上 下
80 / 109
第二部

36. ロクサーヌの胸の内1

しおりを挟む
「ロクサーヌ様、この度の夜会は様々な方にお声掛けなされているんですね。」

アイリーシャは周囲を見渡して、参加者の顔ぶれを眺めると、ノルモンド家の夜会にミューズリー側の貴族が出席している事が珍しかった事から、そのような所感をロクサーヌに伝えた。

するとそんなアイリーシャからの言葉に、ロクサーヌも賛同したのだった。

「そうね、お祖父様が居たら開催できなかったでしょうね。ミューズリ側の貴族を招く夜会だなんて。」

ミューズリーを毛嫌いしている祖父が居たのならば、きっとマキシムをはじめとした、ミューズリーの系譜の人間は我が家の敷居を跨げなかっただろうとロクサーヌも思っていたのだ。

今宵の夜会は、祖父である前ノルモンド公爵が静養のために領地に帰っているから開催できたのだと。

どうやら兄は、祖父と違って血筋など気にせずに、とにかく自分の糧になるか否かで、人との繋がりを作ろうとしている様で、ミューズリー側の貴族とも積極的に関わろうとしていた。だからきっとこのタイミングを前からを狙って居たのだろうなと、妹であるロクサーヌは察した。

そしてそれにはロクサーヌも内心感謝していた。兄が分け隔てなく上位貴族を招待してくれたおかげで、マキシムとまた会う事が出来たのだから。

彼女は、偶然聞いてしまった兄の恐ろしい計画を止めることで頭が一杯であったが、そんな中でも、内心マキシムと再び会って話せた事を少なからず嬉しく思っていたのだ。

あのガーデンパーティーの時に彼がレティシアではなく自分を助けてくれた事で、ロクサーヌの中でマキシム・ステインに対する感情が大きく揺れていたから。

彼は対立するステイン家の人間なのに、王太子殿下の婚約者であるレスティアではなく、ノルモンド家の自分を親身になって助けてくれたのだ。

そんなロクサーヌにとって予想外の彼の行動に、箱入りで育って恋愛経験が全くない御令嬢の心は、動かされない訳が無かった。

けれどもこの仄かな気持ちは、決して人に知られてはいけなかった。自分はノルモンド家の人間だからお祖父様が毛嫌いしているミューズリーの貴族とは仲良く出来る訳ないと、そう思い込んでいたのだ。

だから胸の奥に仕舞い込んで、この思いを悟られない様に裏腹な態度で振る舞っていたのだが、しかし、そんなロクサーヌの胸の内など知らないアイリーシャが、微笑みながら無自覚に彼女を追い込むのだった。

「そうですね、マキシム様もお呼びできて良かったですね。」
「な、何故そこにマキシム様の名前が出てくるのですか?!」
「何故って、とても楽しそうにお話しされてたじゃないですか。」
「見間違えですわ!!」

アイリーシャにまるで胸の内を見透かされた様な事を言われて、ロクサーヌは思わず顔を赤くして、ムキになって反論した。

そんなことない!
絶対にない!!

そう言って、アイリーシャの言葉をひたすらに否定したのだが、すると今度は、そんな彼女の必死の様子をみて、少し意外そうにミハイルまでもが口を開いたのだった。

「ロクサーヌ様は案外マキシムと仲が良いんですね。」

あれが楽しそうな会話に見えていたかと言ったら、ミハイルの目にはそうは映らなかったが、それでも遠慮なく言いたい事を言い合っている様子は険悪とは程遠い、痴話喧嘩の様に思えたのだ。

いつもゲンナリした表情でロクサーヌからの手紙を読んでいるマキシムの姿を見ていたから、もっと冷たい感じで彼女に接するのかと思っていたが、思いの外ちゃんと面倒を見ていたことに、ミハイルは驚いたのであった。

「仲が良いだなんて、そんな!違いますわ!ただ、私が困っている事を相談できるのがあの方しかいなかったから仕方なく一緒に居るだけですわ!」
二人から続け様に指摘を受けて、ロクサーヌは顔を赤くしながらも躍起になって否定を続けた。

「仕方が無いから彼を頼っているだけであって、他に人がいたらスタイン家なんかに頼らないですわ!!」
全くもって本心とは真逆の言葉であるが、兎に角ロクサーヌは否定を続けたのだ。

するとミハイルは、そんな頑ななロクサーヌの様子を見て少しだけ考える様な素振りを見せると、アイリーシャの方を見て彼女と目配せをし、そしてロクサーヌにある提案を持ちかけたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

