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第二部
49. ウィルフレッド
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ヴィクトールとの話し合いを終えて、マグリットは夜会会場を一人で歩き回っていた。
人を探しているのだ。
暫く会場内を彷徨って、そしてダンスホールから少し外れた所で談笑している数人の男女の中にその人を見つけると、躊躇せずつかつかと歩み寄り、ぐいっとその人の腕を掴んだのだった。
「ウィル!!」
「マグリット様?いきなり愛称呼びとは大胆ですね。」
「あら、だって貴方が前に私に言ったじゃない。私の事はウィルと呼んでと。」
マグリットが探していた人物、ウィルフレッドは、友人達と談笑していた所に急に彼女から腕をぐいっと取られて愛称で呼ばれた為、
驚いて少々目を丸くして硬直してしまったが、直ぐに気を取り直して、興味津々でこちらを見てくる友人たちの視線を察して慌てたように笑顔を作ると、マグリットをこの場から離す為に彼女の手を取った。
「……少し場所を変えましょうか。」
ニッコリと笑いながらそう言うと、好奇心に満ちた目で見てくる友人たちの視線を振り切って、ウィルフレッドはマグリットをスマートにテラスへとエスコートした。
「何考えてるんですか?!あんな所で愛称呼びをするなんて、周りに誤解されますよ!!」
夜会会場から外のテラスへと出てくると、そこには誰もおらず、二人で話すのにおあつらえ向きだった。
周囲に人が居ないことを確認すると、ウィルフレッドは掴んでいた手を離して、改めてマグリットに苦言を伝えたが、しかし彼女は、全く気にしないといった感じで、悠然と微笑んでいたのだった。
「いいわよ。何も困らないわ。」
「……いいんですか?」
「えぇ。いいわよ。」
「……こちらが反応に困ります……」
ニッコリと笑って堂々と言い放つマグリットに、ウィルフレッドは手で口元を隠して、少し困ったように顔を逸らした。
そんな彼の様子に、マグリットは少し嬉しそうに微笑むと、そのままゆっくりと彼の横顔を見上げながら静かに話し出した。
「ねぇ、貴方はどうして道化師の化粧までして吟遊詩人をやっていたの?」
「そんなのは単純ですよ。歌いたかったから。」
とても明確で単純な答えに、マグリットはキョトンとした様な顔をした。
ただ歌いたいだけならば、何処でだって歌えるだろうに、何故変装して身分を隠してまであんな目立つ所で歌っていたのか、そこに結び付かないのだ。
すると、腑に落ちていない彼女の様子に気づいたウィルフレンドは少し悲しそうに微笑みながら、自分の事を静かに話し出したのだった。
「僕はね、子供の頃から歌を歌ったり、楽器を奏でたり、とにかく音楽というものが大好きだったんだ。僕は三男だから家は継がなくていいし好きな事を仕事にできると思って、宮廷音楽家になろうとしたんだけど、親がね、大反対でさ。侯爵家の人間が、そんな職業に就くなって言うんだよ。」
確かに宮廷音楽家は、才能さえあれば平民でもなれる職業なので、外聞を気にする高位貴族であれば、息子がその職に就くのを嫌うだろう。その辺りの感覚は、侯爵家の令嬢であるマグリットもよく分かっていた。
だから悲しそうに笑うウィルフレッドに同情を寄せながら、静かに彼の話の続きを聞いた。
「でもそんなのって理不尽だろう?宮廷音楽家だって立派な職業だし、恥じるものでは無い。だから僕は親から歌を取り上げられたくなくって、先ずは実績を作ることにしたんだ。道化師の化粧して素性を隠して、あの場所で好きに歌うように勧めてくれたのはアルバートでね、”市井で人気が出て、王侯貴族の目にも止まるようになったら、流石にご両親も馬鹿にしないだろう”ってね」
「あー……」
そう言えば、あの道化師を最初に紹介したのはアルバートからだったと聞いていたので、マグリットは色々と彼の策略を感じ取ってしまった。
「そして、そのお陰で王太子殿下の目にも止まることになったし、大変名誉な役目も降ってきた。」
「それは、アイリーシャの計画のことね?」
「そう。僕の歌で民衆の意識を変えるだなんて、そんな壮大な事責任重大だけれども、でも、こんなチャンス他には無いからね。」
