40 / 50
2章 広がる世界
37
しおりを挟むそれから数日かけてヴィクセンの飛行艇に乗り、山の頂上を目指した。
あのあとノーマンは少しおれにはぎこちなくてなんだか歯がゆい日々が続いた。
村まであと数時間ほどで着くだろうと言われた頃ナオトは偵察のために一足先にアヴィオンで村まで空をかけた。
いつも村の近くにあった結界はなくて、かわりに村の真上から見えた中を見ることのできないドーム状の結界が話されていた通りそこにあった。
ナオトは少し旋回しながらそれを観察して、しばらくして船の方へと戻ることにした。
船へと戻るとちょうど船上にフェルマンとリュシュがいてナオトは少し身構える。目があった途端、やっぱり睨まれてしまった。
「おかえりなさい、ナオトくん。どうでした?」
フェルマンがそういってにこやかに声をかけてくれるがリュシュはナオトを睨みつけるとフェルマンから離れてどこかへ行こうとしてしまう。
船上にふわりと飛び降りると脇を通り過ぎて去っていくその背中をナオトは見送る。
「やっぱりおれ……なんかやっちゃったのかな。」
ナオトが肩を落とすとフェルマンがぽんぽんとその肩を叩いて言った。
「あの子にもいろいろありますから。……いつか機会があれば話をしてあげてください。」
「してくれるかな……」
「大丈夫、今は少し時間が必要なんですよ。それより殿下と何かありましたか?」
そう言われ、ナオトの表情が少し曇る。
「……ちょっとだけ。……ノーマンが怖いもの全部おれが振り払えればいいのに……。」
「……そうですね、おそらく殿下が恐れるものはあなたしか振りはらえないでしょう。だからナオトくんはなにがあっても殿下のそばにいなくては。」
フェルマンはにこやかにそう言ってくれる。
「……ありがとう、フェルマンさん。」
ナオトは少し苦笑してそういうと遠く空を眺める。
「村の方、見てきたよ。聞いていた通り村の中は見えなかった。……けどあれはレムがやった結界だ。それだけはわかる。」
フェルマンもナオトの見る遠くの空を見つめる。
「あとどれくらいで着きそうでしょうか?」
「たぶん今日の昼過ぎには。ヴィクセンさんにも知らせてくるよ。」
ナオトはそう言って船の操舵室へと向かっていった。
「あなたはそんなところで何してるんですか?」
ナオトのその背中を見送って少しして、フェルマンが穏やかに笑ってそういった先には物陰に隠れるノーマンがいた。
「……いや、べつに。」
「殿下らしくないですね、言いたいことはちゃんと伝えるべきでは?」
フェルマンはそういって少しため息をつく。
「いや……伝えるもなにも……この微妙な空気感をつくった俺が悪い。……ただどう言えばいいかわからなくてな。」
ノーマンは重くため息をついてフェルマンの隣にならぶと柵にもたれかかる。
「……まぁ、私が言えることはそう多くはないですし、最終的にあなたに従うしかできませんが、殿下の心が苦しくない選択をするべきだと思いますよ。」
フェルマンはそういってノーマンに少し頭を下げるとその場から去っていった。
「俺の心か……」
それはナオトに再会するまですべて二の次にしてきたもののはずで。
ナオトに再会してからはその蔑ろにしてきたそれらをまるであとから後生大事に抱えてナオトが持ってきてくれたのにその扱いに困ってしまってナオトの表情を曇らせた。
今、俺はどうあるべきだろうか。
――――――――――――――――――――――――
それから数時間かけて予定通り昼過ぎには村近くの崖に船をよせて上陸することができた。
「ここからは2班にわける。ひとつは俺と共に村の方へ、もうひとつは周辺の警戒と船の警護にあたってくれ。」
ノーマンのその命令に隊員たちが背筋を伸ばして返事をする。
「フェルマン、もう1つの班の指揮をまかせる。」
「了解しました。」
フェルマンは一言そう返事をすると早速部隊編成の指示をだしはじめた。
「ナオト。」
村の方角にちらりと見える結界を見つめるナオトにノーマンは話しかける。
ふとその手をみれば少し震えていた。
ノーマンはそれを見留てナオトのその手を握る。
「ナオト、大丈夫だ。」
「……うん。」
暗く陰る表情をうつむかせてナオトはそういう。
ノーマンはそれをどうすることもできずにナオトの手をひいて村の方へと歩き始めた。
「行こう。」
0
お気に入りに追加
179
あなたにおすすめの小説

初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です
新川はじめ
BL
国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。
フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。
生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

いつかコントローラーを投げ出して
せんぷう
BL
オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。
世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。
バランサー。
アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。
これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。
裏社会のトップにして最強のアルファ攻め
×
最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け
※オメガバース特殊設定、追加性別有り
.
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる