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2章 広がる世界
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しおりを挟むその日の夜、ナオトとノーマンはヴィクセンと話していた通り、ヴィクセンの船室へとやってきていた。
「まぁ、とりあえず適当に座ってくれ。」
その部屋は飛行艇の部屋なのですごく大きいわけではないがヴィクセンの机と思しきそれは書類やいろんなもので埋められているのにたいして壁際の棚にはズラリと酒瓶が綺麗にならべられレイアウトされていた。ちょっとした小洒落たバーのようになっていてその棚の前には小さくとも壁に沿うように長めのテーブルがある。
「ヴィクセンさんの部屋すごいね。はじめてはいった。」
ナオトはその圧巻の酒瓶たちに目を輝かせる。
「夕飯食いながらちょっと飲むか?殿下はどうします?いつものにしますか?」
ノーマンは酒棚に夢中のナオトの手を引いて長テーブルの前まで行き、座らせるとノーマンも酒棚に目を凝らした。
「いつものって言うとあのウィスキーか。」
「これなんかどうです?殿下好みの辛口でちょっと不思議な面白い酒ですよ。」
「ほう。」
ヴィクセンは転落防止の柵を少しとって酒瓶をとるとゴトンとテーブルにおいた。
綺麗なガラスの小さなグラスを出すとそこに酒を注いでいく。
「ナオト、ここに魔力ちょっと注いでくれないか?」
「え?このお酒に?」
「おう、おもしれーからちょっとやってみ。」
ヴィクセンは笑いながらそういってナオトに促した。
その様子にナオトも少し興味をもってそこに少量の魔力を注ぐ。
するとその酒がグラスの中でぐるぐるとひとりでに渦巻きはじめて、やがてそれはピタッと止まって一瞬青い閃光をはなって弾けた。
「すごーーい!なにこれ!?」
ナオトはその不思議なお酒に釘づけで今はもうなにも反応しなくなってしまったその透明なグラスの中の酒をながめていた。
「酒はこんな閃光を飛び散らせるような代物だったか?」
ノーマンも驚きながらナオトと一緒にグラスの中身を眺める。
「いや、俺も原理はよくわからないんですがね。面白いでしょう?」
「おまえ……一応一国の王子に得体の知れないもの飲ませようとするなよ。」
ノーマンは苦笑しながらもその小さなグラスを一口飲んでみた。
「確かに辛口で意外といけるな。」
「でしょう?ナオト、おまえはこっちな。」
そういってヴィクセンが出したのは炭酸のきいたオレンジジュースだった。
「美味しいけど……おれはジュースなの?」
一口飲んでナオトは少し不服そうにそういう。
「まぁ、今から大事な話するからさ。とりあえずそれで。」
「で?ヴィクセン。こんな改まって場を設けるくらいだからそれなりの情報は掴んだということなんだろ?」
ノーマンはそう聞きながら空のグラスを机においた。
ちょうどよくそのときに部屋のドアがノックされ船員の一人が3人分の夕食を運び込んでくれる。
「すまねぇな、手間かけて。」
ヴィクセンはそういって船員に声をかけた。
「いいえ、お気になさらず。」
その人はにこやかにそう言って夕食を運び込むと部屋からでていった。
「とりあえず難しい話は飯のあとにしようか。」
ヴィクセンはそういって笑うと二人に夕食をすすめた。
「といっても王宮のメシほどうまかねぇとは思うがな。」
そういわれナオトが早速一口食べて見る。今日は野菜の豊富なスープにソーセージ数本にパンがついていた。
「そんなことないよ。美味しい。」
ナオトは笑ってそういうとまた一口食べて飲み込んだ。
「俺もいただこう。」
「おう。」
1日目の夕食はそうやって和やかに始まった。
夕食を食べ終わってしばらく、ヴィクセンが部屋の隅にある引き出しから布に包まれたなにかを出してナオトの前に置いた。
「まずはおまえにこれを。」
そう言われてナオトはその布包みを開ける。
そこにあったのはほんの30センチほどの白銀色のなにかの欠片。
それを見たナオトの瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
「すまん……これしか見つけることはできなかった。」
それはよく見ればナオトの持つパイオネットによく似ていてノーマンにもそのカケラが元々誰のものだったのか直ぐにわかった。
ナオトはそのカケラに触れて首を振る。
「ありがとう。……ヴィクセンさん。」
ヴィクセンは泣き腫らしてそういうナオトの頭を撫でる。
「遅くなって…すまんな。」
ノーマンがナオトの肩を引き寄せて優しくその背をさする。
「今日はもう部屋に行くか?話は明日でもいい。」
そう聞けばナオトは首を振った。
「…ううん、聞かせて。おれに関わる大事なことなんでしょ?」
濡れた空色の瞳がヴィクセンを見つめる。
それを見てヴィクセンは苦笑した。
「お前は変わらないな…」
そう言って少し水で濡らした手拭いでナオトの目元を拭ってくれた。
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