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第二部

48. 氷解

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「……貴方、ダンスがお上手なんですね。」
「そりゃ、まぁ、公爵家であれば当然の嗜みですからね。」

ホールの中央で、マキシムとロクサーヌは優雅にワルツを踊っていた。二人ともダンスの腕前は相当なもので、周囲の人々の注目を一身に惹きつけるほどであった。

そして二人が踊り始めてから少し経った頃、マキシムはそつなくリードをこなして、ロクサーヌのステップを軽やかに誘導しながら、とても真剣な顔で本題を切り出したのだった。

「それで、結論から申しますと、殿下とヴィクトール様の会話はロクサーヌ様の聞き間違えです。」
「嘘をついているかも知れませんわ!」
「……ロクサーヌ様。そのような事を言ってはなりません。誰かに聞かれたら不敬罪に取られかねませんよ。」

相変わらず危うい事をうっかり口にしてしまうロクサーヌにマキシムは肝を冷やしたが、なんとか顔色を変えずに穏やかに彼女を嗜めて、そして話を続けた。

「確かに、ロクサーヌ様の聞いた言葉を殿下たちは口にしていました。ですがロクサーヌ様は全ての言葉を聞いていないのです。ヴィクトール様は、
”いずれ国王陛下になる私の為に古い体制を打ち壊してこの国の輝かしい未来を手に入れましょう”
と言ったのですよ。」
「そ……そうなのですか……?」
マキシムから告げられた事実に、ロクサーヌは俄には信じられなかったのか、戸惑った様にそう呟いたのだが、ふと、彼女が最初に聞いていたヴィクトールとエリオットとの会話を思い出してハッとした。

「け、けれどそれでは、あのガーデンパーティーの時のお兄様の話はどうなのですか?!
“必ずあいつを抹殺して、あいつの立場を奪ってやる”
って言っていたわ!」
「ヴィクトール様が蹴落としたいのはアストラ公爵家のラウルです。あの二人昔から折り合いが悪かったからね。だからまぁ、何かしらラウルに嫌がらせは考えているんだとおもうけど、でもそれはロクサーヌ様が思っているような重大な物ではないんじゃ無いかな。」
「抹殺だなんて言葉を口にしてましたよ?穏やかではありませんわ?!」
「頭に血が上って、その時たまたま言葉が強くなってしまったんだと思いますよ。よくある事です。」

冷静に一つ一つロクサーヌからの問いに返答を返すマキシムに対して、ロクサーヌはそれでもまだ納得が出来ないようで困惑したように反論を続けた。

「そ、それでは、先程お兄様に言われた
ことは、どういう意味ですの?」
「一体何を言われたんですか?」
「”この計画は殿下の意向でもあるんだよ。この国の未来を考えれば絶対に必要な事だし、その為にロキシー、君も協力するんだよ。”と言われましたわ。」
「この計画の具体的な内容は聞きましたか?」
「……いいえ……」
マキシムと話して、ロクサーヌは遂に自分が早とちりをしていた事に気が付いたようで、次第に声が小さくなっていった。
そんな風に俯きがちになった彼女の様子を見て、マキシムは心の中でホッと息をつくと、努めて優しい声で彼女に声をかけた。

「まぁ、今こうして俺と踊っている事で、ロクサーヌ様は十分にヴィクトール様の計画の役に立っていますよ。」
「どう言う事ですの?!」
「つまり、ヴィクトール様は、ノルモンド家とスタイン家の仲を取り持った立役者になりたいんですよ。両家の関係の好転が殿下の意向でもあるからね。」
大分大雑把で、色々と端折ったが、大筋では間違った事は言っていない。これで全て丸く収まるだろうと、マキシムは思った。
すると彼の言葉を聞いて、ロクサーヌは驚いた様に目を丸くして、信じられないと言った顔でマキシムを見つめた。

「それってつまり……私……マキシム様と仲良くして良いの……?」
「えっ?まぁ、そうなった方が都合が良い人が多くいるって事ですね。」
「本当……本当に?」
信じられないといった顔で、こちらを見つめるロクサーヌに対して、マキシムは「本当です。」と頷いてみせた。
すると彼女は、目を潤ませながら嬉しそうに笑みを浮かべると、まるで花が咲くようにパッと顔を輝かせながらマキシムにお礼を言ったのだった。

「あのっ!!私、ずっとマキシム様にお伝えしたい事があったのです。あの時マキシム様が助けに来てくださったこと、本当に嬉しかったんです。有難うございました。」
「えっ、あ、あぁ。どういたしまして。」
彼女からの突然の言葉に、マキシムは戸惑いながらもなんとか返事を返したのだが、しかし、彼を本当に動揺させたのはこの後だった。

「あぁ、やっと言えましたわ。」
そう言って、ロクサーヌは少し頬を赤く染めて嬉しそうに微笑んで見せたのだ。

(そのギャップは反則だろう……!!)

普段のロクサーヌを知っている者からすれば、今の彼女の表情はとても新鮮で、そしてとても可愛らしく見えたのだ。

その笑顔が自分に向けられたことに動揺して、思わずマキシムはステップを踏み間違えてしまったのだった。
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