当て馬令嬢だと落ち込んでいたらいつの間にかお兄様に外堀を埋められて、結果、真の最愛の人に気づく事が出来ました。

石月 和花

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第二部

28. 空回りするロクサーヌ2

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「えっ?マキシム様ってスタイン家の?!」
ロクサーヌの口から思わぬ人物の名前が出てきて、マグリットは思わず聞き返してしまった。

だってミューズリ出自の貴族を毛嫌いしているノルモンド公爵家のロクサーヌが、ミューズリ系譜のスタイン公爵家のマキシムと通じているなど、誰もそんな事思いもしないのだ。

にわかには信じられずにマグリットはロクサーヌへ再度問いかけてみたが、

しかし彼女はしまったというような顔をすると、慌てたようにそれを否定したのだった。

「貴女マキシム様と交流があるの?ノルモンド家の貴女が?!」
「何を仰っているの?貴女の聞き間違えですわ」
「でも、確かにマキシム様って仰ってたわ。」
「知りませんわ!そんなお方!!」

同じ五大公爵家同士なんだ、流石に知らないは無理があるだろうとマグリットは思ったが、ロクサーヌはあくまでも知らないで押し通すつもりなのか、一向に発言を認めなかった。

頑なに否定するロクサーヌと中々引き下がらないマグリット。二人は平行線のまま、どちらも譲りそうに無かった。

そんな二人の膠着した様子を見兼ねて、ある程度の事情を知っているアイリーシャはつい口を挟んでしまった。

「マグリット駄目なのよ。ロクサーヌ様がマキシム様とお手紙のやり取りをしている事は誰にも言えない秘密なのよ。」
「貴女が無自覚にバラしているじゃ無い!!」

アイリーシャは、至って真面目にロクサーヌに助け舟を出したつもりだったが、結果彼女の発言が決め手となったのだった。

信じられない事だが、それが事実であるとマグリットは確信したのだ。

「まぁ、じゃあ本当なのね?貴女はマキシム様と交流があるのね?!」

マグリットは驚きつつも目を輝かせてロクサーヌに詰め寄った。

他人の恋の話。
こんなに面白い話はない。
それがしかも、長年対立しているノルモンド家とスタイン家の令嬢令息だというのだから、興味を惹かれない筈が無かった。

「あっ……貴女が思っているような手紙のやり取りでは有りませんわ!!」
「でも、誰にも言えないのでしょう?」
「それは……そうですけど……」

マグリットからの執拗な追及に、遂にロクサーヌは口籠ってしまった。

(言える訳無いじゃありませんか。お兄様がクーデターを企んでいるだなんて……)

こんな事、一緒に会話を聞いたマキシムにしか相談出来ないのだ。

けれどもマグリットは、言葉に詰まってしおらしくなったロクサーヌの態度を恥じらいだと勘違いをして、勝手に一人盛り上がっていったのだった。

「ロクサーヌ様、私は貴女のことを誤解していましたわ。」
「いきなりなんですの?!」
「敵対する両家の許されない二人の恋……まるで物語みたいですわ!!」
「貴女は私の事誤解したままですわよ??!」
「大丈夫ですわ、私はお二人の事応援しますわ!!」
「話を聞きなさい!!」

暴走するマグリットをロクサーヌは止められなかった。
彼女の中では、ロクサーヌとマキシムの恋物語が出来上がってしまったのだ。

「それで、一体何がきっかけだったのですの?どちらからだったんですの?」
「良い加減になさって?!だから誤解ですわ!!」

痺れを切らして、遂にロクサーヌは淑女らしからぬ大声をあげて勢いよく立ち上がって、マグリットに詰め寄ったのだった。

「良いです事?この事は誰にも言ってはなりませんからね?!!」
ロクサーヌは鬼気迫る顔でマグリットに迫ると、怒りを押し殺したような声で、彼女に凄んだ。
自分がスタイン家と仲良くしている等と間違った噂が流されて、お祖父様の耳にでも入ってしまったら、大変なのだ。
それだけは絶対に避けなくてはならなくて、ロクサーヌは切羽詰まったような目でマグリットをじっと見つめた。

「マグリット、ロクサーヌ様のお祖父様って凄く厳格な方みたいなの。だから、私からもお願い。今の話は誰にも言わないであげてね。」
必死に訴えるロクサーヌを擁護するように、アイリーシャも口を添えた。以前屋敷で見せた怯えたような彼女の姿を見ているので、ロクサーヌの中でどれだけ祖父が絶対であるか察しているのだ。

「分かりましたわ。ここでの話は、私の心の内に留めておいてあげますわ。」

そんな真剣に訴える二人を見て、コレは茶化したりしては行けない事なのだなと悟って、マグリットは彼女の要望を素直に聞き入れた。

そして互いの家族に見つかってはいけないからと、隠れて文通を重ねる二人は、いよいよ持って恋物語の主人公だなとマグリットは思ったが、本当にそうならば、ノルモンド家の前公爵のミューズリ嫌いは有名な話だったので、彼女のお祖父様から、この二人の秘密の交流を守ってあげなくてはと、謎の使命感も芽生えたのだった。

「大丈夫ですわロクサーヌ様。誰にも言いませんし、私にできる事が有ればなんでも言って下さいね。出来る限り協力しますわ。」

マグリットはロクサーヌの手を取ると、労るような目で彼女に優しく語りかけた。

障害の多い二人の恋を人知れず応援するのは話を聞いてしまった者の務めだと本気で思っているのだ。

「ま、まぁ、分かればよろしいのですよ。」

ロクサーヌは急なマグリットの態度の変化に少し戸惑ったが、彼女から誰にも話さないという言質が取れるとホッとして満足した顔で席に座った。
これでお祖父様に知られる心配は潰せたと安心したのだ。

しかしこの時ロクサーヌは完全に忘れていた。自分が何しにここに来たのかを。

マグリットを静められた事で満足してしまい、彼女を兄ヴィクトールから遠ざけるという本来の目的を完全に忘れてしまい、結局それはこの後も有耶無耶なままになってしまったのだった。
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