妊娠した愛妾の暗殺を疑われたのは、心優しき正妃様でした。〜さよなら陛下。貴方の事を愛していた私はもういないの〜

五月ふう
恋愛
「アリス……!!君がロゼッタの食事に毒を入れたんだろ……?自分の『正妃』としての地位がそんなに大切なのか?!」  今日は正妃アリスの誕生日を祝うパーティ。園庭には正妃の誕生日を祝うため、大勢の貴族たちが集まっている。主役である正妃アリスは自ら料理を作り、皆にふるまっていた。 「私は……ロゼッタの食事に毒を入れていないわ。」  アリスは毅然とした表情を浮かべて、はっきりとした口調で答えた。  銀色の髪に、透き通った緑の瞳を持つアリス。22歳を迎えたアリスは、多くの国民に慕われている。 「でもロゼッタが倒れたのは……君が作った料理を食べた直後だ!アリス……君は嫉妬に狂って、ロゼッタを傷つけたんだ‼僕の最愛の人を‼」 「まだ……毒を盛られたと決まったわけじゃないでしょう?ロゼッタが単に貧血で倒れた可能性もあるし……。」  突如倒れたロゼッタは医務室に運ばれ、現在看護を受けている。 「いや違う!それまで愛らしく微笑んでいたロゼッタが、突然血を吐いて倒れたんだぞ‼君が食事に何かを仕込んだんだ‼」 「落ち着いて……レオ……。」 「ロゼッタだけでなく、僕たちの子供まで亡き者にするつもりだったのだな‼」  愛人ロゼッタがレオナルドの子供を妊娠したとわかったのは、つい一週間前のことだ。ロゼッタは下級貴族の娘であり、本来ならばレオナルドと結ばれる身分ではなかった。  だが、正妃アリスには子供がいない。ロゼッタの存在はスウェルド王家にとって、重要なものとなっていた。国王レオナルドは、アリスのことを信じようとしない。  正妃の地位を剥奪され、牢屋に入れられることを予期したアリスはーーーー。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

〖完結〗私が死ねばいいのですね。

藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。 両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。 それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。 冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。 クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。 そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全21話で完結になります。

あなたの事は好きですが私が邪魔者なので諦めようと思ったのですが…様子がおかしいです

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のカナリアは、原因不明の高熱に襲われた事がきっかけで、前世の記憶を取り戻した。そしてここが、前世で亡くなる寸前まで読んでいた小説の世界で、ヒーローの婚約者に転生している事に気が付いたのだ。 その物語は、自分を含めた主要の登場人物が全員命を落とすという、まさにバッドエンドの世界! 物心ついた時からずっと自分の傍にいてくれた婚約者のアルトを、心から愛しているカナリアは、酷く動揺する。それでも愛するアルトの為、自分が身を引く事で、バッドエンドをハッピーエンドに変えようと動き出したのだが、なんだか様子がおかしくて… 全く違う物語に転生したと思い込み、迷走を続けるカナリアと、愛するカナリアを失うまいと翻弄するアルトの恋のお話しです。 展開が早く、ご都合主義全開ですが、よろしくお願いしますm(__)m

どうやら断罪対象はわたくしのようです 〜わたくしを下級貴族と勘違いされているようですが、お覚悟はよろしくて?〜

水都 ミナト
恋愛
「ヴァネッサ・ユータカリア! お前をこの学園から追放する! そして数々の罪を償うため、牢に入ってもらう!」  わたくしが通うヒンスリー王国の王立学園の創立パーティにて、第一王子のオーマン様が高らかに宣言されました。  ヴァネッサとは、どうやらわたくしのことのようです。  なんということでしょう。  このおバカな王子様はわたくしが誰なのかご存知ないのですね。  せっかくなので何の証拠も確証もない彼のお話を聞いてみようと思います。 ◇8000字程度の短編です ◇小説家になろうでも公開予定です

それでも、私は幸せです~二番目にすらなれない妖精姫の結婚~

柵空いとま
恋愛
家族のために、婚約者である第二王子のために。政治的な理由で選ばれただけだと、ちゃんとわかっている。 大好きな人達に恥をかかせないために、侯爵令嬢シエラは幼い頃からひたすら努力した。六年間も苦手な妃教育、周りからの心無い言葉に耐えた結果、いよいよ来月、婚約者と結婚する……はずだった。そんな彼女を待ち受けたのは他の女性と仲睦まじく歩いている婚約者の姿と一方的な婚約解消。それだけではなく、シエラの新しい嫁ぎ先が既に決まったという事実も告げられた。その相手は、悪名高い隣国の英雄であるが――。 これは、どんなに頑張っても大好きな人の一番目どころか二番目にすらなれなかった少女が自分の「幸せ」の形を見つめ直す物語。 ※他のサイトにも投稿しています

式前日に浮気現場を目撃してしまったので花嫁を交代したいと思います

おこめ
恋愛
式前日に一目だけでも婚約者に会いたいとやってきた邸で、婚約者のオリオンが浮気している現場を目撃してしまったキャス。 しかも浮気相手は従姉妹で幼馴染のミリーだった。 あんな男と結婚なんて嫌! よし花嫁を替えてやろう!というお話です。 オリオンはただのクズキモ男です。 ハッピーエンド。

処理中です...