君と巡る運命の中で生きていく。

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2章 広がる世界

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 窓を開けてノーマンはバルコニーにでる。
「ナオト、本当に大丈夫なんだな?」
「大丈夫大丈夫。」
ノーマンはにこにこ笑うナオトとはうってかわって内心ヒヤヒヤだった。
バルコニーの下を覗く。確実に落ちたら死ぬ高さだ。とりあえず柵を乗り越えて飛び降りる準備もするが流石にためらう。
「もう、話が進まないからサッサッとすませて頂戴。」
そんなノーマンの背中をソフィアが容赦なく押した。
「なっ!!……おまえなあああああ!!!」
そんな謎なノーマンの絶叫がバルコニーの下に消えていった。
「ソフィア、それはちょっとさすがに私はどうかと思いますよ……」
ハロルドはソフィアにそう言いながらバルコニーの下を見ると不思議なことにノーマンは無傷で地面に立っていた。
「ね?大丈夫でしょ?」
ナオトもひょいとバルコニーの柵を飛び越えてノーマンの元へふわりと降り立った。
「ナオト……」
ノーマンがガシッと隣のナオトの肩を掴んで詰め寄る。
「ナオト、性能はわかった!……わかったがもうちょっと穏便な方法はなかったのか……」
「ごめんごめん、これノーマンの命が脅かされたときにしか発動しないようにしたから。」
「ということは鍛錬とかでのかすり傷程度では発動しないということか?」
とりあえず取り乱したノーマンはナオトの言葉で少し冷静になる。
「そういうこと。さすがに些細なことでノーマンの周りに防御障壁でちゃったら不便でしょ?」
ナオトはノーマンに手を差し出してその手を取ると重力などなくしたように2人の体は浮き上がり、ノーマンの部屋のバルコニーまで戻ってきた。
「龍族の造る魔導具はこんな感じで造るんだ。それじゃあノーマンのもう片方のピアスにも組み込むね。」
ナオトはそういってどこか楽しそうに部屋に戻り、机に座るとまた先程と同じようにディスプレイに向き合った。そしてまた同じような工程をふんで少ししてノーマンのもう片方のピアスにも術式が組み込まれた。
「こっちは異物混入除去。毒とかを無効にしてくれるけど、基本的にノーマンの身体に悪いものを除去するものだからアルコール類も消しちゃうからね。」
ナオトはそう言いながら出来上がったピアスをノーマンの空いた片耳につけた。
「なるほど、これで俺は早々簡単には死なないわけだ。」
ノーマンはつけられたピアスに触れながら笑った。
「守るって約束したでしょ?」
「そうだな、有り難く使わせてもらう。」
二人で少し笑い合うとナオトはまたディスプレイに向き直る。
「で、もう一個の魔導具なんだけどこれは部屋全体に効果を付与したいからちょっと時間かかるんだ。」
「わかった。じゃあ、頼むよ。ナオト。」
ノーマンはそう言ってナオトの頭をなでるとナオトもうれしそうに笑った。

――――――――――――――――――――――

 そこから2日、ナオトは不眠不休でそのキーボードを指先で叩きながら術式を作っていた。ご飯を用意しても一向に食べないので朝と夜はノーマンが口まで運び、昼はソフィアが運びと、まるで雛鳥に餌を与える如くナオトにご飯を給餌する日々が続いた。
「できたぁーーー!!」
ナオトは2日目の夜にそういって大きく伸びをした。
「ナオト、大丈夫か?」
「うん、大丈夫大丈夫。」
そういう目元には少しクマができている。
ナオトは作った大きめの空の瞳2つにその術式を組み込むとノーマンの寝室に入り、ふわりと身体を天井まで浮かせて片方の空の瞳を天井の中心に押し付けた。それはピアスのときと同じように結合部が淡く光だし、ゆっくりと天井に吸い込まれていく。もう片方も同じようにして天井に消えていくのを確認するとナオトはノーマンの近くに降り立った。
「これでこの寝室を中心にノーマンのプライベートルーム全域に入った侵入者は勝手に気絶して勝手に拘束されるから。搬送だけはちょっと誰かやってもらわないとだけど紐ひっぱるだけでついてくるよ。」
「そ、そうか……ありがとう、ナオト。」
するとナオトはおもむろにノーマンに抱きつく。
「ナオト?」
ノーマンのその呼びかけには応えずかわりに安らかな寝息が聞こえた。
「そんなに無理することないんだがな……」
ノーマンは苦笑しながらナオトを抱き上げるとベットへと向かい、ナオトを寝かせた。
「おやすみ、ナオト。」
ノーマンはナオトの頭をなでると布団を被せて少し寝顔を眺めたあと、寝室を後にした。

―――――――――――――――――――――――

 いつものように王宮の執務室で仕事をしていると部屋のドアがノックされた。
「はい、……兄上ですか。……どうしました?」
返事をすると入ってきたのはえらく笑顔なルシアスとその側近のレイチェル・シュスラだった。
「いや、ちょっと話をしようと思ってね。」
ルシアスはそう言って微笑みながら執務室にあるソファに腰掛ける。ルシアスがそう言ってやってきてただで済んだ覚えがないのでノーマンは少し警戒した。
すかさずハロルドがいつの間にか用意していた紅茶をすすめた。
「なんの用ですか?俺は遠征するために今手持ちの仕事の消化に忙しいんですが……暇ならこれもおしつけていいですか?」
ノーマンはカリカリと書類にサインや書き込みをしながらルシアスに言い放つ。
「いや?なんだか噂によるとノーマンの部屋が面白いことになってるって聞いてね。」
「……耳が早いですね。さすが地獄耳。」
「褒め言葉として受け取っとくよ。」
ルシアスは出された紅茶を飲みながらにこやかにそう言う。
「部屋にネズミが入ってきても勝手に撃退してくれるんだろう?
「あー、それは確かに便利ですけどなれるまではなかなかショッキングですよ、あれ。」
「まぁ、なんでもいいや。それ、私のところにもつけてほしいんだけど。」
ルシアスがそういうのをノーマンは少しため息をついて手を止めると椅子にもたれかかった。
「今私の手持ちの仕事を引き受けてなお且つ村に行って帰ってきたあとなら。」
「それじゃあ遅いな。村に行く前にほしいんだ。その仕事もこっちで持ってあげるからさ。」
ルシアスはそう言って微笑む。どうやらこれは譲らないようだ。
「……ナオトに相談してみます。今二徹でぶっ倒れて爆睡中なんですよ。彼が嫌がったらこの話はなしで。」
「へぇ、なるほど。わかった。じゃあ、彼に聞いておいてくれ。」
ルシアスはそう言って立ち上がると早々に部屋を出ていった。
その日のうちにルシアスからナオト宛に大量の甘いお菓子やよくわからない宝石類が届き、ノーマンがため息を付きながら説明すると快くナオトは快諾してルシアスにも同じような魔導具を渡した。一度作っているので次はたいして時間もかからず完成し、次の日にはルシアスの元へと届けられた。
結局龍族の村へ行けるようになったのはその日から3日後になってからだった。
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