7 / 109
7. 過去の出来事2
しおりを挟む
初めての手紙は、このお茶会の翌日にマイヨール家に届けられた。
「お嬢様宛にお花とお手紙が届いているのですが、その……送り主がわかりません。」
少し戸惑い気味にアイリーシャ付きの侍女エレノアが、届いた手紙と花束を持ってやってきたのだった。
「まぁ、一体どなたからかしら?」
この時点では、手紙の送り主に全くの心当たりが無かった為、アイリーシャは首を捻った。
「送り主が分からないとなると、もしかしたら嫌がらせの類も考えられますが如何なされましょう?」
「エレノアったら考えすぎよ。嫌がらせで手紙を送る人ならば、こんな素敵な花束を一緒に送らないわ。」
エレノアの手の中にあるその花束は、濃い青紫と白の2色の小花が金色のリボンで結ばれている。
花束をエレノアに持たせたまま、アイリーシャはまず手紙を受け取り開封し中身を確かめたのだった。
~~~
親愛なる アイリーシャ・マイヨール様
まず始めに、名前を名乗れない自分をお許しください。
昨日のあのような諍いで、貴女が心を痛めていないか心配になり筆を取りました。
昨日の、スタイン公爵令嬢を思い遣っての行動大変立派でした。
あの場の空気を変えたきっかけは間違いなく貴女でした。
貴女こそ聡明で優しい素晴らしい御令嬢だと思います。
これから益々、あのような牽制が増えると思うので、貴女も嫌な思いをするかもしれませんが、どうか貴女の御心は、醜い嫉妬に染まらないで欲しい。
私は陰ながら貴女を見守ります。
~~~
手紙には、昨日の茶会での出来事になぞらえて、アイリーシャの事を思いやり、彼女の行動を称賛した内容が書かれていた。
今まで一度もこのような美辞麗句を貰ったことのないアイリーシャは、自分に向けられた言葉に、戸惑いながらも嬉しさを覚えた。
それから、改めて便箋に目を落とすも、差出人に繋がるような情報はやはり何もなかった。しいて言うならば、便箋の紙質が上質な物であるくらいしか手がかりがない。
しかしここで、アイリーシャはある可能性に気づいたのだった。
「エレノア、このお手紙はもしかして、王太子殿下からなのではないかしら。」
この手紙の内容は、昨日のお茶会に居た人物でないと書けないし、そして、お茶会の出席者は、5人の令嬢と、王太子殿下のみである。他の婚約者候補の令嬢が、ライバルであるアイリーシャに対してこのような手紙を送るとは考えにくく、そうなると消去法で王太子殿下しか残らないのだ。
また、名前を明かせないというのも、王太子という立場上、表立って誰か1人に特別な対応を取ることが出来ないからだろう。
そう考えると全てに辻褄が合ってしまった。
「そう言えば…この青紫に白というお花の組み合わせ、昨日のお嬢様のドレスと同じ色ですね。この金色のリボンもお嬢様の、金の髪に合わせてるのではないでしょうか。」
「確かに、そうだわ。私の昨日のドレスと同じ色だわ!」
エレノアのこの発見に、いよいよもって手紙の送り主が王太子殿下である信憑性が増してきた。
「まぁ!お嬢様のドレス姿に見立てた花束を贈るとは、なんて素敵なお心遣いなんでしょう!!」
アイリーシャ本人よりもエレノアの方が感激してしまっているが、アイリーシャ自身も勿論そのお心遣いを嬉しく思い、受け取った花束を抱きしめた。
こうして、四年前のこの日から差出人不明の手紙の交流が始まったのだった。
ある時は、アイリーシャの容姿や服装を褒めてくれた。
またある時は、令嬢同士の諍いに巻き込まれたアイリーシャを労ってくれた。
いつも自分の事を気遣ってくれるこの手紙の送り主に、アイリーシャはどんどん惹かれていった。
そして届いた手紙が10を超える頃には、一方的に手紙を貰うだけではなく、自分も何か反応を返したいと思うようになっていた。
しかし、いくら差出人が王太子殿下だと思っていても、本人が名を明かせないと言っているのだからこちらもそれに従わなくてはならなず、もどかしい思いを抱いたまま何も出来ずに一方的な交流は続いた。
しかし、そんなある日のこと。
いつものように届いた手紙には、こんなことが書かれていたのだった。
~~~
今更ですが、名前も名乗れぬ男から手紙が届くのは怖くは無いでしょうか?
