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2章 広がる世界
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しおりを挟むナオトがすんでのところで渡してくれたピアスのおかげでなんとか地面に着地できたノーマンは剣を振るいながら草木を掻き分け、男がナオトを連れて飛び去った方向へ走っていた。
かなり遠くの森では木が幾本もたおれていくのがわずかに視認できる。
草木の影から時折飛び出てくる獣や狼型の魔物を斬り伏せながら進むもその目的の場所には中々近づけない。
「くっそ……キリがないな。」
ノーマンが剣に力をこめて握り込むと剣身にある刻印が淡く銀色に光り、やがてそれがはじけると剣に炎を纏い始めた。それを剣をふるって前方に放てば火球になり、飛び込んできた魔物を一掃した。
すると、上空すぐ近くに機械音が聞こえ、見上げれば風をまといながらヴィクセンの船が頭上にあった。
「殿下!!」
そこからロープを下ろし、ハロルドが他にも隊員を連れて降下してくる。
「ご無事だと思ってました。」
「ほとんどナオトのおかげだがな。」
ハロルドとそんなやり取りをしているとハロルドがその二刀を抜き放ち、ノーマンの後ろから襲ってきた魔物を斬り伏せた。
「露払いはします。はやくナオトくんのところへ。」
「任せた。」
ノーマンとハロルドはすれ違いざまに腕を打ち合わせると互いに剣を振り抜いて目の前の障害を斬り裂いた。
ハロルドのおかげで先程よりもはやく進めるようになり、しばらく茂みの中を走る。
するとすぐ目の前の木が土煙をたてて倒れ、そこから転がり出るようにナオトが飛び出してきた。
「ナオト!!」
ノーマンはナオトに駆け寄り、助け起こそうとするもナオトが叫ぶ!
「触るな!!」
その声の剣幕にノーマンの動きが止まる。
そして、ナオトが身体をふらりとおこして見えたその肌の色にナオトが強くそう叫んだ理由を知る。
「瘴気にあたったのか!?」
「……うん。」
ナオトは痛みに顔をしかめて、滲んだ涙を拭うと林の向こうを睨みつける。
ノーマンは荒く息をつくナオトの身体をナオトの忠告を無視して支えた。
「ノーマン!だめだって!」
それを振り払おうとしたナオトの身体をノーマンは引き寄せた。
「俺なら大丈夫だ、銀龍の加護を忘れたのか?自分自身が瘴気に直接侵されなければ人からは俺は瘴気をもらわないし、多少だが瘴気を祓うこともできる。」
ノーマンに強くそう言われて抱きしめられる。
「来るのが遅くなってすまない。」
そのぬくもりと安心感にナオトの瞳から涙がにじむ。
それに気づいてノーマンはナオトを抱えあげ、その腕の中に閉じ込めた。
「なにがあった?」
ノーマンがそう聞くのと同時に、草陰からのそりとなにかがこちらにやってくる。
「……あれは」
人のかたちをとってはいてもそれらは人とは呼べないモノだった。
「……おれも……よくわからない。でもあいつは……ヤヒロはあれが龍族の村人たちだって……」
震える声でそういうナオトを抱きしめたままノーマンはその異形から距離をとるため後ろへと下がる。
どうして龍族のナオトが追い詰められ傷ついたのか、どうしてそんな顔で涙を流すのかそこでノーマンはその理由に気づく。
森の影から出てきたその緑色のヒトガタの胸には赤黒く鈍く結晶が光を放っていた。
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