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23. 令嬢、自覚する4
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マグリットが帰った後、アイリーシャは自室で一人身悶えていた。
「あぁぁぁぁぁっ!私はとんでもない勘違いをしていたんだわ!どうして今まで気づかなかったのでしょう!!」
ベッドに突っ伏し、枕で頭を覆い、気持ちをなんとか落ち着けようと試みる。
部屋の隅には彼女付きの侍女エレノアが待機しているのだが、主人の奇行についてはただ黙って見守っていた。
アイリーシャは、ベッドに突っ伏したまま手紙の送り主の心当たりについて、一つ一つ確認していく。
まず、手紙の内容からいって、王太子殿下と婚約者候補の交流の場にいた人物が送り主である事は間違いない。
王太子殿下の側近のミハイルならば勿論その場に居るのは当然だ。
それから、メイフィール侯爵邸の薔薇園での会話で感じた既視感。あの時言われた言葉、あれは最初に貰った手紙の内容と同じではないか。
そして……
アイリーシャはベットから起き上がり、机の引き出しから大事にとっておいていた送り主不明の手紙と、ミハイルからの手紙を取り出して見比べた。
「……同じ便箋だわ……」
それからアイリーシャは兄から渡されていた大量に送られてくる交際の申し込みやお茶会や夜会へのお誘いの手紙を取り出して、名無しの手紙の便箋と比較していくが、ミハイルと名無しの送り主が使用していた便箋と同じものは見つからなかった。
(これは……よくある便箋だからたまたま同じ便箋だったと言うことでは無さそうですわね……)
確認するほどに、確信に変わる。
そう、アイリーシャは名無しの手紙の送り主がミハイルであると認識したのだった。
「リーシャ、さっきから五月蝿いよ。どうかしたのか?」
ドアがノックされて、アルバートが入ってきた。
先程上げた大声を聞かれてしまい、彼は妹の様子を見にやってきたのだ。
「お兄様……私大変なことに気づいてしまったんです……」
アイリーシャは酷く深刻な顔でそう告げたが、アルバートは、どうせ大したことない事だろう というような顔でアイリーシャの次の言葉を待っていた。
「差出人不明のあの手紙の送り主が分かったんです……。いえ、まだ本人に確認した訳ではないので本当にそうなのかまでは分からないのですが……あの手紙の送り主は、ミハイル様だったのではないかと思います!」
「そうだろうね。」
アイリーシャは、重大な報告を兄にしたのだが、アルバートは
何だそのことか とばかりに軽く扱った。
「えっ……お兄様は驚かないのですか?!」
「そりゃ最初から分かってたからね。王太子殿下と令嬢との交流の場にも居た側近が同じ便箋で手紙を書いてよこしたら、今迄の手紙も自分でしたって名乗ってるようなものじゃないか。なんでお前が全く気づかないかの方が不思議だったよ。」
兄のど正論が炸裂する。言われてみれば本当にその通りなのだ。アイリーシャは自分の勘の悪さに頭を抱えてしまった。
しかしアイリーシャはここでハッとした。
名無しの手紙の主をそう簡単に断定してはいけないと思ったのだ。
「けれど、ミハイル様からはっきりとそうであると聞いた訳ではありません。まだ勘違いの可能性もありますわ……」
そう、前のような思い込みで決めつけて、また失敗してはいけないと、アイリーシャは慎重になっていたのだ。
しかしアルバートはというと、手紙の送り主がミハイルであると確信しているので話をどんどん大きくしていったのだった。
「まぁ、でかしたよリーシャ。メイフィール公爵家と縁談を結べるなんて、父上も喜ぶと思うよ。」
「まだ、そのような話はございません!!だから私の勘違いの可能性だってあるのですから。」
「それも時間の問題だと思うけどねぇ。」
「それはどう言う意味ですか?」
「文字通り、ミハイル様からお前に正式なアプローチが来るのは時間の問題だって事だよ。」
兄の言葉に、アイリーシャは顔を真っ赤にして動揺を見せた。
そのような妹の様子に目を細めながら、アルバートは続ける。
「まぁ、良かったよ。」
「何がですか?」
「お前も、相手がミハイル様なら満更でもないだろう?よく知らない相手からの縁談は片っ端から断っていたけども、相手が、よく知ってる人ならば話は違ってくるものな。」
「だから、そのような話は出ておりませんって!!」
これはもしや、ただ兄に揶揄われているだけなのでは無いかという可能性にアイリーシャは気づいたが、気づいたところで兄からの問いかけは止まらなかった。
「お前、嫌いじゃないだろう?ミハイル様の事。」
「それは、当たり前ですわ。あんなに良くしてもらって。むしろ尊敬してますわ!」
「ふぅん。果たしてその感情は本当に尊敬の念だけなのかな。」
兄に核心を突かれて、アイリーシャは言葉に詰まった。
言葉に詰まったので、とりあえず笑ってやり過ごす事にした。
兄との言い合いでは、アイリーシャは絶対に口では勝てないので、彼女は窮地に立ったら笑って誤魔化すと言う行動様式を身につけていたのだった。
アルバートの方も、アイリーシャが言葉での反論を止めて黙って笑っているようになったら、それは彼女が本気で困っている時だと分かっているのでそれ以上の追求は行わない。
「まぁ、とにかく先程の声は淑女にあるまじき声だったな。悲鳴とも聞き取られかねなかったぞ。いくら自室だと言っても注意するように。」
「はい、以後気をつけます。」
最初に立ち戻り、アルバートはこの部屋を訪れたきっかけの大声について注意を促し、それからアイリーシャの頭をポンと叩いてから自室へと戻っていった。
