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第二部
2. 従兄妹たちのお茶会2
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「家格が低いったって伯爵家ならば、侯爵家とそこまで釣り合いが取れないって程じゃないだろうに。伯父様もなかなか難しい人だねぇ。」
ため息を吐く従姉妹に対して、アルバートは同情してみせた。
彼が素直に優しい言葉をかけてくれる事自体珍しかったが、それ以外にもアルバートのこの発言に、マグリットは少し違和感を覚えたのだった。
「……あら?私の彼が伯爵家だってアルに話したかしら?」
そう、アイリーシャには自分が伯爵家の方と親交を重ねていると話していたが、アルバートにはこの話をした記憶がないのだ。
「僕は社交界に流れている噂話は大抵把握してるからね。マグリットのお相手の事も知ってるよ、リーベルス伯爵家の次男だろう?」
「……知ってるんならなんでさっきわざわざ聞いたのよ?!」
「噂話はあくまでも噂だしね。実際マグリットの縁談が今どんな状況なのか知りたかったからだよ。」
そう言ってアルバートはニッコリと笑った。
本当に食えない男である。
「けれど何でアルが私の恋の話なんてそんな事を聞くの?貴方恋愛に興味なんてないでしょう?何を企んでいるの?」
マグリットは訝しげにアルバートを眺めた。彼と恋の話をしたことなど今まで一度もないのに、急にそんな事を聞かれては警戒するのも当然だった。なにせ、アルバートだし。
「企んでるだなんて心外だなぁ。僕は純粋に可愛い従姉妹を心配してあげているのに。」
「心配……?一体私の何が心配だって言うのよ?」
彼の意味深な言葉に、マグリットは少し不安そうに聞き返した。自身にアルバートに心配される様な事は何も無い筈だけれども、あのアルバートが無根拠でそんな事を言う筈がないのだ。
だからマグリットは、自分が預かり知らぬ所で何か彼に心配される様な事が起きているんじゃないかと不安げだった。
するとそんな彼女の不安を察してか、アルバートは急に真面目な顔になって、
「これは、あくまでも僕の憶測なんだけどね……」
と、そう前置きをしてから、眉を顰め少し声を低くして話し始めたのだった。
「エリオットがちょっと気になる動きを見せているんだ。多分あいつ、君の父上に縁談を一件持っていくと思うよ。それも高い家格の。だからマグリットは懇意の人が居るのならば、今のうちにその人との縁談を進められる所まで進めておいた方がいいよ。」
エリオットとはシゼロン公爵の嫡男で、アルバートやマグリット達の従兄弟だ。
その彼が近頃ノルモンド公爵家の嫡男ヴィクトールと頻繁に連絡を取り合っていて、アルバートの言う妙な動きというのを見せているのだ。
「けれどもなんでエルがノルモンド公爵家のヴィクトール様と仲良くしている事が、私の縁談の心配に結びつくのよ??」
アルバートから説明を受けてもマグリットにはその話のどこに、一体自分が関わっているのかが分からなかった。
そしてそれは、黙って一緒に話を聞いているアイリーシャも同じようで、彼女もまた小首を傾げ不思議そうな顔でアルバートの次の言葉を待っていた。
すると彼は、二人が思いもよらない様な話を告げたのだった。
「これは本当に、まだ僕の予想中の話で、裏も取れていないのだけれども……エリオットはどうも、ヴィクトール様とマグリットをくっ付けようとしてるんじゃないかな。」
それは、まさに晴天の霹靂であった。
「なんでまた?!」
アルバートの突拍子もない発言に、マグリットは思わず上擦った声で驚いてしまった。
ノルモンド公爵家のヴィクトール様とは全く面識がないのだ。
だから何でそんな耳を疑うような話が出てくるのかと、アイリーシャもマグリットも訳が分からず困惑していた。
