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24. 令嬢、再び夜会に出席する1
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「お嬢様、王城から封書が届きました。」
マグリットの訪問から数日後、サロンで執筆をしている所に侍女のエレノアが華美な封書を持ってやってきた。
アイリーシャは封書を受け取ると、中を開けてその内容を確かめる。
この封書は、王太子殿下とレスティア様の婚約式及び夜会への招待状であった。
婚約者が決定したあの夜会から二ヶ月。今度は王太子殿下の正式な婚約の儀式が行われるのだ。
(王城の主催の夜会ならば、きっとミハイル様もいらっしゃるはず。一目でもお目にかかれるかしら……)
そんな思いが胸に浮かんだ。
受け取った招待状を持ったまま、何やら思案している様子の妹を見て、傍で読書をしていた兄が声をかける。
「無理に出席しなくても、気が乗らなければ上手いこと言って欠席させてあげることも出来るよ?」
「いいえ、お兄様。私はもう平気ですわ。ですので、エスコート役おねがしいます。」
兄の声かけにアイリーシャは我にかえり、彼に夜会に出席の意思がある事を伝えた。
「そうか。まぁ、リーシャを僕がエスコートするのもきっと最後だろうからね。いいよ、引き受けてあげるよ。」
アルバートはそう答えると、読んでいた本を閉じてメイドに紅茶を淹れさせる。
「最後ってどういうことですの?」
兄の言葉の意味が分からずに、アイリーシャは聞き返した。
「次からは、リーシャのエスコート役はきっとミハイル様になるだろうからね。」
「お兄様、またそんな事を言って、私を揶揄わないでください!!」
アルバートは目の前で茹でタコになる妹を見てニヤニヤと笑うと、淹れたての紅茶を楽しんだ。
「それにしても、いささか急ですわね?慣例どおりだと、婚約者決定から婚約式までは3カ月はあるはずですが。」
兄からのからかいを何とか受け流し、送られてきた婚約式の日付を確認して、アイリーシャは首を傾げた。招待状に書かれているこの日付だと、まだ婚約者決定から2ヶ月しか経っていないのだ。
「あぁ、それは多分……」
首を傾げているアイリーシャをチラリと見て、アルバートは紅茶を飲む手を止めて、話し出した。
「殿下のジオール公国への外遊が決まったからだろうね。正式発表はまだだけど、もう一部の貴族の間には広まってるよ。ジオール公国へは、行くだけで最低10日はかかるから、軽く見積もっても2ヶ月は国を空けることになるだろう。その前に婚約式を終えたかったんだろうね。」
兄のその発言に、自分の中にあった、夜会への楽しい気持ちが、急激に萎んでいくのが分かった。
「それは……勿論ミハイル様も御同行なさるのですよね。」
「本人に聞いたわけじゃないけど、王太子殿下の側近なんだから恐らくはそうだろうね。」
それを聞いて、アイリーシャは黙ってしまった。
ミハイルの勤めが忙しくなりマイヨール家を訪れなくなって暫く経っていたが、仕事が落ち着けば、きっとまた訪ねてきてくれるとどこか期待していた。
しかし、二ヶ月もの間外国に行ってしまうと分かり、このまま、ミハイルに会う事が出来なくなってしまうのではないだろうかと、そんな不安が胸をよぎった。
何かを思案して押し黙っているアイリーシャを見て、アルバートが声をかけようとした時だった。
急にアイリーシャが声と顔を上げたのだ。
「そうよ、出立される前に、何としても物語を完成させて、読んで頂きましょう!私に出来る事といったらこれしか無いわ!」
押し黙っている間、アイリーシャはどうしたらミハイルに確実に会う事が出来るかを考えていた。そうして辿り着いた結論が、一緒に作っていた物語を完成させたらきっと読んでもらえるだろうというものだったのだ。
(違う、そうじゃない……)
とアルバートは心の中で突っ込んだが、勿論アイリーシャはそんな兄の心の声など気づかない。
そんな回りくどいことをしなくても、理由などなくても、会いたいと言うだけで、会う事は出来るだろうに、何故気づかないのだろうかと、アルバートはアイリーシャを残念な目で見て、一人ため息をついたのだった。