部屋に残されたアイリーシャは先程の兄とのやり取りを反芻しては一人静かに身悶えていた。
「あぁぁぁぁぁっ!私はとんでもない勘違いをしていたんだわ!どうして今まで気づかなかったのでしょう!!」
ベッドに突っ伏し、枕で頭を覆い、気持ちをなんとか落ち着けようと試みる。
部屋の隅には彼女付きの侍女エレノアが待機しているのだが、主人の奇行についてはただ黙って見守っていた。
アイリーシャは、ベッドに突っ伏したまま手紙の送り主の心当たりについて、一つ一つ確認していく。
まず、手紙の内容からいって、王太子殿下と婚約者候補の交流の場にいた人物が送り主である事は間違いない。
王太子殿下の側近のミハイルならば勿論その場に居るのは当然だ。
それから、メイフィール侯爵邸の薔薇園での会話で感じた既視感。あの時言われた言葉、あれは最初に貰った手紙の内容と同じではないか。
そして……
アイリーシャはベットから起き上がり、机の引き出しから大事にとっておいていた送り主不明の手紙と、ミハイルからの手紙を取り出して見比べた。
「……同じ便箋だわ……」
それからアイリーシャは兄から渡されていた大量に送られてくる交際の申し込みやお茶会や夜会へのお誘いの手紙を取り出して、名無しの手紙の便箋と比較していくが、ミハイルと名無しの送り主が使用していた便箋と同じものは見つからなかった。
(これは……よくある便箋だからたまたま同じ便箋だったと言うことでは無さそうですわね……)
確認するほどに、確信に変わる。
そう、アイリーシャは名無しの手紙の送り主がミハイルであると認識したのだった。
「リーシャ、さっきから五月蝿いよ。どうかしたのか?」
ドアがノックされて、アルバートが入ってきた。
先程上げた大声を聞かれてしまい、彼は妹の様子を見にやってきたのだ。
「お兄様……私大変なことに気づいてしまったんです……」
アイリーシャは酷く深刻な顔でそう告げたが、アルバートは、どうせ大したことない事だろう というような顔でアイリーシャの次の言葉を待っていた。
「差出人不明のあの手紙の送り主が分かったんです……。いえ、まだ本人に確認した訳ではないので本当にそうなのかまでは分からないのですが……あの手紙の送り主は、ミハイル様だったのではないかと思います!」
「そうだろうね。」
アイリーシャは、重大な報告を兄にしたのだが、アルバートは
何だそのことか とばかりに軽く扱った。
「えっ……お兄様は驚かないのですか?!」
「そりゃ最初から分かってたからね。王太子殿下と令嬢との交流の場にも居た側近が同じ便箋で手紙を書いてよこしたら、今迄の手紙も自分でしたって名乗ってるようなものじゃないか。なんでお前が全く気づかないかの方が不思議だったよ。」
兄のど正論が炸裂する。言われてみれば本当にその通りなのだ。アイリーシャは自分の勘の悪さに頭を抱えてしまった。
しかしアイリーシャはここでハッとした。
名無しの手紙の主をそう簡単に断定してはいけないと思ったのだ。
「けれど、ミハイル様からはっきりとそうであると聞いた訳ではありません。まだ勘違いの可能性もありますわ……」
そう、前のような思い込みで決めつけて、また失敗してはいけないと、アイリーシャは慎重になっていたのだ。
しかしアルバートはというと、手紙の送り主がミハイルであると確信しているので話をどんどん大きくしていったのだった。
「まぁ、でかしたよリーシャ。メイフィール公爵家と縁談を結べるなんて、父上も喜ぶと思うよ。」
「まだ、そのような話はございません!!だから私の勘違いの可能性だってあるのですから。」
「それも時間の問題だと思うけどねぇ。」
「それはどう言う意味ですか?」
「文字通り、ミハイル様からお前に正式なアプローチが来るのは時間の問題だって事だよ。」
兄の言葉に、アイリーシャは顔を真っ赤にして動揺を見せた。
そのような妹の様子に目を細めながら、アルバートは続ける。
「まぁ、良かったよ。」
「何がですか?」
「お前も、相手がミハイル様なら満更でもないだろう?よく知らない相手からの縁談は片っ端から断っていたけども、相手が、よく知ってる人ならば話は違ってくるものな。」
「だから、そのような話は出ておりませんって!!」
これはもしや、ただ兄に揶揄われているだけなのでは無いかという可能性にアイリーシャは気づいたが、気づいたところで兄からの問いかけは止まらなかった。
「お前、嫌いじゃないだろう?ミハイル様の事。」
「それは、当たり前ですわ。あんなに良くしてもらって。むしろ尊敬してますわ!」
「ふぅん。果たしてその感情は本当に尊敬の念だけなのかな。」
兄に核心を突かれて、アイリーシャは言葉に詰まった。
言葉に詰まったので、とりあえず笑ってやり過ごす事にした。
兄との言い合いでは、アイリーシャは絶対に口では勝てないので、彼女は窮地に立ったら笑って誤魔化すと言う行動様式を身につけていたのだった。
アルバートの方も、アイリーシャが言葉での反論を止めて黙って笑っているようになったら、それは彼女が本気で困っている時だと分かっているのでそれ以上の追求は行わない。
「まぁ、とにかく先程の声は淑女にあるまじき声だったな。悲鳴とも聞き取られかねなかったぞ。いくら自室だと言っても注意するように。」
「はい、以後気をつけます。」
最初に立ち戻り、アルバートはこの部屋を訪れたきっかけの大声について注意を促し、それからアイリーシャの頭をポンと叩いてから自室へと戻っていった。
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