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第二部
10. 嘘と涙と吟遊詩人2
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時刻が丁度お茶の時間であったこともあり、四人が案内されたテーブルには、ティーセットとスコーンやブラウニー、ビスコッティといった焼き菓子が並べられていた。
そしてそんな焼き菓子たちを見て目を輝かせているアイリーシャを嬉しそうに横目で見ながら着席すると、ミハイルは早速ローランに話を促したのだった。
「それで、話というのはなんでしょう?」
「はい、これは極秘の話なので絶対に外に漏らさないで欲しいのですが……」
「分かりました。秘密は守ります、続けてください。」
ミハイルに念押しをすると、ローランは少し声を低くして胸ポケットから一つの石を取り出すと、それをミハイルに渡しながら重々しく説明を始めた。
「実はですね、先日我が領地で大規模な翡翠の鉱脈が発見されたのです。これはそこで取れた翡翠の一部です。」
「ほぉ……これはなかなか見事な翡翠ですね。大ぶりで形も良いし何より色が綺麗だとても澄んだ緑色ですね。」
「そうでしょう?!流石メイフィール公子。価値を分かっていらっしゃる。」
ミハイルが手渡された翡翠を褒めると、ローランはパァッと顔を明るくし、今度は声を高くして興奮気味に話を続けた。
「そこで公子様にご相談なんですが、鉱脈を見つけたはいいが、うちでは採掘技術が足りなくて思うように採掘が進んでいないのです。そこで今、スポンサーを募っているのですが、どうでしょう?公子様も参加していただけませんか?採掘した翡翠を山分けしましょう!!」
熱意のこもった声でローランはミハイルに詰め寄った。そして身振り手振りを交えながら、いかに今が好機であるかを語り続けた。
「新たに国交が始まったジオール公国ではシュテルンベルグ産の宝石が人気なんです。だから、これから翡翠の価値もどんどんと値上がりますよ!うちの鉱脈はまだどこにも公表していないんですがきっとすぐに色んなところから目をつけられます。けれどそんな見ず知らずの奴らに利益を配分より、可愛い恋人の従姉妹の婚約者である公子様にこそこの恩恵を分け合いたいと、こうして先に話を持ちかけているんです。」
しかし、キラキラした顔で熱弁を振うローランと対照的に、彼の話を聞けば聞くほどミハイルは顔に困惑の色を示していったのだった。
まず、恋人の従姉妹の婚約者という間柄が彼が言う程近しい関係だとは思えない。
そりゃ、公爵家に取り入ろうとする貴族は多いし、少しでも繋がりがあるならそれを利用したいのだなと言うのは想像が出来るのが、少し馴れ馴れしいなと警戒を強めた。
それにジオール公国でシュテルンベルグ産の宝石が流行っているなど聞いたことがないし、そもそもあの国は排他的な気質で外国の物が流行るなど考えにくいのだ。
表面だけ聞いて彼の言葉通りに物事を受け止めれば、確かにこれはとても上手い儲け話なのだろう。
けれどミハイルは、どうにもローランを信用できなかった。
そして横で聞いていたアイリーシャも、ローランの説明に内心首を傾げていた。確かマグリットの話だと、新しい貿易のルートを開拓中でそれについてミハイルに相談したいといっていたのだから、今の話はそれと食い違っているのだ。
するとそんな二人の困惑する空気を代弁するかのように、マグリットもまた、戸惑い気味に口を開いたのだった。
「あの……ローラン?この前言ってた話と違わない?貴方前は、ジオール公国との貿易がビジネスチャンスだから新しい商会を設立して販路ルートを確保したい。その為の出資者を探しているって言ってなかった?」
「それはねマグリット。発掘した翡翠を販売するための商会を設立したいって事さ。まぁとにかく採掘も販売も、成功するためには資金が必要なんだよ。君のお父上に認めて貰うためにもね。」
「そう……なのね?」
「あぁ、そうだよ。出資者さえいれば、君との未来のために前進できるんだ。」
そう言いながらローランはマグリットの両手を握りしめて、彼女を安心させるように優しく微笑みかけた。
「そう……」
彼のその言葉にマグリットの瞳にはまだどこか不安の色が残っていたが、それでも一応は納得したのか、それ以上は何も言わずに口を閉ざしてじっとローランを見つめ返していた。
(あぁ、これは……)
これはどう見ても恋愛詐欺だろう。
目の前での二人のやり取りにミハイルはそう確信したのだ。
マグリット自身に自由に使える財は無い。だから彼女の父親である侯爵を当てにしていたのだろうが、門前払いとなった事で彼女がツテのある貴族から出資金を集める計画に変えてきたといったところだろうか。
ミハイルは自分が標的にされた事を内心苦笑しながら、さてどうしたものかとチラリと横に座るアイリーシャを見遣った。
心優しい彼女の事だから、この二人のやり取りを目の前で見て、「是非協力してあげてください!」なんて言い出すのではないだろうか。そんな心配が胸をよぎったのだ。
けれどもそんなミハイルの腹の内など露も知らないアイリーシャは、二人のやり取りを黙って見守ってたかと思うと、スッキリした様な顔でポンっと小さく両手を叩き合わせて、この場にいる誰しもが思っても見ない事を言い出したのだった。
そしてそんな焼き菓子たちを見て目を輝かせているアイリーシャを嬉しそうに横目で見ながら着席すると、ミハイルは早速ローランに話を促したのだった。
「それで、話というのはなんでしょう?」
「はい、これは極秘の話なので絶対に外に漏らさないで欲しいのですが……」
「分かりました。秘密は守ります、続けてください。」
ミハイルに念押しをすると、ローランは少し声を低くして胸ポケットから一つの石を取り出すと、それをミハイルに渡しながら重々しく説明を始めた。
「実はですね、先日我が領地で大規模な翡翠の鉱脈が発見されたのです。これはそこで取れた翡翠の一部です。」
「ほぉ……これはなかなか見事な翡翠ですね。大ぶりで形も良いし何より色が綺麗だとても澄んだ緑色ですね。」
「そうでしょう?!流石メイフィール公子。価値を分かっていらっしゃる。」
ミハイルが手渡された翡翠を褒めると、ローランはパァッと顔を明るくし、今度は声を高くして興奮気味に話を続けた。
「そこで公子様にご相談なんですが、鉱脈を見つけたはいいが、うちでは採掘技術が足りなくて思うように採掘が進んでいないのです。そこで今、スポンサーを募っているのですが、どうでしょう?公子様も参加していただけませんか?採掘した翡翠を山分けしましょう!!」
熱意のこもった声でローランはミハイルに詰め寄った。そして身振り手振りを交えながら、いかに今が好機であるかを語り続けた。
「新たに国交が始まったジオール公国ではシュテルンベルグ産の宝石が人気なんです。だから、これから翡翠の価値もどんどんと値上がりますよ!うちの鉱脈はまだどこにも公表していないんですがきっとすぐに色んなところから目をつけられます。けれどそんな見ず知らずの奴らに利益を配分より、可愛い恋人の従姉妹の婚約者である公子様にこそこの恩恵を分け合いたいと、こうして先に話を持ちかけているんです。」
しかし、キラキラした顔で熱弁を振うローランと対照的に、彼の話を聞けば聞くほどミハイルは顔に困惑の色を示していったのだった。
まず、恋人の従姉妹の婚約者という間柄が彼が言う程近しい関係だとは思えない。
そりゃ、公爵家に取り入ろうとする貴族は多いし、少しでも繋がりがあるならそれを利用したいのだなと言うのは想像が出来るのが、少し馴れ馴れしいなと警戒を強めた。
それにジオール公国でシュテルンベルグ産の宝石が流行っているなど聞いたことがないし、そもそもあの国は排他的な気質で外国の物が流行るなど考えにくいのだ。
表面だけ聞いて彼の言葉通りに物事を受け止めれば、確かにこれはとても上手い儲け話なのだろう。
けれどミハイルは、どうにもローランを信用できなかった。
そして横で聞いていたアイリーシャも、ローランの説明に内心首を傾げていた。確かマグリットの話だと、新しい貿易のルートを開拓中でそれについてミハイルに相談したいといっていたのだから、今の話はそれと食い違っているのだ。
するとそんな二人の困惑する空気を代弁するかのように、マグリットもまた、戸惑い気味に口を開いたのだった。
「あの……ローラン?この前言ってた話と違わない?貴方前は、ジオール公国との貿易がビジネスチャンスだから新しい商会を設立して販路ルートを確保したい。その為の出資者を探しているって言ってなかった?」
「それはねマグリット。発掘した翡翠を販売するための商会を設立したいって事さ。まぁとにかく採掘も販売も、成功するためには資金が必要なんだよ。君のお父上に認めて貰うためにもね。」
「そう……なのね?」
「あぁ、そうだよ。出資者さえいれば、君との未来のために前進できるんだ。」
そう言いながらローランはマグリットの両手を握りしめて、彼女を安心させるように優しく微笑みかけた。
「そう……」
彼のその言葉にマグリットの瞳にはまだどこか不安の色が残っていたが、それでも一応は納得したのか、それ以上は何も言わずに口を閉ざしてじっとローランを見つめ返していた。
(あぁ、これは……)
これはどう見ても恋愛詐欺だろう。
目の前での二人のやり取りにミハイルはそう確信したのだ。
マグリット自身に自由に使える財は無い。だから彼女の父親である侯爵を当てにしていたのだろうが、門前払いとなった事で彼女がツテのある貴族から出資金を集める計画に変えてきたといったところだろうか。
ミハイルは自分が標的にされた事を内心苦笑しながら、さてどうしたものかとチラリと横に座るアイリーシャを見遣った。
心優しい彼女の事だから、この二人のやり取りを目の前で見て、「是非協力してあげてください!」なんて言い出すのではないだろうか。そんな心配が胸をよぎったのだ。
けれどもそんなミハイルの腹の内など露も知らないアイリーシャは、二人のやり取りを黙って見守ってたかと思うと、スッキリした様な顔でポンっと小さく両手を叩き合わせて、この場にいる誰しもが思っても見ない事を言い出したのだった。
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