当て馬令嬢だと落ち込んでいたらいつの間にかお兄様に外堀を埋められて、結果、真の最愛の人に気づく事が出来ました。

石月 和花

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第二部

23. その頃のアイリーシャとミハイルは1

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王太子主催のガーデンパーティーに、ミハイルは珍しく招待客として参加していた。
レオンハルトの計らいで、側近としてでは無く、シュテルンベルグの未来を担う若者の一人として招待されたのだ。

仕事ではないので常に王太子の側に控えている必要もなく、誰とどこでどのように過ごしていても良いのだ。

だからミハイルはアイリーシャ共にこのパーティーに参加して、彼女と二人でゆっくりとパーティーを楽しみたかったのだが、しかし現実はそう上手くはいかなかった。

婚約したての話題の二人を、他の参加客が気にしない訳が無いのだ。

なので二人の前には常に誰かしらが挨拶に訪れて、その波が途切れなかったのだ。


「大丈夫ですか?疲れていませんか?」
ミハイルは挨拶に来る人の合間を縫って、隣に立つアイリーシャを気遣った。

ずっと立ちっぱなしであったし、何人もの人と連続で話したので相当疲れているはずなのだ。

だけれども彼女は、疲れなど全く見せずににっこりと微笑んだのだった。

「これくらいなら大丈夫ですわ。でもそうですね、少し喉が渇きましたわ。」

可憐な見た目とは裏腹にアイリーシャは案外タフなのだ。それもこれも、長年の王太子殿下の婚約者候補として受けて来た教育の賜物なのだが、そんな彼女の凛とした佇まいはとても美しくて、ミハイルは思わず見惚れてしまった。

「……ミハイル様?」
「あぁ、いえ。沢山挨拶をしましたから喉が渇きましたね。こちらに挨拶に来る人も減って来ましたし……少し休みましょうか?」
「いえ、駄目ですわ。まだ肝心な方にご挨拶出来ていませんわ。」
「あぁ……。確かにそうですね……」

アイリーシャに指摘されて、ミハイルは故意に後回しにしていた事を有耶無耶に出来なくなってしまった。

二人は、このパーティーの主催のレオンハルトにまだ挨拶をしていないのだ。

正直言って、ミハイルはレオンハルトの元にアイリーシャを連れて行きたくは無かった。

彼女が、花束の主をレオンハルトだと誤解していた事もあるのだが、何よりも、彼が何か碌でも無い事を言い出さないかと不安なのだ。

しかし、流石に主催を無視したままでいる訳にもいかないので、ミハイルは仕方なくアイリーシャと共にレオンハルトの元へ挨拶に向かったのだった。



「殿下、本日はお招きいただき有り難うございました。」
「やぁ、お二人さん。楽しんでいるかな?」
「はい。楽しませていただいております。」

少し離れた木陰に用意させた椅子に座って招待客の様子を眺めていたレオンハルトの元を訪れると、ミハイルとアイリーシャは彼に恭しく頭を下げて挨拶をした。
挨拶ばかりでとてもじゃ無いがパーティー自体を楽しんでいるとは言えなかったが、そこは、大人の対応で受け答えた。

「それは良かった。ミハイル、アイリーシャ嬢、改めて二人にこの言葉を贈らさせてもらうよ。婚約おめでとう。」
「もったいないお言葉、有難うございます。」
「アイリーシャ嬢は、レスティアとも仲良くしているんだってね。」
「はい。レスティア様には良くお茶会に呼んでいただいて、仲良くしてもらっていますわ。」
「そうか、これからも彼女の事をよろしくね。」
「勿論ですわ。」

レオンハルトの言葉に、アイリーシャはそう笑顔で応えた。それから彼女は不思議そうに周囲を見渡すと、おずおずと彼に質問をしたのだった。

「ところで殿下、レスティア様はご一緒では無いのですか?ご挨拶をしたかったのですが、どこにも見当たらないのです。」

「あぁ……彼女にはちょっとしたお願い事を頼んであるから少しここには居ないけど、もう少ししたら帰ってくると思うから、そうしたら会えるよ。」

そう言ってレオンハルトが満面の笑みでにっこりと笑うので、ミハイルはなんだか嫌な予感がした。
この顔をする時の殿下は、大抵の良くない事を考えているのだ。
自分たちがそれに巻き込まれないようにと、挨拶も済んだ事でミハイルは早々にこの場から立ち去ろうとしたのだが、その時不意に、会場の一角から大きな拍手が湧き上がったのだった。

音に驚いて三人がそちらの方に目をやると、余興として呼んだ吟遊詩人が、来賓客の前で歌を披露して大いに観衆の心を掴んでいたのだ。
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