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第二部

53. ヴィクトールの策略

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「全く、ロキシー、全部マキシム様に聞いたよ。何やら君は盛大に勘違いをしていたみたいだねぇ。」
別室に移動したロクサーヌは、まだ薬茶の苦さが抜けないのか、渋い顔をしながらもしおらしく、遅れて会場を抜け出して来たヴィクトールからの説教を黙って受けていた。

「君にはとても迷惑をかけたようだね、申し訳なかったね。」
「えぇ、まぁ……」
すまないといった顔で謝罪の言葉を口にするヴィクトールに、マキシムは言葉を濁した。
そんな事無いと言ってあげたかったが、
今までの事を思い返すと、すんなりとその言葉が出てこなかったのだ。

「いいかい、ロクサーヌ。いつも言ってるけども、何事も一人で考えて結論づけたらいけないよ。後、人からの忠告は素直に聞き入れなさい。君の悪いところだよ。」
「はい……。以後、気を付けます……」

項垂れて反省の色を見せるロクサーヌに、ヴィクトールは「全く、困った子だね」と溜息をつくと彼女の頭を優しく撫でた。

「それで、落ち着いたかい?」
「はい、本当にごめんなさい。お兄様の主催の夜会であんな失態をしてしまうなんて……」
「起きてしまったことは仕方ないよ。それよりも、これからの事を話そうか。」
「これからの事……ですか?」
「そう。」

そう言ってヴィクトールがロクサーヌに向かってニッコリと笑うと、チラリとマキシムの方を見たので、その視線にマキシムは、自分も何か巻き込まれるのだろうと嫌な予感がした。

「さっきダンスを踊っている時に話しただろう?お前にも協力して貰うと。」
「ええ、そうですわね。けれども一体何を?」
「先程殿下とも話してね、この先の国の未来を考えると、五大公爵家はもっと深く結びつきを持った方がいいということになってね。
それでロクサーヌ、お前はシゼロン家のエリオット様と婚約をしてもらうよ。」

「えっ……?!」
「えっ……?!」

それは勿論ロクサーヌにとって寝耳に水であったが、マキシムにとっても寝耳に水だった。レオンハルトから聞いていた話と違ったのだ。

「エリオット様は、お兄様と親しいですが、私は面識がありませんわ……」
「名前と顔を知っていれば十分だよ。ロキシー、貴族の結婚とは家同士の契約みたいなものだと教えただろう?」
「それは……そうですが……」
突然の事に明らかにロクサーヌは戸惑い、難色を示していた。

貴族の婚姻で本人の意思が尊重される方が珍しいのだから、例え彼女が渋ってもヴィクトールが思惑があって決めたのならば最終的には婚約は取りまとまるのだろうと、そんな事を思いながらマキシムは他人事の様にこの兄妹のやりとりを横で聞いていたのだが、急にヴィクトールがとんでもない事を言い出したので無関係では居られなくなってしまったのだった。

「けれども、ロキシーがどうしても嫌だというのならば、別に五大公爵家の他の家でも良いんだ。」
そう言ってチラリとこちらを見るヴィクトールと目が合ったので、マキシムはその後に続く言葉を察してしまった。

「どうだろう、マキシム様。身内贔屓で恐縮だが、我が妹は見た目は中々良いと思う。少々我が強く思い込みが激しい性格だが、今回の件を抑え込められた貴方ならきっと上手くやれるだろうし、何より、スタイン家とノルモンド家の親交は殿下もお望みなんだ。」

ニッコリと笑うヴィクトールに対してマキシムは(やはりこの人も殿下と結託していたか……)と、心の中でボヤいて、笑顔を引き攣らせた。

「エリオット様とマキシム様でしたら、私はその……マキシム様の方が……」
「そうかい!聞き分けの良い子だねロキシーは。さぁ、マキシム様、妹もこう言っていますし、殿下の意向でもありますこのお話、いかがでしょう?」
「殿下の意向だというのは知っていますが……」

顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俯くロクサーヌと、期待に満ちた顔でこちらを見てくるヴィクトールの兄妹がどこか楽しそうなのに対して、マキシムは渋い顔をしていた。

長年ノルモンド家から誹謗されてきたスタイン家の嫡男として、この話はそう簡単に受け入れられるものでは無かったし、それに妹のアリッサの気持ちの問題もあった。

だからヴィクトールに対して難色を示すと、
彼は一つ大きなため息を吐き出して、真面目な顔でロクサーヌに告げたのだった。

「俺は……貴女が以前のお茶会で妹にとった態度を忘れた訳ではありません。きっと妹はノルモンド家と親戚になる事を嫌がるでしょう。」
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