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閑話. リチャード・クライトゥールという人物1
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##この話は、[60.胸に過ぎる想い]の続きの話です。
———
クルト村から王都へと帰る馬車の中で、アンナへの尋問は続いていた。宣言通りに、リリアナがルーフェスとの事を根掘り葉掘り聞いていたのだ。
「まぁ、それで困っていたアンナさんをルーフェスが助けたのがお二人の出逢いなんですね。」
「えぇ、まぁ、……そうですね。」
「ふふ、素敵ですわね。困っている所を助けるだなんて、ルーフェスもやりますわね。」
「そうですね、あの時は本当に助かりました。お陰で弟にご飯を食べさせる事が出来て。」
「えっ?そういう反応なんですの?」
「えっ?」
思ってた様な反応が返ってこなくて、リリアナは思わず聞き返してしまったが、アンナは、何故リリアナが驚いたのかまるで分かっていなかった。
そんなアンナの様子に、リリアナはどうやら彼女は恋愛話には向いていないと察した。
なので質問の仕方を変えようと、リリアナは聞き方をあれこれ考え始めてしまったので、そんな彼女の代わりに、今度はリチャードがアンナに質問をしたのだった。
「ねぇ、私からも一つ聞いても良いかな?アンナ嬢。」
「はい。何でしょうかリチャード様。」
「この前のルーフェスの大怪我、アレも君が絡んでいるのかな?」
リチャードのその問いに、アンナはハッとして固まった。
それは、紛れもない事実だったから。
「……そうです。申し訳ありません……」
アンナは顔を青くしてリチャードに頭を下げた。彼からしてみたら、弟を危険な目に合わせた張本人なのだからきっと怒っているに違いないと気づいたのだ。
だから狭い馬車の中、アンナは深く頭を下げて謝罪を続けたのだけれども、リチャードは、別に怒っている訳では無かったのだった。
「あぁ。そんなに怯えないで。アンナ嬢、顔を上げて。何も君を責めようって訳じゃ無いんだよ。アイツが自分の意思で動いた事だろうし。」
リチャードは恐縮しているアンナを慌てて宥めると、言葉を続けた。
「ただね、確認したかったんだよ。アイツは怪我の理由を絶対に言おうとしなかったから。」
彼は別にアンナを責めたかった訳ではないし、怒ってもいない。ただ確認したかったのだ。弟が身を挺してでも護りたかったものを。
「……そうです。私が無理に頼んでいつもよりランクが高い魔物の討伐依頼を受けて、それで油断した私を庇ってルーフェスはあの怪我を負いました……ルーフェスを危険な目に合わせて本当にごめんなさい。」
「そっか。やっぱり君だったんだね。」
「はい。ごめんなさい。」
「まぁ、生きていたから良かったよ。生きてさえいればどうにでもなるしね。」
そう言ってリチャードは、再び頭を下げようとしているアンナを止めると、それから小さな声で呟いたのだった。
「それに多分、アイツの方が君に助けられているからね。」
「えっ?それってどういう意味……」
リチャードが発した言葉の意味を確認しようと、アンナが聞き返したその時だった。
ガチャンッ!!!
