君と巡る運命の中で生きていく。

clavis

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2章 広がる世界

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 しばらく歩いて林を抜けて話に聞いたドーム状の結界が目の前にせまる。
どういうわけか中はどうなっているのかわからない。
「ナオト、これをなんとかできるか?」
ノーマンがそう聞くと繋いだ手がするりと解けてナオトがその結界に触れる。
そしてナオトはすがるようにその結界に額をあわせた。
「確かにレムの魔力を感じるのに応えてくれない……なんだろう?……これ。」
「中に銀龍がいるのか?」
ノーマンがそう聞くもナオトは首をふった。
「わからない……でも確かにこの結界からはレムの魔力を感じるからきっとどこかにいるはずなのは確かなのに……それにちょっと村の様子もおかしい。」
それはノーマンの目にも明らかでところどころあの緑豊かな村はその面影もなく瘴気によって汚染されていた。
「……なぜこんなことに。」
「たぶんレムはこの中だけを守ることに専念したんだ。だからこの結界の外はこんなふうになってしまった。」
ナオトは結界から少し離れてノーマンをみる。
「おれは大丈夫だけどみんなはあんまりここにいないほうがいいね。」
そういって隊員たちを見れば瘴気によって何人かがすでに体調を悪くしていた。
「わかった。少し場所をうつそう。」
ノーマンはそういって部隊に指示をだそうと結界に背をむけた。ナオトもその背を追うようについていこうとしたとき、急にその手首を握られて後ろに引かれた。
「うわっ……!」
引かれるままにナオトは後ろを振り返る。
そこには先程まで気配さえなかったのに目深にフードをすっぽりとかぶった人物がいた。
とっさにその掴まれた手を振り払おうとするが強く手首を掴まれ引き寄せられる。
「離せ!!」
音もなく2人の背後に立ったそのフードをかぶった人物はいう。
「待っていた、ずっと。……ナオト。」
その男の声にナオトは耳を疑う。
「おまえ……誰だ?」
深くかぶったフードのその奥で青い瞳がナオトを見つめていた。
瞬間、ナオトの脇をノーマンの剣がフードの男をめがけて斬り裂いて、剣先がその男のフードを浅く切り裂いた。男は身軽に後ろに飛び退いてノーマンから距離をとる。
そこでやっとその男の手がナオトから離れていった。
ノーマンがナオトを背に庇い、男に剣を向ける。
「貴様何者だ!!」
他の隊員達も一斉に剣を抜いてフードの男を囲んだ。
男はスッと立ち上がるとその声でくすりと鼻で笑ってみせた。
「何者……か。……そうだな、おまえはなんて答えてほしい?」
フードの男はゆっくりとノーマンの前に歩み寄り、その剣先の少し前で立ち止まった。
そしてそのままそのフードを男は取り去る。
その場にいた全員がその顔に息を呑んだ。
黒髪の襟足を長く三編みにして流し、こちらを見る瞳は空色でその色や姿は確かに違うはずなのに、その顔はナオトもよく知る今、目の前にいるノーマンと同じだった。 
「はっきり言っておまえに用はないんだがな。……俺はナオトに用がある。」
ノーマンと同じ声で同じ顔で男はナオトに手を差し出す。
「ナオト、迎えにきた。……一緒に帰ろう。」
優しいその表情で男はそういった。
それにナオトは首をふる。
「……知らない、おれはおまえなんか知らない。……なんで?……おまえ、何なんだ。」
ナオトもパイオネットを構えると男にその切っ先を向けて問うた。
「……そうか。」
男が一歩踏み出したところでノーマンが男に斬りかかる。それに合わせるようにナオトも斬りかかる。
「邪魔だな、おまえ。」
男は2人の斬撃を軽く避け、ノーマンとの距離をつめた。
「おまえのそれ、忌々しいな。おまえがつけるには些か不釣り合いというやつじゃないか?」
男はそう言ってノーマンの片方のピアスに手を伸ばし引きちぎった。
「ぐっ……!!」
「ノーマン!!」
ナオトが魔力を収束させて男に向けて撃ち出して距離をとる。
「ノーマン!大丈夫?!」
ナオトが慌てて駆け寄り、血の滴るノーマンの耳朶をみる。
「大丈夫だ、ナオト。あいつから目を離すな。」
ノーマンはそう言ってナオトを引き寄せ、腕の中に閉じ込めた。
男は微笑みながら手の中に握り込んだノーマンの片方の空色のピアスを砕き割る。
「なぁ、おまえ。邪魔だから消えてくれよ。」
男はノーマンを睨みつけると片手で魔力を収束させて撃ち出した。
それをナオトがパイオネットで撃ち出した魔力で相殺しようとするがすべてを防ぎ切れずに爆発がおこる。
「うわっ!!」
「ナオト!!」
辺りは煙に包まれ、視界がほぼ遮られる。
ノーマンはナオトを腕の中に閉じ込めてとっさに庇う。
「ノーマン!大丈夫?!」
「大丈夫だ。それよりこっちに。」
ノーマンはすぐに体勢を立て直してナオトを木の陰へと引き寄せたとき、どこからともなくまた魔力弾が二人を襲った。
「!!」
ナオトはまたパイオネットで相殺しようとするが先程の攻撃を受けたときにパイオネットに衝撃があったらしく、ピシリとヒビが入ったのを見た。
ナオトは咄嗟にノーマンを思いっきり横に突き飛ばした。
相殺しきれなかったその魔力の勢いでナオトは数メートル後方に飛ばされ、パイオネットもその場に取り落としてしまった。
「ナオト!!!!」
地面に数メートル跡を残してようやく止まり、その痛みに耐えながらもナオトは
身を起こす。
「痛っ……」
「ハロ!!ナオトを援護しろ!」
「はい。」
追いついてきたハロルドにノーマンが叫ぶ。
ノーマンも起き上がってナオトの前に立ちはだかった。
「……ナオト、どうしてそいつを庇う?」
ゆらりと立ちこめる煙の中からその男は姿を現した。
「どうして?おれとしてはなんであんたがおれの名前を知ってるのかとか他にもいろんなことのほうが疑問なんだけど。」
ナオトもなんとか痛む身体に鞭打ってふらりと立ち上がる。
「……なるほど、そういうことか。」
ナオトの言葉に男は苦笑してナオトを見つめる。
「銀龍がいらないことをしたようだな。……忌々しい。」
「まったく話が見えないし、一人で納得しないでほしいんだけど。」
ナオトは嘲笑しながらその男を睨みつけた。
すると、一瞬のうちに男はノーマンと距離をつめる。
ノーマンの剣と男が出した魔力の刃が鍔迫合う。
「とりあえず、おまえが邪魔だ。」
「知るか!!会話にならん奴を相手取るほど俺は暇じゃない!!さっさっと立ち去れ!!」
男は口元に少し笑みを浮かべる。
「それはこちらのセリフだ。無知な自分を呪え。」
二人は斬り結びながら林の中を駆け抜ける。
たびたび男が飛ばしてくる魔力弾はナオトが相殺しながら痛む身体を引き摺ってノーマンの後を追った。
ハロルドも二人についていきながらナオトの援護をしつつ守護に徹する。
斬り合いながらそんなふうにしていると気づけば断崖絶壁にまで移動していた。
それを見計らったように男がノーマンの足場を崩す。
「ノーマン!!」
「殿下!!」
ナオトが落ちそうになるノーマンに手を伸ばしてその手を握るが、2人一緒に崖下へとその身を投げ出してしまう。
が、その2人の後を追うように男も崖下へとその身をなげて、ナオトを軽く小脇に抱えこんだ。
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