もし、貴女がこの手紙を気味悪く思っているのならば、今後は一切送りません。
もし、このまま手紙を送り続けても良いならば、肯定の意味で赤いリボンを。
これ以上は手紙を受け取れないというならば、否定の意味で青いリボンを。
次の王太子殿下との交流の機会で、身に付けてください。
~~~
勿論、アイリーシャは赤いリボンを身に付けて王太子殿下との交流のお茶会に出席した。
そして今日までの約4年間、手紙の交流が続いたのだった。
「お嬢様宛にお花とお手紙が届いているのですが、その……送り主がわかりません。」
少し戸惑い気味にアイリーシャ付きの侍女エレノアが、届いた手紙と花束を持ってやってきたのだった。
「まぁ、一体どなたからかしら?」
この時点では、手紙の送り主に全くの心当たりが無かった為、アイリーシャは首を捻った。
「送り主が分からないとなると、もしかしたら嫌がらせの類も考えられますが如何なされましょう?」
「エレノアったら考えすぎよ。嫌がらせで手紙を送る人ならば、こんな素敵な花束を一緒に送らないわ。」
エレノアの手の中にあるその花束は、濃い青紫と白の2色の小花が金色のリボンで結ばれている。
花束をエレノアに持たせたまま、アイリーシャはまず手紙を受け取り開封し中身を確かめたのだった。
~~~
親愛なる アイリーシャ・マイヨール様
まず始めに、名前を名乗れない自分をお許しください。
昨日のあのような諍いで、貴女が心を痛めていないか心配になり筆を取りました。
昨日の、スタイン公爵令嬢を思い遣っての行動大変立派でした。
あの場の空気を変えたきっかけは間違いなく貴女でした。
貴女こそ聡明で優しい素晴らしい御令嬢だと思います。
これから益々、あのような牽制が増えると思うので、貴女も嫌な思いをするかもしれませんが、どうか貴女の御心は、醜い嫉妬に染まらないで欲しい。
私は陰ながら貴女を見守ります。
~~~
手紙には、昨日の茶会での出来事になぞらえて、アイリーシャの事を思いやり、彼女の行動を称賛した内容が書かれていた。
今まで一度もこのような美辞麗句を貰ったことのないアイリーシャは、自分に向けられた言葉に、戸惑いながらも嬉しさを覚えた。
それから、改めて便箋に目を落とすも、差出人に繋がるような情報はやはり何もなかった。しいて言うならば、便箋の紙質が上質な物であるくらいしか手がかりがない。
しかしここで、アイリーシャはある可能性に気づいたのだった。
「エレノア、このお手紙はもしかして、王太子殿下からなのではないかしら。」
この手紙の内容は、昨日のお茶会に居た人物でないと書けないし、そして、お茶会の出席者は、5人の令嬢と、王太子殿下のみである。他の婚約者候補の令嬢が、ライバルであるアイリーシャに対してこのような手紙を送るとは考えにくく、そうなると消去法で王太子殿下しか残らないのだ。
また、名前を明かせないというのも、王太子という立場上、表立って誰か1人に特別な対応を取ることが出来ないからだろう。
そう考えると全てに辻褄が合ってしまった。
「そう言えば…この青紫に白というお花の組み合わせ、昨日のお嬢様のドレスと同じ色ですね。この金色のリボンもお嬢様の、金の髪に合わせてるのではないでしょうか。」
「確かに、そうだわ。私の昨日のドレスと同じ色だわ!」
エレノアのこの発見に、いよいよもって手紙の送り主が王太子殿下である信憑性が増してきた。
「まぁ!お嬢様のドレス姿に見立てた花束を贈るとは、なんて素敵なお心遣いなんでしょう!!」
アイリーシャ本人よりもエレノアの方が感激してしまっているが、アイリーシャ自身も勿論そのお心遣いを嬉しく思い、受け取った花束を抱きしめた。
こうして、四年前のこの日から差出人不明の手紙の交流が始まったのだった。
ある時は、アイリーシャの容姿や服装を褒めてくれた。
またある時は、令嬢同士の諍いに巻き込まれたアイリーシャを労ってくれた。
いつも自分の事を気遣ってくれるこの手紙の送り主に、アイリーシャはどんどん惹かれていった。