馬の嗎が聴こえたかと思うと、馬車が急停止したのだ。
「二人とも大丈夫かい?」
アンナは一瞬何が起きたのか分からなかった。
馬車が大きく揺れて思いっきり座席に身体をぶつけたはずなのに、どこも痛くないのだ。
「……大丈夫、みたいです?」
状況が分からず疑問系で答えたアンナに対して、状況が分かっているリリアナは、柔らかい笑顔でリチャードにお礼を言ったのだった。
「えぇ、有難うリチャード。貴方が魔法で衝撃から守ってくれたお陰でどこも痛くないわ。」
「うん、君が傷付かないで良かったよ。」
リリアナの声を聞いて、リチャードはホッとした様に微笑んだ。
そう、リチャードが咄嗟に防御魔法をかけて、アンナとリリアナの二人を衝撃から護っていたのだ。
そういった魔法も有るのだなとアンナが感心していると、リチャードは窓の外に目を向けて険しい顔をして居た。
「にしても何があったんだろうね。外を見て来るから二人はここに居てね。危ないから出て来ちゃダメだよ。」
「あっ、それでしたら私が行きます。剣を扱えますし、魔物でしたら退治できますから。」
「でも相手が人間だったら?」
「えっ……」
予想外の返しに、アンナは言葉に詰まった。魔物ならば今まで何度も退治して来ているが、確かにアンナは人間を相手に実践をした事がないのだ。
それにここは街道で有る。魔物よりも盗賊の襲撃の可能性の方が高いとリチャードの言葉で気付かされると、アンナは尻込みをしてしまった。
「確かに、人間を相手にしたことは無いですけど……」
「うん。アンナ嬢、無理しないで。まぁ、ここは私に任せなさい。弟の大切な人を危険な目に遭わせられないからね。危ないから二人は車内にいてね。」
「えっ、えっ?!」
そう言ってリチャードは、戸惑ってしまったアンナを気遣うように彼女の肩をポンポンと叩くと、一人で車外へと出て行ってしまったのだった。
「リリアナ様!止めなくていいんですか?!だってリチャード様は攻撃魔法が使えないんでしょう?!」
アンナはルーフェスからそう聞いて居たので、慌ててリリアナに訴えた。剣も持たない丸腰のリチャードが敵の中に単身で行くだなんて、余りに危険で無謀な行為だと思ったのだ。
けれどもリリアナは、リチャードを信頼しきっているからか、慌てる素振りも見せずに、相変わらずニコニコしていて、逆に動揺しているアンナを宥めたのだった。
「大丈夫ですわ、アンナさん。リチャードはとっても強いですから。」
そして本当に、リリアナが言う通り、そんなアンナの心配は杞憂であったということが、ものの数分で証明されたのだった。
———
##続きます
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クルト村から王都へと帰る馬車の中で、アンナへの尋問は続いていた。宣言通りに、リリアナがルーフェスとの事を根掘り葉掘り聞いていたのだ。
「まぁ、それで困っていたアンナさんをルーフェスが助けたのがお二人の出逢いなんですね。」
「えぇ、まぁ、……そうですね。」
「ふふ、素敵ですわね。困っている所を助けるだなんて、ルーフェスもやりますわね。」
「そうですね、あの時は本当に助かりました。お陰で弟にご飯を食べさせる事が出来て。」
「えっ?そういう反応なんですの?」
「えっ?」
思ってた様な反応が返ってこなくて、リリアナは思わず聞き返してしまったが、アンナは、何故リリアナが驚いたのかまるで分かっていなかった。
そんなアンナの様子に、リリアナはどうやら彼女は恋愛話には向いていないと察した。
なので質問の仕方を変えようと、リリアナは聞き方をあれこれ考え始めてしまったので、そんな彼女の代わりに、今度はリチャードがアンナに質問をしたのだった。
「ねぇ、私からも一つ聞いても良いかな?アンナ嬢。」
「はい。何でしょうかリチャード様。」
「この前のルーフェスの大怪我、アレも君が絡んでいるのかな?」
リチャードのその問いに、アンナはハッとして固まった。
それは、紛れもない事実だったから。
「……そうです。申し訳ありません……」
アンナは顔を青くしてリチャードに頭を下げた。彼からしてみたら、弟を危険な目に合わせた張本人なのだからきっと怒っているに違いないと気づいたのだ。
だから狭い馬車の中、アンナは深く頭を下げて謝罪を続けたのだけれども、リチャードは、別に怒っている訳では無かったのだった。
「あぁ。そんなに怯えないで。アンナ嬢、顔を上げて。何も君を責めようって訳じゃ無いんだよ。アイツが自分の意思で動いた事だろうし。」
リチャードは恐縮しているアンナを慌てて宥めると、言葉を続けた。
「ただね、確認したかったんだよ。アイツは怪我の理由を絶対に言おうとしなかったから。」
彼は別にアンナを責めたかった訳ではないし、怒ってもいない。ただ確認したかったのだ。弟が身を挺してでも護りたかったものを。
「……そうです。私が無理に頼んでいつもよりランクが高い魔物の討伐依頼を受けて、それで油断した私を庇ってルーフェスはあの怪我を負いました……ルーフェスを危険な目に合わせて本当にごめんなさい。」
「そっか。やっぱり君だったんだね。」
「はい。ごめんなさい。」
「まぁ、生きていたから良かったよ。生きてさえいればどうにでもなるしね。」
そう言ってリチャードは、再び頭を下げようとしているアンナを止めると、それから小さな声で呟いたのだった。
「それに多分、アイツの方が君に助けられているからね。」
「えっ?それってどういう意味……」
リチャードが発した言葉の意味を確認しようと、アンナが聞き返したその時だった。
ガチャンッ!!!
