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2章 広がる世界
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しおりを挟む「離せ!!」
ノーマンがナオトを引き寄せ、男に斬りかかる。
ナオトも目一杯男から離れようともがくが中々抜け出せず、空中で3人がもみくちゃになりながら重力にしたがって落下していく。
「死ね!」
男が魔力の刃をノーマンに突き出すのを見きったナオトが咄嗟にその手で庇って逸らす。
ナオトの手から血が滴り落ちた。
「ナオト!!」
ノーマンがナオトをなんとか引き寄せようとその手を伸ばす。
ナオトは痛みに顔をしかめながらも、片側の自分のピアスをぶちりと引き摺って口に含むと身を捩ってノーマンの方へ向き直り、その身を引き寄せて乱暴に口づけてそのピアスをノーマンへ口渡しした。
「大丈夫、また後で。」
ナオトはそう言って微笑むと瞬間その男に引き寄せられ、ノーマンは腹に男の蹴りをくらってそのまま崖底へと落ちていくしかなかった。
――――――――――――――――――――――――
ハロルドは崖下を落ちていくノーマンと男に抱えられ、連れ去られていくナオトを物陰で確認すると散り散りになった部隊を再編成するために飛行艇に向けて信号弾を打ち上げた。
歯がゆく、ノーマンの落ちていった崖下を一瞬見やりながらハロルドは駆け出した。
「離せってば!!!」
ナオトは男の腕を殴りながら、思いっきり背中に蹴りを入れようとするが男は器用にもそれを片手で止める。
気づけば男は樹海の中に着地し、そこにナオトを降ろすもその手はナオトの手首を掴んだまま離さない。
「ナオト、俺を覚えてないか?」
「だからあんたなんか知らないってば!!」
ナオトはその掴まれた手を振り払おうともがきながら蹴りを繰り出す。男はそれを軽く受けとめ、ナオトの足を掴むとそのまま地面に引き倒した。
「うわっ!!!」
男が倒れたナオトの上に覆いかぶさりナオトの頭の横に手をついた。
その空色の瞳がナオトを静かに見つめていた。
「本当に、何も感じないか?」
「は?」
男の手がナオトの頬に触れようとするのを乱暴に振り払った。
その瞬間、男の表情がひどく寂しそうに歪んだ。
でもそれもほんの一瞬ですぐに無表情になるとナオトに馬乗りになり、片手でナオトの腕を地面に縫い付け、もう片手でナオトの首を強く掴んだ。
「ぐっ……あ……」
「疑問にも思わないか?」
「くっ……なにが!!」
首を掴むその手をナオトも片手で摑んで男を睨みつけた。
「……なぜ龍族は外界の人々とは違うのか?そもそも"龍"とはなんなのか。今まで不思議に思ったことは?」
「それとあんたになんの関係があるんだよ!!」
「君の過去とその生まれに俺は関係している。」
「……おれの……過去?生まれ?」
「今の君ではその記憶に触れることすらできていないようだ。」
男は暴れるナオトの身体をさらに力強く地面に縫い付ける。
そのくせ、男はまた寂しそうに顔を歪ませてナオトを見下ろし、ゆっくりとその顔をナオトに近づけた。
「君は俺よりも強かった。その蒼は気高く、美しい。……あの銀龍、いや君の周りの龍族がそれをすべて壊したんだな。」
「どういう……」
「そのままの意味だ。あの龍も君の養い親も村の住人も君には本当のことは語らず隠している。それどころか、壊してさえいる。」
「そんなことない!!レムもレインも村のみんなも意味もなくそんなことしない!!!してたとしてもそれにはきっと理由がある!」
「本当に?真実、それを知って同じことが言えるか?」
「それでもおれが与えられたものや意志は揺るがない。それがおれにとって耐え難い真実でも。」
ナオトの空色の瞳がまっすぐ男を射貫くように見つめる。
男は少し驚いたように目を見開き、そのナオトの表情に少し微笑んだ。
「……すべてを失くしたはずなのに、その目は変わらないんだな。」
男は急にナオトを拘束するその手の力を緩めて、ナオトの肩口にその頭をうめた。
「……待っていたんだ、君を。ずっと……この瞬間を待っていたんだ。……俺の名前を……呼んでくれないか?」
少し震えたその声が縋るようにナオトにそう言って求めた。
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