そんな彼女たちが戸惑っている様子を見て、アルバートはそう思い至った理由を分かりやすく二人に説明したのだった。
「それは、ノルモンド公爵家が五大公爵家の中で一番影響力が落ちてきているからだよ。」
そう言って一口お茶を飲んでから、アルバートは真面目な顔で話を続ける。
「五大公爵家の中で今一番影響力が強いのが、アストラ公爵家。レスティア様が王太子殿下の婚約者に選ばれたし嫡男のラウル様だって殿下の側近だ。そして他の側近のミハイル様とマキシム様のメイフィール公爵家とスタイン公爵家も息子が子供の頃から次期国王陛下の懐刀なんだから安泰だ。」
「ええそうね。それは貴方の見立て通りだと思うわ。」
「だろ?それで続きを話すと、今王家と繋がりが薄いのが、我々の系譜であるシゼロン公爵家と、そしてノルモンド公爵家のこのニ家だ。けれどもここでアイリーシャがミハイル様と婚約した事でシゼロン家はメイフィール家と繋がりが出来た。するとどうだろう?他の公爵家とも、王家とも繋がりが薄いのがノルモンド公爵家だけになってしまったよね。」
そこまで説明をすると、アルバートは観察する様に目の前の従姉妹を眺めた。彼なりに一応は気遣っているのだ。
今の説明を聞いて、マグリットは納得がいかないと言う様な顔をしていた。どうしても腑に落ちないのだ。だから彼女は続けてアルバートに質問をぶつけた。
「……だからってなんで私なのよ。」
それは、もっともな疑問だった。
しかし、そんな彼女の疑問にもアルバートは直ぐに答えたのだった。
「ノルモンド公爵家はアストラ公爵家とスタイン公爵家とは仲が悪いし、そうなってくると残っているメイフィール公爵家とシゼロン公爵家だ。そしてそのうち、適齢期の令嬢で婚約者が居ないのがマグリットとエリザベート様なんだけど、エリオットがヴィクトール様と仲良くしていることから、まぁ、君が狙われているんじゃないかなって思ったんだよ。」
いつも自分を揶揄う時の様な意地悪な笑みを全く浮かべず、真顔でそう話すアルバートを見て、マグリットはこの話を本当に彼が危惧しているのだと、悟ったのだった。
ため息を吐く従姉妹に対して、アルバートは同情してみせた。
彼が素直に優しい言葉をかけてくれる事自体珍しかったが、それ以外にもアルバートのこの発言に、マグリットは少し違和感を覚えたのだった。
「……あら?私の彼が伯爵家だってアルに話したかしら?」
そう、アイリーシャには自分が伯爵家の方と親交を重ねていると話していたが、アルバートにはこの話をした記憶がないのだ。
「僕は社交界に流れている噂話は大抵把握してるからね。マグリットのお相手の事も知ってるよ、リーベルス伯爵家の次男だろう?」
「……知ってるんならなんでさっきわざわざ聞いたのよ?!」
「噂話はあくまでも噂だしね。実際マグリットの縁談が今どんな状況なのか知りたかったからだよ。」
そう言ってアルバートはニッコリと笑った。
本当に食えない男である。
「けれど何でアルが私の恋の話なんてそんな事を聞くの?貴方恋愛に興味なんてないでしょう?何を企んでいるの?」
マグリットは訝しげにアルバートを眺めた。彼と恋の話をしたことなど今まで一度もないのに、急にそんな事を聞かれては警戒するのも当然だった。なにせ、アルバートだし。
「企んでるだなんて心外だなぁ。僕は純粋に可愛い従姉妹を心配してあげているのに。」
「心配……?一体私の何が心配だって言うのよ?」
彼の意味深な言葉に、マグリットは少し不安そうに聞き返した。自身にアルバートに心配される様な事は何も無い筈だけれども、あのアルバートが無根拠でそんな事を言う筈がないのだ。
だからマグリットは、自分が預かり知らぬ所で何か彼に心配される様な事が起きているんじゃないかと不安げだった。
するとそんな彼女の不安を察してか、アルバートは急に真面目な顔になって、
「これは、あくまでも僕の憶測なんだけどね……」