馬の嗎が聴こえたかと思うと、馬車が急停止したのだ。
「二人とも大丈夫かい?」
アンナは一瞬何が起きたのか分からなかった。
馬車が大きく揺れて思いっきり座席に身体をぶつけたはずなのに、どこも痛くないのだ。
「……大丈夫、みたいです?」
状況が分からず疑問系で答えたアンナに対して、状況が分かっているリリアナは、柔らかい笑顔でリチャードにお礼を言ったのだった。
「えぇ、有難うリチャード。貴方が魔法で衝撃から守ってくれたお陰でどこも痛くないわ。」
「うん、君が傷付かないで良かったよ。」
リリアナの声を聞いて、リチャードはホッとした様に微笑んだ。
そう、リチャードが咄嗟に防御魔法をかけて、アンナとリリアナの二人を衝撃から護っていたのだ。
そういった魔法も有るのだなとアンナが感心していると、リチャードは窓の外に目を向けて険しい顔をして居た。
「にしても何があったんだろうね。外を見て来るから二人はここに居てね。危ないから出て来ちゃダメだよ。」
「あっ、それでしたら私が行きます。剣を扱えますし、魔物でしたら退治できますから。」
「でも相手が人間だったら?」
「えっ……」
予想外の返しに、アンナは言葉に詰まった。魔物ならば今まで何度も退治して来ているが、確かにアンナは人間を相手に実践をした事がないのだ。
それにここは街道で有る。魔物よりも盗賊の襲撃の可能性の方が高いとリチャードの言葉で気付かされると、アンナは尻込みをしてしまった。
「確かに、人間を相手にしたことは無いですけど……」
「うん。アンナ嬢、無理しないで。まぁ、ここは私に任せなさい。弟の大切な人を危険な目に遭わせられないからね。危ないから二人は車内にいてね。」
「えっ、えっ?!」
そう言ってリチャードは、戸惑ってしまったアンナを気遣うように彼女の肩をポンポンと叩くと、一人で車外へと出て行ってしまったのだった。
「リリアナ様!止めなくていいんですか?!だってリチャード様は攻撃魔法が使えないんでしょう?!」
アンナはルーフェスからそう聞いて居たので、慌ててリリアナに訴えた。剣も持たない丸腰のリチャードが敵の中に単身で行くだなんて、余りに危険で無謀な行為だと思ったのだ。
けれどもリリアナは、リチャードを信頼しきっているからか、慌てる素振りも見せずに、相変わらずニコニコしていて、逆に動揺しているアンナを宥めたのだった。
「大丈夫ですわ、アンナさん。リチャードはとっても強いですから。」
そして本当に、リリアナが言う通り、そんなアンナの心配は杞憂であったということが、ものの数分で証明されたのだった。
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