当て馬令嬢だと落ち込んでいたらいつの間にかお兄様に外堀を埋められて、結果、真の最愛の人に気づく事が出来ました。

石月 和花

文字の大きさ
上 下
50 / 109
第二部

6. とんだとばっちり2

しおりを挟む
「レオンハルト殿下、何か御用ですか?」
ドアの前に立っていたのは、王太子殿下その人であった。
マキシムは慌てて道を譲ると、レオンハルトは真っ直ぐにミハイルの元に歩いて行った。

「何の用かって、お祝いを言いにきたんだよ。ミハイル、アイリーシャ嬢と婚約したんだってね、おめでとう。」
「はい、有難うございます。殿下から直にお祝いの言葉をいただけるなんて光栄です。」

そう言って恭しく礼をして応えるミハイルをレオンハルトは満足そうに眺めてると、今度は不意にくるりと後ろを振り返り、目が合ったマキシムに対してニッコリと笑った。

「あぁマキシム、それで君はどうなの?」
危惧していたこと、レオンハルトの矛先がマキシムに向いてしまったのだった。

「どう……と申しますと?」
嫌な予感しかしていなかったが、殿下に問いかけられたら無視などできない。
マキシムは観念して仕方なく、レオンハルトと向き合った。

そして、嫌な予感は的中するのだった。

「ミハイルは私の婚約者候補であったアイリーシャ嬢と婚約をしたんだよ?で、君はどうなの?」

思ってた通り、レオンハルトは以前の話を掘り返してきたのだ。

「どうもこうもしません!」
「何故だい?だって君、恋人も婚約者も居ないじゃないか。マキシムならとても信頼できるから、今まで私の為に拘束してしまった御令嬢たちにとって、不足の無い相手なのになぁ。」

全く他意無くレオンハルトは本気でそんな事を言うからマキシムは頭が痛くなってきた。
この人を言葉で説得できた試しがない上に、今この場には、一緒に戦ってくれる同志がいないのだ。ミハイルもラウルも婚約者が居るから。

「そうだ、良いことを思いついたよ!」
そう言ってレオンハルトは顔をパァっと明るくして満面の笑みを浮かべたが、側近たちは分かっている。こういう時の彼の思いつく事は、絶対にろくでもないことだと言う事を……

「レスティア嬢に頼んで、私の婚約者候補だった令嬢たちとのお茶会を開催して貰おう。そしてそこにマキシムも参加しなさい。そうすれば、レスティア嬢も他の有力家の御令嬢たちと関係を築けるし、君もその中の誰かと仲を深められるし、良い考えだろう?」

一聞すると確かに良い考えのように聞こえてしまうが、マキシムにとっては全く良い事がない。
御令嬢たちの社交の場に、雑に自分を放り込まれるなんて堪ったもんじゃないのだ。
マキシムは必死に反論を試みる。

「確かにレスティア様と他の元候補者たちとの交流を図ると言った面では、殿下の仰るお茶会は有益だと思います。しかし、そんな女性たちのお茶会に、男である自分が参加するのは不自然ではないでしょうか。」
「そんな事ないでしょう。前にミハイルが教えてくれたじゃないか。アイリーシャ嬢の兄君は、そう言った御令嬢たちのお喋りの場に参加する事で、様々な情報を得ているんだって。だから前例があるんだから、マキシムはそんな事気にしなくて大丈夫だよ。」
「けれども……やはり御令嬢たちの集まりに私が参加することで、彼女たちも気を遣ってしまうかと思います。女性だけの時と、一人でも場に男性がいる時とでは、会話の内容も選別されます。だから女性だけの方が、きっと彼女たちも忌憚なく思っていることを何でも話せて、深く交流が出来るのではないでしょうか。」

屁理屈や話のすり替えなどが得意なレオンハルトに、話術で勝てた試しがないが、それでもマキシムは必死に抵抗した。

すると、意外な事に珍しくレオンハルトがマキシムの言っている事に理解を示したのだった。

「ふぅむ。マキシムの言うことも分かるな……」

殿下のこの反応はマキシムにとっても意外であったが、このチャンスを逃すわけにはいかなかった。

「そうでしょう!ですから……」
止めましょう。マキシムがそう言葉を繋げようとしたその時だった。
レオンハルトが良いアイデアを思いついたと言わんばかりに目を輝かせて、マキシムの発言に被せて新しい考えを披露したのだった。