マグリットの訪問から数日後、サロンで執筆をしている所に侍女のエレノアが華美な封書を持ってやってきた。
アイリーシャは封書を受け取ると、中を開けてその内容を確かめる。
この封書は、王太子殿下とレスティア様の婚約式及び夜会への招待状であった。
婚約者が決定したあの夜会から二ヶ月。今度は王太子殿下の正式な婚約の儀式が行われるのだ。
(王城の主催の夜会ならば、きっとミハイル様もいらっしゃるはず。一目でもお目にかかれるかしら……)
そんな思いが胸に浮かんだ。
受け取った招待状を持ったまま、何やら思案している様子の妹を見て、傍で読書をしていた兄が声をかける。
「無理に出席しなくても、気が乗らなければ上手いこと言って欠席させてあげることも出来るよ?」
「いいえ、お兄様。私はもう平気ですわ。ですので、エスコート役おねがしいます。」
兄の声かけにアイリーシャは我にかえり、彼に夜会に出席の意思がある事を伝えた。
「そうか。まぁ、リーシャを僕がエスコートするのもきっと最後だろうからね。いいよ、引き受けてあげるよ。」
アルバートはそう答えると、読んでいた本を閉じてメイドに紅茶を淹れさせる。
「最後ってどういうことですの?」
兄の言葉の意味が分からずに、アイリーシャは聞き返した。
「次からは、リーシャのエスコート役はきっとミハイル様になるだろうからね。」
「お兄様、またそんな事を言って、私を揶揄わないでください!!」
アルバートは目の前で茹でタコになる妹を見てニヤニヤと笑うと、淹れたての紅茶を楽しんだ。
「それにしても、いささか急ですわね?慣例どおりだと、婚約者決定から婚約式までは3カ月はあるはずですが。」
兄からのからかいを何とか受け流し、送られてきた婚約式の日付を確認して、アイリーシャは首を傾げた。招待状に書かれているこの日付だと、まだ婚約者決定から2ヶ月しか経っていないのだ。
「あぁ、それは多分……」
首を傾げているアイリーシャをチラリと見て、アルバートは紅茶を飲む手を止めて、話し出した。
「殿下のジオール公国への外遊が決まったからだろうね。正式発表はまだだけど、もう一部の貴族の間には広まってるよ。ジオール公国へは、行くだけで最低10日はかかるから、軽く見積もっても2ヶ月は国を空けることになるだろう。その前に婚約式を終えたかったんだろうね。」
兄のその発言に、自分の中にあった、夜会への楽しい気持ちが、急激に萎んでいくのが分かった。
「それは……勿論ミハイル様も御同行なさるのですよね。」
「本人に聞いたわけじゃないけど、王太子殿下の側近なんだから恐らくはそうだろうね。」
それを聞いて、アイリーシャは黙ってしまった。
ミハイルの勤めが忙しくなりマイヨール家を訪れなくなって暫く経っていたが、仕事が落ち着けば、きっとまた訪ねてきてくれるとどこか期待していた。
しかし、二ヶ月もの間外国に行ってしまうと分かり、このまま、ミハイルに会う事が出来なくなってしまうのではないだろうかと、そんな不安が胸をよぎった。
何かを思案して押し黙っているアイリーシャを見て、アルバートが声をかけようとした時だった。
急にアイリーシャが声と顔を上げたのだ。
「そうよ、出立される前に、何としても物語を完成させて、読んで頂きましょう!私に出来る事といったらこれしか無いわ!」
押し黙っている間、アイリーシャはどうしたらミハイルに確実に会う事が出来るかを考えていた。そうして辿り着いた結論が、一緒に作っていた物語を完成させたらきっと読んでもらえるだろうというものだったのだ。
(違う、そうじゃない……)
とアルバートは心の中で突っ込んだが、勿論アイリーシャはそんな兄の心の声など気づかない。
そんな回りくどいことをしなくても、理由などなくても、会いたいと言うだけで、会う事は出来るだろうに、何故気づかないのだろうかと、アルバートはアイリーシャを残念な目で見て、一人ため息をついたのだった。
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