そして届いた手紙が10を超える頃には、一方的に手紙を貰うだけではなく、自分も何か反応を返したいと思うようになっていた。
しかし、いくら差出人が王太子殿下だと思っていても、本人が名を明かせないと言っているのだからこちらもそれに従わなくてはならなず、もどかしい思いを抱いたまま何も出来ずに一方的な交流は続いた。
しかし、そんなある日のこと。
いつものように届いた手紙には、こんなことが書かれていたのだった。
~~~
今更ですが、名前も名乗れぬ男から手紙が届くのは怖くは無いでしょうか?
もし、貴女がこの手紙を気味悪く思っているのならば、今後は一切送りません。
もし、このまま手紙を送り続けても良いならば、肯定の意味で赤いリボンを。
これ以上は手紙を受け取れないというならば、否定の意味で青いリボンを。
次の王太子殿下との交流の機会で、身に付けてください。
~~~
勿論、アイリーシャは赤いリボンを身に付けて王太子殿下との交流のお茶会に出席した。
そして今日までの約4年間、手紙の交流が続いたのだった。
1
お気に入りに追加
1,437
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
7年ぶりに帰国した美貌の年下婚約者は年上婚約者を溺愛したい。
なーさ
恋愛
7年前に隣国との交換留学に行った6歳下の婚約者ラドルフ。その婚約者で王城で侍女をしながら領地の運営もする貧乏令嬢ジューン。
7年ぶりにラドルフが帰国するがジューンは現れない。それもそのはず2年前にラドルフとジューンは婚約破棄しているからだ。そのことを知らないラドルフはジューンの家を訪ねる。しかしジューンはいない。後日王城で会った二人だったがラドルフは再会を喜ぶもジューンは喜べない。なぜなら王妃にラドルフと話すなと言われているからだ。わざと突き放すような言い方をしてその場を去ったジューン。そしてラドルフは7年ぶりに帰った実家で婚約破棄したことを知る。
溺愛したい美貌の年下騎士と弟としか見ていない年上令嬢。二人のじれじれラブストーリー!
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
精霊に転生した少女は周りに溺愛される
紅葉
恋愛
ある日親の喧嘩に巻き込まれてしまい、刺されて人生を終わらせてしまった少女がいた 。
それを見た神様は新たな人生を与える
親のことで嫌気を指していた少女は人以外で転生させてくれるようにお願いした。神様はそれを了承して精霊に転生させることにした。
果たしてその少女は新たな精霊としての人生の中で幸せをつかめることができるのか‼️
初めて書いてみました。気に入ってくれると嬉しいです!!ぜひ気楽に感想書いてください!
「子供ができた」と夫が愛人を連れてきたので祝福した
基本二度寝
恋愛
おめでとうございます!!!
※エロなし
ざまぁをやってみたくて。
ざまぁが本編より長くなったので割愛。
番外編でupするかもしないかも。
〖完結〗私が死ねばいいのですね。
藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。
両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。
それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。
冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。
クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。
そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全21話で完結になります。
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる