当て馬令嬢だと落ち込んでいたらいつの間にかお兄様に外堀を埋められて、結果、真の最愛の人に気づく事が出来ました。

石月 和花

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第二部

9. 嘘と涙と吟遊詩人1

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「まぁ、マグリット!こんな所で会うなんて思ってなかったわ。」
「私もよリーシャ。貴女もデート中だったのね。」
「で、デートだなんて……ええっと……そう、なのでしょうか?」

偶然街で出会った従姉妹のマグリットに突っ込まれて、アイリーシャは顔を赤くして恥ずかしそうにミハイルの方をチラリと見た。
勿論アイリーシャはこれをデートのような物だと思っていたが、果たして彼も同じ気持ちだったのか、自信がなかったのだ。

けれどもそんな心配はアイリーシャの杞憂で、ミハイルはアイリーシャにニッコリと微笑みかけると「えぇ。少なくとも私はそのつもりでしたよ。」と実にさらりと告げたのだった。

そんな二人のやり取りをマグリットはニマニマしながら見守っていた。
そしてそこに居るのが当たり前のようにアイリーシャの横に手を繋いで立つミハイルを眺めると、二人の間に流れる空気感から、
(あぁ可愛い従姉妹は本当に幸せなのだな)と
姉の目線で二人を祝福したい気分になったのだった。

「それはそうとミハイル様、ご存知だと思いますが紹介しますね。こちら、私の従姉妹のマグリットです。」
顔の赤みが引かないまま、アイリーシャはそれを誤魔化すように話題を変えた。

ミハイルとマグリットは、マグリットも王太子殿下の婚約者候補であった事から面識はあったが、きちんと対面するのはこれが初めてなのだ。
だからアイリーシャは形式的に、先ず爵位が上のミハイルに、従姉妹のマグリットを紹介したのだった。

「えぇ、マグリット様の事は存じています。けれど言葉を交わすのは初めてですね。マグリット様、改めましてミハイル・メイフィールです。」
「こんにちはミハイル様。お姿はいつも拝見しておりましたわ。ご婚約おめでとうございます。どうか、可愛い従姉妹をよろしくお願いしますね。」

こうして二人がお互いに挨拶を交わしているのを見届けて、それからアイリーシャは、従姉妹の後ろで彼女を見守るように立っている男性をまだ紹介してもらっていないことに気づいたのだった。

「マグリット、そちらの方がひょっとして……?」
「えぇ、二人に紹介するわね。私の彼の、ローラン様よ。」
そう言ってマグリットは後ろに控えていた青年を前に押し出すとアイリーシャとミハイルに紹介したのだった。

「お初にお目にかかります。リーベルト家次男、ローランでございます。メイフィール公子にお会いできて光栄です。」

マグリットから紹介された男性は、人好きする笑顔を浮かべながら、柔らかい物腰でミハイルに恭しく頭を下げた。

親しみやすい雰囲気を醸し出して穏やかに話すローランのその様は、一目見て人を惹きつける才があるとミハイルに思わせる程だった。

お互いが名乗りあって大体の自己紹介を終えた後、
「そうだわ、ミハイル様。ローラン様がミハイル様に相談に乗って欲しい事があるそうなんです。夕方の鐘までまだ時間もありますし丁度良い機会だから、どこかでみんなでお話をしたらいいのではないでしょうか?」

アイリーシャは、先日マグリットから頼まれていた事を思い出して、この場にいる三人にそう提案をしたのだ。
これは忙しいミハイルにわざわざ別の時間を作らせるのはよろしくないと考えた彼女なりの気遣いであったが、しかしミハイルはそれによって二人で過ごす時間が減ってしまう事を残念に思ってしまった。
彼は少しだけ困ったような顔を見せたが、可愛いアイリーシャの頼みならば断れる訳がなかった。

「それでしたら、場所を用意しましょう。」
ミハイルは落ち着いて話が出来る場所をと、三人を馴染みの店に案内した。
中央通りにほど近いその店はメイフィール家の古くからの御用達で、ミハイルがなにやら頼むと、直ぐに個室に案内してくれたのだった。

———
##お読みくださり有難うございます。
##2月末納品の仕事が佳境に入って毎日23時まで仕事がデフォルトになってきたので、流石に暫く更新頻度落とします。
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