上 下
49 / 109
第二部

5. とんだとばっちり1

しおりを挟む
##王太子殿下サイドの話になります。
閑話. sideミハイル(王太子殿下の婚約者発表前日) が絡んできます。
———

「ミハイル、マイヨール侯爵家のアイリーシャ様と婚約したって話は本当なのか?!」

マキシム・スタインは登城するや否や、同僚のミハイル・メイフィールの執務室に行き、彼にいの一番に詰め寄った。

ミハイルの婚約が、寝耳に水の話だったのだ。

「あぁ、そうなんだ。先日正式に婚約を結んだんだ。」
朝一番に物凄い剣幕でやって来た同僚に少し驚いていたが、ミハイルははにかみながら嬉しそうにマキシムの問いに肯定した。彼は実に幸せそうだった。

しかし、そんな幸せそうな顔のミハイルとは対照的に、マキシムの顔はミハイルの報告を聞いてどんどんと暗くなっていったのだった。

そしてミハイルの事をじっとりした目で見ると、一段と低い声で恨みを言ったのだった。

「……お前、裏切ったのか?!」
「はっ??!」
恨みがましいものを見るような目でマキシムから問いかけられたが、ミハイルにはそれが何のことだか分からなかった。
だから思わず間の抜けた声を上げてしまったが、直ぐにある事に思い至って、狼狽えながらマキシムに問い返したのだった。

「まさかマキシム、お前、アイリーシャ様の事が好きだったのか?!!」
「違う、そうじゃない!!」

マキシムに全力で即否定されて、ミハイルはホッと胸を撫で下ろした。
けれどもそれならば、彼は何故怒っているのだろうか。

その理由がミハイルには皆目検討つかなかった。

しかし、彼が怒っている理由は直ぐにマキシム自身が説明してくれたのだった。

「なんだって王太子殿下の婚約者候補だった御令嬢とお前が婚約したんだよ?お前あの時
"自分の事は、自分で対処致しますので。殿下はお気になさらずに"
ってそう言ってたじゃないかっ!!」

以前王太子殿下に呼び出されて、ミハイルとマキシムは殿下の妃候補であった御令嬢たちから婚約者を選ばないかと打診されて、その場で二人とも断っていたのだ。

それなのに、ミハイルは殿下の婚約者候補であったアイリーシャと婚約を結んだのだ。

マキシムは納得がいかなかった。

「だから言葉通り自分でなんとかしたんじゃないか。途中で殿下にバレなくて本当に良かったよ。あの人にバレたらきっとろくな事になってないし、最悪この縁談自体が無くなってたかも知れないしな。」

「待った。……その口振りだとつまり……ミハイルは前からアイリーシャ様のことを慕っていたというのか?」
「あぁ、そうだね。それも随分と前から。」

衝撃の事実にマキシムは足元から崩れ落ちそうになった。
何と言う事だ。

つまりあの時既にミハイルは殿下の元婚約者候補だった御令嬢の一人に心を決めていて、本人に従う意思が全くなかったとしても、結果としてレオンハルトの提案にハマった形になったというのだ。

ミハイルは一緒に殿下の馬鹿な提案を一蹴する仲間だと思っていたのに、酷く裏切られた気分だった。

これでは、自分一人だけがレオンハルトの無茶振りを受け入れていない事になる。

殿下に一人で抵抗するのは骨が折れるなと、マキシムは目の前が暗くなっていった。


「まぁまぁマキシム、先ずはミハイルを祝福してあげようじゃないか。婚約おめでとう。」
不意にマキシムは背後から肩を叩かれ、宥められるように声をかけられた。
もう一人の同僚ラウルも、ミハイルの婚約にお祝いを言うために彼の執務室にやって来ていたのだ。

「有難うラウル。お前ももうすぐ式を挙げるそうだな、そちらもおめでとう。」
「あぁ、有難う。一応俺の方が兄だからな、年功序列に煩い親戚筋がいるから、妹のレスティアたちより前に結婚する事にしたんだ。」
「そうか、それはそれで大変だな。」

婚約したミハイルに対して、ラウルの方は最近結婚式の日取りが決まっていたのだ。だから二人はお互いに「おめでとう」と祝い合い、見るからに嬉しそうに笑っている。

そしてそんな二人の会話を、マキシムは恨めしそうな目でじっと見ていた。
婚約者も恋人も居ない彼は、この手の話題に加われないのだ。

なんだか居た堪れなくなったので、話に盛り上がっている二人を尻目に、自分の執務に取り掛かろうと自分の部屋に戻ろうとドアを開けたその時だった。

「おや、ここにみんな揃っていたんだね。」

今一番遭遇したくない人に会ってしまったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

精霊に転生した少女は周りに溺愛される

紅葉
恋愛
ある日親の喧嘩に巻き込まれてしまい、刺されて人生を終わらせてしまった少女がいた 。 それを見た神様は新たな人生を与える 親のことで嫌気を指していた少女は人以外で転生させてくれるようにお願いした。神様はそれを了承して精霊に転生させることにした。 果たしてその少女は新たな精霊としての人生の中で幸せをつかめることができるのか‼️ 初めて書いてみました。気に入ってくれると嬉しいです!!ぜひ気楽に感想書いてください!

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

〖完結〗私が死ねばいいのですね。

藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。 両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。 それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。 冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。 クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。 そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全21話で完結になります。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

「子供ができた」と夫が愛人を連れてきたので祝福した

基本二度寝
恋愛
おめでとうございます!!! ※エロなし ざまぁをやってみたくて。 ざまぁが本編より長くなったので割愛。 番外編でupするかもしないかも。

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。

あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。 夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中) 笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。 え。この人、こんな人だったの(愕然) やだやだ、気持ち悪い。離婚一択! ※全15話。完結保証。 ※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。 今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。 第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』 第二弾『そういうとこだぞ』 第三弾『妻の死で思い知らされました。』 それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。 ※この話は小説家になろうにも投稿しています。 ※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

処理中です...