姿に、心がときめかない訳がなかった。
「私やっぱり、好きなんだわ……」
「えっ?」
「あっ、貴方の歌が好きなの。うん……好き。」
「それは、ありがとうございます。」
ついポロリと口から出てしまった言葉に、マグリットは自分でも驚いて慌てて言い直したのだが、ウィルフレッドは少し驚いた様に目を見開いた後、はにかみ気味に嬉しそうに笑っていた。
それから二人はほんの少しの間見つめ合うと、ウィルフレッドはスッと、マグリッドに手を差し出したのだった。
「マグリット様、折角ですからもう一曲踊りませんか?」
「けれど、もう演奏は終わっていますわ。」
「僕が歌いますよ。僕の歌が好きなんでしょう?」
「ワルツって歌えるんですの?」
「まぁ、三拍子の歌なら何とかなるでしょう。」
楽しそうに笑いながら手を差し出すウィルフレッドに、マグリットも嬉しそうに笑うと、彼の手にそっと自分の手を添えた。
「ウィルフレッド様って面白い方ですわね。」
「ウィルで良いですよ。それは、褒め言葉と受け取って良いんでしょうか?」
「えぇ、好意的な意味よ。」
「それは良かった。僕も貴女のこと興味深い人だなと思ってますよ。」
「それって褒めてるんですか?」
「えぇ。好意的な意味ですよ。」
そうして二人は微笑み合うと、ゆっくりとステップを踏み始めたのだった。
「貴方は、本当に歌うのが好きなのね。」
「あぁ、そうだね。僕は歌うのが何よりも大好きだ。……そんな僕の歌を、貴女は好きだって言ってくれたよね。あれはすごく嬉しかったな。……有難う。」
ウィルフレッドが、本当に嬉しそうな笑顔を浮かべるので、マグリットはその笑顔にドキリと胸が高鳴って、少し頬を赤く染めると、思わず顔を逸らしてしまった。
「お……お礼を言うのは私の方よ。出会った時から、今も……貴方の歌に救われたわ。何故だか貴方の歌に惹かれるの。不思議な魅力だなと思ったけど、貴方の話を聞いてわかったわ。歌に対する思いが、とてもとても強いのね。その強い思いがそのまま貴方の歌にのって力を私に分けてくれてたんだわ。ううん、私だけじゃ無い。貴方の歌を聞いた人はみんな、貴方の歌に力を貰っているはずだわ。」
マグリットからの思いがけない言葉に、ウィルフレッドは少し照れくさそうにはにかむと、そのまま視線を遠くへと向けて、噛み締めるように呟いた。
「そうか……そう思ってくれるなら嬉しいよ。僕にとってはそれが一番の喜びなんだ。自分の歌に力があると言うのならば、やっぱり僕は、これからも歌を歌って生きたいな。」
真っ直ぐ前を向いてそう語るウィルフレッドの横顔はとても力強くて、マグリットは彼のその姿に見惚れてしまった。
「そうよ、これからも貴方には歌を歌っていて欲しいわ。ねぇ、そう言えば貴方約束したわよね?私が望めばいつでも歌ってくれるって。私は丁度今、貴方の歌を聞きたいって思っているのだけど?」
「あいにく楽器は無いですが、どんな歌をお望みですか?」
「そうね、恋の歌が良いわ。とびきり幸せなやつね。」
「承知しました。お嬢様。」
悪戯っぽく笑って彼が歌うのを期待するマグリットに、ウィルフレッドは恭しく一礼すると、直ぐに姿勢を正して、大きく息を吸った。
そして次の瞬間、彼は今まで聞いたどの曲よりも優しく美しい声で、マグリットの為だけに異国の恋歌を歌い始めたのだった。
その姿に見惚れない訳がなかった。
月明かりに照らされて、その金色の髪は美しく輝いて、澄んだ青空の様な瞳でじっとマグリットの目を見つめながら歌い上げる彼の姿に、心がときめかない訳がなかった。
「私やっぱり、好きなんだわ……」
「えっ?」
「あっ、貴方の歌が好きなの。うん……好き。」
「それは、ありがとうございます。」
ついポロリと口から出てしまった言葉に、マグリットは自分でも驚いて慌てて言い直したのだが、ウィルフレッドは少し驚いた様に目を見開いた後、はにかみ気味に嬉しそうに笑っていた。
それから二人はほんの少しの間見つめ合うと、ウィルフレッドはスッと、マグリッドに手を差し出したのだった。
「マグリット様、折角ですからもう一曲踊りませんか?」
「けれど、もう演奏は終わっていますわ。」
「僕が歌いますよ。僕の歌が好きなんでしょう?」
「ワルツって歌えるんですの?」
「まぁ、三拍子の歌なら何とかなるでしょう。」
楽しそうに笑いながら手を差し出すウィルフレッドに、マグリットも嬉しそうに笑うと、彼の手にそっと自分の手を添えた。
「ウィルフレッド様って面白い方ですわね。」
「ウィルで良いですよ。それは、褒め言葉と受け取って良いんでしょうか?」
「えぇ、好意的な意味よ。」
「それは良かった。僕も貴女のこと興味深い人だなと思ってますよ。」
「それって褒めてるんですか?」
「えぇ。好意的な意味ですよ。」
そうして二人は微笑み合うと、ゆっくりとステップを踏み始めたのだった。
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