「よしっ!!だったら我々もみんなで参加しよう。どうせならもっと規模を大きくして、五大公爵家から御令嬢以外の関係者も招いて交流が出来る会にしよう。そうだな、どうせなら私と近い年代の人を集めよう。この国の未来を背負う、次世代たちが交流するガーデンパーティーだ。どうだラウル、いい考えだろう?」

「そうですね、我々の世代ではわだかまりもなく各家が交流できるように計らうのは良い事だと思います。」

認めるのは癪だが、レオンハルトの提案は国にとって本当に有益な計画だった。反対する理由が特にない。
名指しされたラウルは賛同の意を示すとチラリと横目で同僚の様子を伺った。するとマキシムの顔は能面の様に色をなくして、虚無の顔をしていたのであった。


「わだかまりなく……ね。そうなるのが理想なんだけどね。ミハイルのメイフィール家はいいとして、ラウルもマキシムもノルモンド家と仲良く出来るかい?」

そう言ってレオンハルトは真面目な顔をしてラウルとマキシムの二人を見遣った。
彼らの実家であるアストラ家とスタイン家が、ノルモンド家から敵対視されている事は周知の事実なのだ。

「……善処はしますが、どちらかと言うと善処するのはノルモンド家の方だと思います。」
硬い顔つきのまま、ラウルが答えた。
彼のアストラ家とノルモンド公爵家は、ラウルの妹のレスティアが王太子妃に選ばれた事で、過去一番に関係が悪くなっていたのだ。

「ラウルは手厳しいね。まぁ実際そうだと思うけど。どうしてああも古臭い考えなんだろう。ノルモンド公爵家はどうも爺さんの支配力が強過ぎるね。時代の変化に合わせて柔軟になってもらわないと困るんだけどなぁ。」

レオンハルトは先代のノルモンド公爵を思い出して、溜息を吐いた。選民意識が強く、元ミューズリー側の貴族を毛嫌いにしているし、王家への執着も強い人だったので、ノルモンド公爵家自体が、そういった家風になってしまっているのだ。

この国シュテルンベルグを支えている五大公爵家には足並みを揃えて貰いたいのだが、どうにもノルモンド家だけが、浮いてしまっている。これが近頃のレオンハルトの悩みの種だった。

「マキシムがノルモンド家のロクサーヌ嬢とくっ付けば、なんか全て丸く収まりそうな気がするんだけどねぇ。」
「そんな事あり得ないでしょう。殿下だってよく分かっている筈です。ノルモンド公爵家は、ミューズリーの系譜の我がスタイン家を昔からずっと嫌っているじゃないですか。」

どうしてこうも次から次へととんでもない思いつきを口に出来るのか、その頭の切り替えの早さは尊敬するが、マキシムは彼の言う内容には1ミリも賛同できなかった。
不機嫌さを隠すのを止めて、マキシムは不満そうな目でじっとレオンハルトを見返したが、しかしレオンハルトはそんな視線など意に介さずに平然ととんでもない話を続けたのだった。

「だから、君とロクサーヌ嬢が婚姻したら歴史的和解になるんじゃないか。」
「だから何度も言いますが、殿下は人には感情があることを覚えてください!!」
「けれど貴族の多くは、自身の感情を押し殺した政略結婚だと思うけど?」
「それならば殿下は、以前に報いてあげたいと仰っていた婚約者候補に、自身の感情を押し殺して政略結婚をしろと仰るのですか?」

マキシムは考えうる正論で精一杯レオンハルトに反論したが、のらりくらりとかわすレオンハルトの方がやはり一枚上手で、到底敵う相手ではなかった。

気の毒そうに見守る同僚二人の前で、マキシムは一人善戦したが、健闘虚しくレオンハルトは笑顔で結論を結んだのだった。

「そうか、じゃあつまり、ロクサーヌ嬢がマキシムの事を気に入れば良いんだね。なるほど、分かった。」

全然分かっていないっ!!

