神様に『転生させて』もられるのは、なにも『人間ばかり』とは限らない!

越知鷹 けい

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 ―――ボクが6才の誕生日を迎えた日のことです。


「まあ、なんて可愛いのかしら! あんたみたいな子、私の弟じゃないわ!」

 姉のダーシャは、いつもボクをいじめました。
 ボクも、負けじと言い返しましたが、すぐに言い負かされてしまいます。

 ボクが泣き出すと、姉の取り巻きたちは、みんな揃ってこう言うんです。
「あらあら、お可哀想に」って。どうして? だってボクは何も悪くないのに……。

 ある日のことです。ボクは庭師見習いのお兄さんからバラの花を貰いました。
 とても嬉しかったけど、それを見ていた姉が突然怒り出しました。

「ちょっと! それ私のよ!? 返してちょうだい!!」
「えっ……?」

 訳がわからず、「違うもん……」と言うと、

「何が違うっていうの!?」と怒鳴られました。怖くてまた泣いてしまいました。

 すると、姉の取り巻きも一緒になって笑い出したりしました。

 (なんで? ボクが何をしたっていうんだろう……)


 それからしばらくして、ボクはあることに気がつきました。
 それは、ボクの顔を見ると、みんなが嫌そうな表情を浮かべるということです。
 ボクは自分の容姿や性格が悪いせいだと思い込みました。
 だから、なるべく目立たないようにして生きようと思いました。

 そんなある日、ボクは母と一緒に買い物に出掛けることになりました。

 母は、とても優しい人なので大好きだけど、姉妹のことを思うとやっぱり不安になります。

 もし、何かあったらどうしよう……。ボクは母の手をぎゅっと握りしめていました。

 そのとき、一人の少年と出会いました。彼は、まるで絵本の中の王子様のような人でした。
 ボクはその人のことが気になって仕方がありませんでした。

 彼のことをもっと知りたいと思ったボクは、彼に話しかけてみることにしてみたのです。
「こんにちは!」
「……」

 無視された……。ボクはとても悲しくなりました。
 でも諦めずに何度も話し掛けたけれど、結局返事をしてくれないどころか、目すら合わせてくれません。

 それでもめげなかったボクは、思い切ってを聞いてみることにしました。

「あの……あなたの名前は?」
「……」……やっぱり答えてくれないかぁ……。その時、ふいに彼が口を開きました。

「お前こそ誰だよ」

 初めて聞いた彼からの質問に、ボクは思わずドキッとして黙ってしまいました。

 しかし、このままではいけないと思って勇気を振り絞った結果、ようやく自分の名前を名乗ることができました。

「ボ、ボクは、シャストラ といいます」

「へぇ~、女の子みたいな名前だね」

「そ、そうですか?」
「うん、なんか弱そうだよね」……ガーン!! 初対面なのに酷い言われようだ……。

 ボクがショックを受けていると、今度は向こうの方から話かけてきました。

「ねぇ君さぁ、もしかして貴族だったりする?」
「はい……」

「じゃあさ、僕の家来にならない? そうしたら、君のこと守ってあげるよ」
「ほ、本当ですか!?」

「ああ、約束するよ」

 ……やったー!  ボクは嬉しくなって飛び跳ねました。そして、彼と握手を交わしたときでした――。


「おい! 貴様、何をしている!?」


 突然誰かの声が聞こえてきました。
 声の主を探してみると、そこには騎士らしき格好をした男性が立っていました。

 その人は、こちらに向かってズンズンと歩いてくると、いきなり剣を抜き放ちました。

「その方から離れろ!!」

「ご、ごめんなさい!!」

 ボクはすぐに謝りましたが、男性は許してくれず、そのまま斬りかかってきたのです! 

 ボクは恐怖のあまり目を瞑りました。



……あれ? 痛みがない。恐る恐る目を開けると、ボクの前に男の子が立ち塞がっていました。

「大丈夫かい?シャトラちゃん」

「あ……ありがとうございます。助けていただいて……。あの、お名前は……?」
「僕?……僕は、アニク。この街の男爵 ステラ―家 の長男だよ」

「そう……なんですね。ボクはシャストラです。よろしくお願いします」

 これが、ボクとアニク様の出会いであり、運命の日でもありました。


 その後、母からアニク様が姉の婚約者だと知りました。

 ボクは嬉しさの余り、すぐに姉に報告に行きました。すると姉は驚きましたが、

「まあ! それなら私も嬉しいわ」と言ってくれました。

 それからというもの、ボクは姉と一緒にいる時間が増えました。
 姉と一緒のときは、いつも婚約者の役をやらされました。とても楽しかったです。

 でも、そんな幸せは長く続きませんでした。


―――ある日、姉が急に倒れてしまったのです。原因は、二股による疲労でした。

「お姉ちゃん!!」

 倒れた姉を見て、ボクは泣きながら叫びました。
「どうしてこんなことに……」

 ボクが泣き続けていると、いつの間にか側にいた姉が、優しく頭を撫でてくれていました。

「泣かないで……。私は、あなたの笑顔が好きなんだから」
「うっ……ぐすっ……」

「だから笑って? シャストラ」
「……わかったよ、お姉ちゃん」

 ボクは涙を拭って、精一杯の笑みを浮かべました。

 母は、姉の看病をしながら、ボクのことをずっと見守っていてくれた。

「シャストラ、あなたには辛い思いをさせてばかりだけど、これからも、私の自慢の息子でいてちょうだい」
「はい!」

 ボクは、母の願いを叶えるため頑張ることにしたんだ。


 それからしばらくして、ボクはある夢を見るようになった。

 それは、自分が王子様と結婚するというものでした。最初は、ただの夢だと思いました。

 だって、ボクは男だから……。だけど、なぜか胸がドキドキして仕方がなかったんです。


 それからしばらくすると、ボクはまた不思議な体験をすることがありました。
 幼馴染みの少女マリカが、ボクの顔を見るなり顔を真っ赤にして逃げていったのです。

 ボクは訳がわからなくて混乱しました。
 そんなある日、ボクは母に呼ばれて、ある部屋へとやって来ました。

 そこには、次女のヴァーニが待っていて、ボクの顔を見ると、

「あら? 今日は女装していないのね……」と言いました。

……え? どういうこと? ボクの家は貧乏貴族だから、たまに姉のおさがりを着させられていたハズだよ? よくわからないまま話を聞こうとしたけど、何故か教えてもらえませんでした。その代わり、ボクは母からあることを頼まれました。

「いい? あなたにしか頼めないことなの」
「ボクにできることなら何でもやります!」

「ありがとう……。あなたは、将来立派な男性になるでしょう。でも、今は無理をしてでも女性として生きなければならないの」

 母は、つらい表情でボクの情に訴えかけてきました。こうなると、ボクは折れるしかない。

「……わかりました」
「今は、あなたが男の子として生きることは許されない。そのことを忘れないで」

「……はい」

 ボクは複雑な気持ちになりながらも、とりあえず納得しました。


 ◇


 そして、時は流れ、ボクは13歳となりました。


 その頃になると、姉と一緒にお風呂に入ることを拒めるようになりました。それに身長が伸びてきて、顔つきも男の子らしくなってきたので、そろそろ本格的に男の子として生きていこうと思い始めていました。


……なのに、ボクが姉に代わって『アニク様の婚約者になる』という、恐ろしい事実が発覚したのです……。

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