当て馬令嬢だと落ち込んでいたらいつの間にかお兄様に外堀を埋められて、結果、真の最愛の人に気づく事が出来ました。

石月 和花

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17. 令嬢、兄を紹介する2

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「見事な百合ですね。」
「はい。百合はマイヨール家の家紋ですので特に力を入れて育てていますの。」

アルバートが中座し、テラス席に残された二人は今、アイリーシャの提案でマイヨール家の庭園を散策している。
メイフィール家の薔薇と比べるとどうしても見劣りはしてしまうものの、マイヨール家の庭に咲き誇っている大輪の百合も、中々のものであった。

「いつだったか、貴女は王太子殿下との交流の場に真っ白な大輪の百合の花束を持参した事がありましたね。侍女から受け取り王太子殿下に渡すまでの数歩の間でしたが、白い百合の花束を手にする貴女は非常に美しかった。」

マイヨール家に咲き誇る白い百合の花が、いつかの可憐なアイリーシャの姿を思い出させていた。

「まぁ、ミハイル様ったらお上手ですわね。」
良くある社交辞令として受け止めて、アイリーシャはこの発言を受け流そうとしていた。しかし、ミハイルは単なる社交辞令では片付けられないような言葉を続ける。

「お世辞などではなく、本心です。王太子殿下の婚約者候補には見目の美しい御令嬢が集められていましたが、私はその中でも特にアイリーシャ様がお美しいと、常々思っていました。」
「そんなに褒めて頂けるなんて光栄ですわ。」
平然を装って応対してみるも、このような言葉に慣れていないアイリーシャの顔は真っ赤になり、ミハイルを見る事が出来なかった。

「正直、貴女にとってはお辛い事だったかと思いますが、貴女が王太子殿下の婚約者に選ばれなくて心底安堵しました。もし、貴女が婚約者に選ばれていたならば、この様な場で二人でお茶を飲みながら会話をするなんて絶対に叶わなかったのですから。」
ミハイルは熱い眼差しを向けて、ここぞとばかりにアイリーシャに対しての好意を示していったが、このような経験に乏しいアイリーシャには中々上手く伝わらない。

「ふふ、不思議なご縁ですわね。私もミハイル様とこんなに打ち解けてお話しできるなんて、三週間前は思いも寄りませんでしたわ。」
そうだけどそうじゃない。絶妙な返答をされたので、ミハイルはもっと直球的な物言いをしてみた。

「私は、アイリーシャ様ともっと色んな事が話してみたいです。」
「まぁ、私は兄の様な機知に富んだ話は出来ませんが、善処しますわ。」
どうやらアイリーシャには、妹と二人で歓談をしていてくれというアルバートの言葉から、今この場での会話の相手としてミハイルに望まれていると勘違いしているようだった。

意図が伝わらないもどかしさはあったものの、今回はこれ以上は諦めて、ミハイルはアイリーシャとの何気ない会話を楽しむことにしたのだった。


****


程なくして、アルバートが戻ってきた。

「中座、失礼しました。私が居ない間、妹との歓談は楽しめましたか?」
「おかげさまで。」
とミハイルは短く答え、何やらアルバートと目配せをした。どうやら、アルバートの企みにミハイルは感づいているようだった。

アルバートが戻り三人でのお茶会が再開された。

幾分か和やかになった雰囲気の中で、新しく淹れ直してもらったお茶を飲みながら、アルバートは新たな話題をミハイルに問いかけたのだった。

「妹から聞いたのですが、昔建国の絵本の解釈違いで妹を泣かせたのはミハイル様だったのですってね?」
「その節は、子供だったが故に空気も読めず本当に申し訳ない事をしたと思っています。どうかお許しください。」
「あ、いえ。貴方を責めてる訳じゃないし、むしろ妹を酷く泣かせたのは僕の方だしね。」

ではなぜ今その話を出したのだろう。
その様な怪訝な表情で様子を伺ってるミハイルを見て、アルバートはそれからアイリーシャに向かって問いかけた。

「なぁリーシャ。お前が実現させたいと言う例の計画をミハイル様に協力してもらうのはどうだろうか。ミハイル様ならこの国の正確な史実にもお詳しいだろうし、何よりお優しいからね。僕よりずっと適任だと思うんだけど。」
「そんな、ミハイル様は王太子殿下の側近としてのお勤めでお忙しいのですから、私の個人的な私用でご迷惑をおかけできませんわ。」
「お前、それだとまるで僕が暇してるみたいじゃ無いか。言っとくけどこれでも僕だって忙しいんだからね。」

話の主軸、アイリーシャのいう計画というのがなんなのか分からない為、ミハイルは目の前で行われている兄妹のやり取りをただ見守っていた。

けれども、目の前でその様な意味深のやり取りを見せられたら気にならない筈がない。

ミハイルは兄妹の会話のタイミングを見計らって、話の内容を理解しようと質問を切り出したのだった。

「それで、アイリーシャ様の計画というのは如何様なものなのでしょうか?」
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