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閑話. アルバートの暗躍1
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王太子殿下の婚約者発表の夜会から三日後の昼下がり、マイヨール侯爵家の嫡男アルバートは、顔馴染みの伯爵令嬢が主催するお茶会に出席していた。
こういった御令嬢主催のお茶会は、女性同士の取り留めのないお喋りに延々と付き合わなくてはならない事が多く、実りの少ないそれらの会話を聞かされることに耐えらない男性が多いと言う。
しかし、社交家であるアルバートは御令嬢方が多く集まる、徒然なる有閑なお茶会に常日頃から好んで積極的に顔を出していたのだった。
その為に、社交界での彼の顔は広く、だからこそこうして今日も目当ての茶会に飛び入りで参加する事が出来たのだった。
「リリアーナ様、急なお願いであるにも関わらず本日のお茶会に参加をお許しくださって有り難うございます。」
アルバートは、最上級の笑顔を作って、主催である令嬢に挨拶をした。
金髪碧眼で中性的な整った顔立ちである彼が微笑むと、まるで地上に舞い降りてきた天使のようだった。
彼は、自分の容姿が令嬢達からどのように見られているかを十分に理解している為、意図として自分の微笑みを利用していた。
「いいえ、アルバート様ならば、いつでも大歓迎ですわ!」
現にこの令嬢も、彼の外面の良さにすっかりと騙されている一人なのだ。
「けれども本当に急なお話でしたわね?何か、この茶会にお目当てがあったのですか?」
主催の令嬢が、アルバートを案内しながら当然の疑問を口にする。
「お目当てだなんてそんな小難しい事なんて有りませんよ。単純に、急に予定がキャンセルになって時間が出来たので、御令嬢たちと語らいたいと思っただけですよ。」
アルバートは笑みを浮かべながら、サラリともっともらしい事を言う。
勿論、彼はある目的があってこのお茶会に参加しているのだが、それを馬鹿正直に開示するつもりは毛頭なかった。
案内されたテラスでは、既に数名の御令嬢たちがお茶を楽しみながら語らっていた。
アルバートが到着すると、お喋りに花を咲かせていた彼女達は嬌声を上げて喜び、彼の言動に注目したのだった。
「ご機嫌よう御令嬢方。急な飛び入り参加で話の腰を折ってしまったようだね。どうぞ、歓談を続けてください。僕は貴女達の語らいを聞くのが楽しみなんでね。」
アルバートはいつもの笑顔を引っ提げて柔らかい物腰で挨拶をすると、案内された席に着席し、令嬢達の輪に加わった。
「アルバート様ならばいつでも大歓迎ですわ!殿方をお茶会にお誘いしても、女性が多い場所は苦手と断られてしまう事が多いんですの。ですので、自分から参加してくださるアルバート様は貴重なんですもの。」
「そうなのですね。このように御令嬢たちと語らうのはとても楽しい時間なのに、世の多くの男性はこれを断るなんて勿体無いですね。」
アルバートは給仕された紅茶を一口飲み、口の中に広がるその香りを楽しんだ。
それから、本日このお茶会に参加した目的である、彼が聞きたかった事についての誘導を仕掛けたのだった。
「リリアーナ様が言う、“女性が多い場所は苦手”と言って断られてしまう男性というのは、ひょっとして王太子殿下の側近であるメイフィール公爵家のミハイル様ですかね?確かリリアーナ様はご執心でしたよね。」
アルバートがこのお茶会に飛び入りで参加した狙いは、主催である伯爵令嬢のリリアーナが、ミハイルにご執心である事が界隈では有名だったからだ。
彼は、御令嬢方の噂話から、ミハイル・メイフィールという人物像を見極めようと企てていたのだった。
「え……えぇ……。確かにミハイル様にも何度かお声がけはした事がありますが、でも全てお忙しいからと断られてしまいましたわ……」
急にミハイルの名前を出されて話を振られたリリアーナは、若干戸惑いながらもアルバートの問いかけに答えた。
その様子を見てアルバートは、リリアーナが疑心を抱かないうちにと、彼女の関心を惹き雄弁に語ってくれるであろう今日の本題に繋げていった。
「なんと、このような楽しい語らいの場に参加出来ないだなんて王太子殿下の側近ともなるとやはりご多忙なんですね。私は、あまりミハイル様の事を存じ上げないのですが、リリアーナ様は昔からお慕いされていらっしゃいますよね。良ければどのような方なのか教えて貰えませんか?」