レオンハルトのその結論にマキシムは再び目の前が白くなって意識が遠のきそうになった。
この人の発想は、いつも斜め上過ぎる。
あまりの事に反論の言葉すら出てこなかった。

そんな風にマキシムが固まってしまっていると、自身のこのアイディアに満足した様子のレオンハルトは、側近三人にガーデンパーティーの日程調整と、出席者の選定、会場の確保等を指示して機嫌よく部屋を去っていったのだった。



「大丈夫……ではないな。」
部屋に残されたこの世の終わりのような顔をしたマキシムにミハイルは声をかけたのだが、彼は何も言わずにこちらに恨めしい視線を向けるだけだった。

「まぁ、その、なんだ……元気出しなよマキシム。」
ラウルも慰めの言葉をかけてくれるが、そんな言葉何の役にも立たない。

マキシムはこれから自分の身に絶対に碌でもない事が起こるのを確信し、絶望に近い感情で、頭を抱えたのであった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

次は絶対に幸せになって見せます!

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢マリアは、熾烈な王妃争いを勝ち抜き、大好きな王太子、ヒューゴと結婚したものの、結婚後6年間、一度も会いに来てはくれなかった。孤独に胸が張り裂けそうになるマリア。 “もしもう一度人生をやり直すことが出来たら、今度は私だけを愛してくれる人と結ばれたい…” そう願いながら眠りについたのだった。 翌日、目が覚めると懐かしい侯爵家の自分の部屋が目に飛び込んできた。どうやら14歳のデビュータントの日に戻った様だ。 もう二度とあんな孤独で寂しい思いをしない様に、絶対にヒューゴ様には近づかない。そして、素敵な殿方を見つけて、今度こそ幸せになる! そう決意したマリアだったが、なぜかヒューゴに気に入られてしまい… 恋愛に不器用な男女のすれ違い?ラブストーリーです。

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。 父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。 無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。 純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

貴族の爵位って面倒ね。

しゃーりん
恋愛
ホリーは公爵令嬢だった母と男爵令息だった父との間に生まれた男爵令嬢。 両親はとても仲が良くて弟も可愛くて、とても幸せだった。 だけど、母の運命を変えた学園に入学する歳になって…… 覚悟してたけど、男爵令嬢って私だけじゃないのにどうして? 理不尽な嫌がらせに助けてくれる人もいないの? ホリーが嫌がらせされる原因は母の元婚約者の息子の指示で… 嫌がらせがきっかけで自国の貴族との縁が難しくなったホリーが隣国の貴族と幸せになるお話です。

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

両親や妹に我慢を強いられ、心が疲弊しきっていましたが、前世で結ばれることが叶わなかった運命の人にやっと巡り会えたので幸せです

珠宮さくら
恋愛
ジスカールという国で、雑草の中の雑草と呼ばれる花が咲いていた。その国でしか咲くことがない花として有名だが、他国の者たちはその花を世界で一番美しい花と呼んでいた。それすらジスカールの多くの者は馬鹿にし続けていた。 その花にまつわる話がまことしやかに囁かれるようになったが、その真実を知っている者は殆どいなかった。 そんな花に囲まれながら、家族に冷遇されて育った女の子がいた。彼女の名前はリュシエンヌ・エヴル。伯爵家に生まれながらも、妹のわがままに振り回され、そんな妹ばかりを甘やかす両親。更には、婚約者や周りに誤解され、勘違いされ、味方になってくれる人が側にいなくなってしまったことで、散々な目にあい続けて心が壊れてしまう。 その頃には、花のことも、自分の好きな色も、何もかも思い出せなくなってしまっていたが、それに気づいた時には、リュシエンヌは養子先にいた。 そこからリュシエンヌの運命が大きく回り出すことになるとは、本人は思ってもみなかった。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

【完結】白い結婚はあなたへの導き

白雨 音
恋愛
妹ルイーズに縁談が来たが、それは妹の望みでは無かった。 彼女は姉アリスの婚約者、フィリップと想い合っていると告白する。 何も知らずにいたアリスは酷くショックを受ける。 先方が承諾した事で、アリスの気持ちは置き去りに、婚約者を入れ換えられる事になってしまった。 悲しみに沈むアリスに、夫となる伯爵は告げた、「これは白い結婚だ」と。 運命は回り始めた、アリスが辿り着く先とは… ◇異世界:短編16話《完結しました》

処理中です...