当て馬令嬢だと落ち込んでいたらいつの間にかお兄様に外堀を埋められて、結果、真の最愛の人に気づく事が出来ました。

石月 和花

文字の大きさ
上 下
94 / 109
第二部

50. 恋の歌

しおりを挟む
マグリットは、優しい眼差しでウィルフレッドを見つめながら、彼の歌う事が好きだという気持ちに寄り添った。

「貴方は、本当に歌うのが好きなのね。」
「あぁ、そうだね。僕は歌うのが何よりも大好きだ。……そんな僕の歌を、貴女は好きだって言ってくれたよね。あれはすごく嬉しかったな。……有難う。」

ウィルフレッドが、本当に嬉しそうな笑顔を浮かべるので、マグリットはその笑顔にドキリと胸が高鳴って、少し頬を赤く染めると、思わず顔を逸らしてしまった。

「お……お礼を言うのは私の方よ。出会った時から、今も……貴方の歌に救われたわ。何故だか貴方の歌に惹かれるの。不思議な魅力だなと思ったけど、貴方の話を聞いてわかったわ。歌に対する思いが、とてもとても強いのね。その強い思いがそのまま貴方の歌にのって力を私に分けてくれてたんだわ。ううん、私だけじゃ無い。貴方の歌を聞いた人はみんな、貴方の歌に力を貰っているはずだわ。」

マグリットからの思いがけない言葉に、ウィルフレッドは少し照れくさそうにはにかむと、そのまま視線を遠くへと向けて、噛み締めるように呟いた。

「そうか……そう思ってくれるなら嬉しいよ。僕にとってはそれが一番の喜びなんだ。自分の歌に力があると言うのならば、やっぱり僕は、これからも歌を歌って生きたいな。」

真っ直ぐ前を向いてそう語るウィルフレッドの横顔はとても力強くて、マグリットは彼のその姿に見惚れてしまった。

「そうよ、これからも貴方には歌を歌っていて欲しいわ。ねぇ、そう言えば貴方約束したわよね?私が望めばいつでも歌ってくれるって。私は丁度今、貴方の歌を聞きたいって思っているのだけど?」
「あいにく楽器は無いですが、どんな歌をお望みですか?」
「そうね、恋の歌が良いわ。とびきり幸せなやつね。」
「承知しました。お嬢様。」

悪戯っぽく笑って彼が歌うのを期待するマグリットに、ウィルフレッドは恭しく一礼すると、直ぐに姿勢を正して、大きく息を吸った。
そして次の瞬間、彼は今まで聞いたどの曲よりも優しく美しい声で、マグリットの為だけに異国の恋歌を歌い始めたのだった。

その姿に見惚れない訳がなかった。
月明かりに照らされて、その金色の髪は美しく輝いて、澄んだ青空の様な瞳でじっとマグリットの目を見つめながら歌い上げる彼の姿に、心がときめかない訳がなかった。

「私やっぱり、好きなんだわ……」
「えっ?」
「あっ、貴方の歌が好きなの。うん……好き。」
「それは、ありがとうございます。」

ついポロリと口から出てしまった言葉に、マグリットは自分でも驚いて慌てて言い直したのだが、ウィルフレッドは少し驚いた様に目を見開いた後、はにかみ気味に嬉しそうに笑っていた。

それから二人はほんの少しの間見つめ合うと、ウィルフレッドはスッと、マグリッドに手を差し出したのだった。

「マグリット様、折角ですからもう一曲踊りませんか?」
「けれど、もう演奏は終わっていますわ。」
「僕が歌いますよ。僕の歌が好きなんでしょう?」
「ワルツって歌えるんですの?」
「まぁ、三拍子の歌なら何とかなるでしょう。」

楽しそうに笑いながら手を差し出すウィルフレッドに、マグリットも嬉しそうに笑うと、彼の手にそっと自分の手を添えた。

「ウィルフレッド様って面白い方ですわね。」
「ウィルで良いですよ。それは、褒め言葉と受け取って良いんでしょうか?」
「えぇ、好意的な意味よ。」
「それは良かった。僕も貴女のこと興味深い人だなと思ってますよ。」
「それって褒めてるんですか?」
「えぇ。好意的な意味ですよ。」

そうして二人は微笑み合うと、ゆっくりとステップを踏み始めたのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

次は絶対に幸せになって見せます!

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢マリアは、熾烈な王妃争いを勝ち抜き、大好きな王太子、ヒューゴと結婚したものの、結婚後6年間、一度も会いに来てはくれなかった。孤独に胸が張り裂けそうになるマリア。 “もしもう一度人生をやり直すことが出来たら、今度は私だけを愛してくれる人と結ばれたい…” そう願いながら眠りについたのだった。 翌日、目が覚めると懐かしい侯爵家の自分の部屋が目に飛び込んできた。どうやら14歳のデビュータントの日に戻った様だ。 もう二度とあんな孤独で寂しい思いをしない様に、絶対にヒューゴ様には近づかない。そして、素敵な殿方を見つけて、今度こそ幸せになる! そう決意したマリアだったが、なぜかヒューゴに気に入られてしまい… 恋愛に不器用な男女のすれ違い?ラブストーリーです。

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。 父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。 無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。 純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~

黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。

婚約者の心変わり? 〜愛する人ができて幸せになれると思っていました〜

冬野月子
恋愛
侯爵令嬢ルイーズは、婚約者であるジュノー大公国の太子アレクサンドが最近とある子爵令嬢と親しくしていることに悩んでいた。 そんなある時、ルイーズの乗った馬車が襲われてしまう。 死を覚悟した前に現れたのは婚約者とよく似た男で、彼に拐われたルイーズは……

貴族の爵位って面倒ね。

しゃーりん
恋愛
ホリーは公爵令嬢だった母と男爵令息だった父との間に生まれた男爵令嬢。 両親はとても仲が良くて弟も可愛くて、とても幸せだった。 だけど、母の運命を変えた学園に入学する歳になって…… 覚悟してたけど、男爵令嬢って私だけじゃないのにどうして? 理不尽な嫌がらせに助けてくれる人もいないの? ホリーが嫌がらせされる原因は母の元婚約者の息子の指示で… 嫌がらせがきっかけで自国の貴族との縁が難しくなったホリーが隣国の貴族と幸せになるお話です。

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

処理中です...