神様に『転生させて』もられるのは、なにも『人間ばかり』とは限らない!

越知鷹 けい

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 ボクは、生まれて間もなく、母親の元から引き離された。

――人間の都合――、らしい。

 この話は、ご近所のおばさんに教えてもらった。

 おばさんは、ボクがご飯を食べているときにだけ、現れて、一緒にご飯を食べる。
 そのときに、いつも世間話をしてくれた。

 おばさんは 野良 らしいこと。
 人間たちは、内ネコと外ネコで区別しているということ。
 家の外では、自動車とかトラックとか、危険な動物がたくさんいること。
 お空を飛ぶ、カラスという生き物が、ボクたちの天敵だということ・・・。

 それから、それから・・・。

「テレビ」という箱の中の住人たちは、ボクたちに危害を加えられないこと。
 なのに、たくさんの知識や美味しい食べ物を紹介してくれる。

 それからぁ~・・・。

 そうだ! この首輪は、選ばれし者にのみ、与えられるということ。


 ―――あの家族と過ごした時間は、本当に幸せだったんだ。


 ボクのことを、何よりも大切にしてくれた心咲ミサキちゃん。
 自分の子供のように育ててくれた、お母さん。
 いつも、酸っぱい匂いのお父さん。


 ◇

 走馬灯のように流れる記憶を、隣にいる神様と一緒に見ていた。
 神様は涙を流しながら「偉いね」と言ってくれた。

 なんだか、そのひと言に、救われた気分だ。

 お庭で、母親と遊んでいる心咲ミサキちゃん。
 ボールを追いかけて、外に出てしまった。

 塀の上で、のんびりと見ていた時だった。

 凄い速さで こっちに走ってくる 自動車。
 なのに、フラフラしている。

「あぶないっ!」と思ったときには、もう飛び出していた。

 自動車に飛び込んだ身体は、フロントガラスに ヒビ を入れた。
 驚いた運転手は、心咲ミサキちゃんに気付いて、急ブレーキを踏んでくれた。

 危なかった。 間一髪だった。

 おばさんの言っていたことは、本当だったんだ。
 よかった。心咲ちゃんに怪我がなくて。

 あぁ、泣いちゃったよ。

 驚かせちゃったね。でも、ボクは大丈夫だよ。
 だからさ、また、あそぼうよ―――。

 ボクの思い出は、そこで終わってしまった。


 ◇

「偉い。ホント偉いね。君は。」

 そう言いながら、何度も頭を撫でてくれる神様。

「そうかな? よくわかんないや。
 ……でも。あのお家には、もう帰れないんだね」

「どうやら人間社会に未練があるようだね。
 だったら、君を『転生』させてあげよう。
 少し、生活水準は落ちるが、どうだろうか?」

「本当に?!
 じゃあさ。ボク、人間になりたい。
 ブランコをこいだり、滑り台に登ったり。
 それから、ご飯も作ってみたい!
 みんなに、美味しいって言ってもらいたいんだ!」

 ボクは、膨らむ希望に胸を躍らせた。

「人間ってさ、本当にすごいんだよ!
 なんでも出来ちゃうんだ!」

 興奮したボクに、神様は嬉しそうに、ほほ笑む掛けてくれる。

「オーケー。オーケー。
 折角だから、色々と『特典』を付けてあげよう。
 目覚めたら、びっくりするぞ」

「本当に!? やったー‼」
喜びの余り、恐れ多くも神様の懐に飛び込んでしまった。

 でも、神様はとても嬉しそうだった。

 そんな神様の顔を見ていると、徐々に意識が薄れていった。


 深く、深く。とっても気持ちよく眠るように……………。


 ◇

 ボクが、次に意識を取り戻したとき。
 そこには、人間の母親の顔があった。ボクの顔をのぞき込むように見ている。

 ボクが声をあげると、つよく抱きしめてくれた。
 そして、僕に シャストラ、という名前をくれた。
 
 嬉しい。今度はこの温もりが、ずっと続きますように―――。


 でも、人間社会は、そんなに甘くはありませんでした。

 そう、ボクには5つ年の離れた姉がいたのです。
 その姉が、とてつもなく、性悪な令嬢でした……。


 ◇ つづく
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