そう言ってキラキラした笑顔を見せるウィルフレッドは本当に嬉しそうだった。そして、そんな彼を見ているとマグリットの方まで胸が温かくなってくるのであった。
人を探しているのだ。
暫く会場内を彷徨って、そしてダンスホールから少し外れた所で談笑している数人の男女の中にその人を見つけると、躊躇せずつかつかと歩み寄り、ぐいっとその人の腕を掴んだのだった。
「ウィル!!」
「マグリット様?いきなり愛称呼びとは大胆ですね。」
「あら、だって貴方が前に私に言ったじゃない。私の事はウィルと呼んでと。」
マグリットが探していた人物、ウィルフレッドは、友人達と談笑していた所に急に彼女から腕をぐいっと取られて愛称で呼ばれた為、
驚いて少々目を丸くして硬直してしまったが、直ぐに気を取り直して、興味津々でこちらを見てくる友人たちの視線を察して慌てたように笑顔を作ると、マグリットをこの場から離す為に彼女の手を取った。
「……少し場所を変えましょうか。」
ニッコリと笑いながらそう言うと、好奇心に満ちた目で見てくる友人たちの視線を振り切って、ウィルフレッドはマグリットをスマートにテラスへとエスコートした。
「何考えてるんですか?!あんな所で愛称呼びをするなんて、周りに誤解されますよ!!」
夜会会場から外のテラスへと出てくると、そこには誰もおらず、二人で話すのにおあつらえ向きだった。
周囲に人が居ないことを確認すると、ウィルフレッドは掴んでいた手を離して、改めてマグリットに苦言を伝えたが、しかし彼女は、全く気にしないといった感じで、悠然と微笑んでいたのだった。
「いいわよ。何も困らないわ。」
「……いいんですか?」
「えぇ。いいわよ。」
「……こちらが反応に困ります……」
ニッコリと笑って堂々と言い放つマグリットに、ウィルフレッドは手で口元を隠して、少し困ったように顔を逸らした。
そんな彼の様子に、マグリットは少し嬉しそうに微笑むと、そのままゆっくりと彼の横顔を見上げながら静かに話し出した。
「ねぇ、貴方はどうして道化師の化粧までして吟遊詩人をやっていたの?」
「そんなのは単純ですよ。歌いたかったから。」
とても明確で単純な答えに、マグリットはキョトンとした様な顔をした。
ただ歌いたいだけならば、何処でだって歌えるだろうに、何故変装して身分を隠してまであんな目立つ所で歌っていたのか、そこに結び付かないのだ。
すると、腑に落ちていない彼女の様子に気づいたウィルフレンドは少し悲しそうに微笑みながら、自分の事を静かに話し出したのだった。
「僕はね、子供の頃から歌を歌ったり、楽器を奏でたり、とにかく音楽というものが大好きだったんだ。僕は三男だから家は継がなくていいし好きな事を仕事にできると思って、宮廷音楽家になろうとしたんだけど、親がね、大反対でさ。侯爵家の人間が、そんな職業に就くなって言うんだよ。」
確かに宮廷音楽家は、才能さえあれば平民でもなれる職業なので、外聞を気にする高位貴族であれば、息子がその職に就くのを嫌うだろう。その辺りの感覚は、侯爵家の令嬢であるマグリットもよく分かっていた。
だから悲しそうに笑うウィルフレッドに同情を寄せながら、静かに彼の話の続きを聞いた。
「でもそんなのって理不尽だろう?宮廷音楽家だって立派な職業だし、恥じるものでは無い。だから僕は親から歌を取り上げられたくなくって、先ずは実績を作ることにしたんだ。道化師の化粧して素性を隠して、あの場所で好きに歌うように勧めてくれたのはアルバートでね、”市井で人気が出て、王侯貴族の目にも止まるようになったら、流石にご両親も馬鹿にしないだろう”ってね」
「あー……」
そう言えば、あの道化師を最初に紹介したのはアルバートからだったと聞いていたので、マグリットは色々と彼の策略を感じ取ってしまった。
「そして、そのお陰で王太子殿下の目にも止まることになったし、大変名誉な役目も降ってきた。」
「それは、アイリーシャの計画のことね?」
「そう。僕の歌で民衆の意識を変えるだなんて、そんな壮大な事責任重大だけれども、でも、こんなチャンス他には無いからね。」
そう言ってキラキラした笑顔を見せるウィルフレッドは本当に嬉しそうだった。そして、そんな彼を見ているとマグリットの方まで胸が温かくなってくるのであった。
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