と、そう前置きをしてから、眉を顰め少し声を低くして話し始めたのだった。
「エリオットがちょっと気になる動きを見せているんだ。多分あいつ、君の父上に縁談を一件持っていくと思うよ。それも高い家格の。だからマグリットは懇意の人が居るのならば、今のうちにその人との縁談を進められる所まで進めておいた方がいいよ。」
エリオットとはシゼロン公爵の嫡男で、アルバートやマグリット達の従兄弟だ。
その彼が近頃ノルモンド公爵家の嫡男ヴィクトールと頻繁に連絡を取り合っていて、アルバートの言う妙な動きというのを見せているのだ。
「けれどもなんでエルがノルモンド公爵家のヴィクトール様と仲良くしている事が、私の縁談の心配に結びつくのよ??」
アルバートから説明を受けてもマグリットにはその話のどこに、一体自分が関わっているのかが分からなかった。
そしてそれは、黙って一緒に話を聞いているアイリーシャも同じようで、彼女もまた小首を傾げ不思議そうな顔でアルバートの次の言葉を待っていた。
すると彼は、二人が思いもよらない様な話を告げたのだった。
「これは本当に、まだ僕の予想中の話で、裏も取れていないのだけれども……エリオットはどうも、ヴィクトール様とマグリットをくっ付けようとしてるんじゃないかな。」
それは、まさに晴天の霹靂であった。
「なんでまた?!」
アルバートの突拍子もない発言に、マグリットは思わず上擦った声で驚いてしまった。
ノルモンド公爵家のヴィクトール様とは全く面識がないのだ。
だから何でそんな耳を疑うような話が出てくるのかと、アイリーシャもマグリットも訳が分からず困惑していた。
そんな彼女たちが戸惑っている様子を見て、アルバートはそう思い至った理由を分かりやすく二人に説明したのだった。
「それは、ノルモンド公爵家が五大公爵家の中で一番影響力が落ちてきているからだよ。」
そう言って一口お茶を飲んでから、アルバートは真面目な顔で話を続ける。
「五大公爵家の中で今一番影響力が強いのが、アストラ公爵家。レスティア様が王太子殿下の婚約者に選ばれたし嫡男のラウル様だって殿下の側近だ。そして他の側近のミハイル様とマキシム様のメイフィール公爵家とスタイン公爵家も息子が子供の頃から次期国王陛下の懐刀なんだから安泰だ。」
「ええそうね。それは貴方の見立て通りだと思うわ。」
「だろ?それで続きを話すと、今王家と繋がりが薄いのが、我々の系譜であるシゼロン公爵家と、そしてノルモンド公爵家のこのニ家だ。けれどもここでアイリーシャがミハイル様と婚約した事でシゼロン家はメイフィール家と繋がりが出来た。するとどうだろう?他の公爵家とも、王家とも繋がりが薄いのがノルモンド公爵家だけになってしまったよね。」
そこまで説明をすると、アルバートは観察する様に目の前の従姉妹を眺めた。彼なりに一応は気遣っているのだ。
今の説明を聞いて、マグリットは納得がいかないと言う様な顔をしていた。どうしても腑に落ちないのだ。だから彼女は続けてアルバートに質問をぶつけた。
「……だからってなんで私なのよ。」
それは、もっともな疑問だった。
しかし、そんな彼女の疑問にもアルバートは直ぐに答えたのだった。
「ノルモンド公爵家はアストラ公爵家とスタイン公爵家とは仲が悪いし、そうなってくると残っているメイフィール公爵家とシゼロン公爵家だ。そしてそのうち、適齢期の令嬢で婚約者が居ないのがマグリットとエリザベート様なんだけど、エリオットがヴィクトール様と仲良くしていることから、まぁ、君が狙われているんじゃないかなって思ったんだよ。」
いつも自分を揶揄う時の様な意地悪な笑みを全く浮かべず、真顔でそう話すアルバートを見て、マグリットはこの話を本当に彼が危惧しているのだと、悟ったのだった。
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