##続きます
こういった御令嬢主催のお茶会は、女性同士の取り留めのないお喋りに延々と付き合わなくてはならない事が多く、実りの少ないそれらの会話を聞かされることに耐えらない男性が多いと言う。
しかし、社交家であるアルバートは御令嬢方が多く集まる、徒然なる有閑なお茶会に常日頃から好んで積極的に顔を出していたのだった。
その為に、社交界での彼の顔は広く、だからこそこうして今日も目当ての茶会に飛び入りで参加する事が出来たのだった。
「リリアーナ様、急なお願いであるにも関わらず本日のお茶会に参加をお許しくださって有り難うございます。」
アルバートは、最上級の笑顔を作って、主催である令嬢に挨拶をした。
金髪碧眼で中性的な整った顔立ちである彼が微笑むと、まるで地上に舞い降りてきた天使のようだった。
彼は、自分の容姿が令嬢達からどのように見られているかを十分に理解している為、意図として自分の微笑みを利用していた。
「いいえ、アルバート様ならば、いつでも大歓迎ですわ!」
現にこの令嬢も、彼の外面の良さにすっかりと騙されている一人なのだ。
「けれども本当に急なお話でしたわね?何か、この茶会にお目当てがあったのですか?」
主催の令嬢が、アルバートを案内しながら当然の疑問を口にする。
「お目当てだなんてそんな小難しい事なんて有りませんよ。単純に、急に予定がキャンセルになって時間が出来たので、御令嬢たちと語らいたいと思っただけですよ。」
アルバートは笑みを浮かべながら、サラリともっともらしい事を言う。
勿論、彼はある目的があってこのお茶会に参加しているのだが、それを馬鹿正直に開示するつもりは毛頭なかった。
案内されたテラスでは、既に数名の御令嬢たちがお茶を楽しみながら語らっていた。
アルバートが到着すると、お喋りに花を咲かせていた彼女達は嬌声を上げて喜び、彼の言動に注目したのだった。
「ご機嫌よう御令嬢方。急な飛び入り参加で話の腰を折ってしまったようだね。どうぞ、歓談を続けてください。僕は貴女達の語らいを聞くのが楽しみなんでね。」
アルバートはいつもの笑顔を引っ提げて柔らかい物腰で挨拶をすると、案内された席に着席し、令嬢達の輪に加わった。
「アルバート様ならばいつでも大歓迎ですわ!殿方をお茶会にお誘いしても、女性が多い場所は苦手と断られてしまう事が多いんですの。ですので、自分から参加してくださるアルバート様は貴重なんですもの。」
「そうなのですね。このように御令嬢たちと語らうのはとても楽しい時間なのに、世の多くの男性はこれを断るなんて勿体無いですね。」
アルバートは給仕された紅茶を一口飲み、口の中に広がるその香りを楽しんだ。
それから、本日このお茶会に参加した目的である、彼が聞きたかった事についての誘導を仕掛けたのだった。
「リリアーナ様が言う、“女性が多い場所は苦手”と言って断られてしまう男性というのは、ひょっとして王太子殿下の側近であるメイフィール公爵家のミハイル様ですかね?確かリリアーナ様はご執心でしたよね。」
アルバートがこのお茶会に飛び入りで参加した狙いは、主催である伯爵令嬢のリリアーナが、ミハイルにご執心である事が界隈では有名だったからだ。
彼は、御令嬢方の噂話から、ミハイル・メイフィールという人物像を見極めようと企てていたのだった。
「え……えぇ……。確かにミハイル様にも何度かお声がけはした事がありますが、でも全てお忙しいからと断られてしまいましたわ……」
急にミハイルの名前を出されて話を振られたリリアーナは、若干戸惑いながらもアルバートの問いかけに答えた。
その様子を見てアルバートは、リリアーナが疑心を抱かないうちにと、彼女の関心を惹き雄弁に語ってくれるであろう今日の本題に繋げていった。
「なんと、このような楽しい語らいの場に参加出来ないだなんて王太子殿下の側近ともなるとやはりご多忙なんですね。私は、あまりミハイル様の事を存じ上げないのですが、リリアーナ様は昔からお慕いされていらっしゃいますよね。良ければどのような方なのか教えて貰えませんか?」
##続きます
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