君と巡る運命の中で生きていく。

clavis

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2章 広がる世界

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 強い風が頬を掠める。分厚い空気の中を進んでいく。しばらくそうしているとふと急にすべてが穏やかになった。目の前には雲海と少し夕暮れ色に染まりだした西空が前に座るナオトの横顔を照らしていた。はじめてナオトを空の上で見たあの日を思い出す。少し振り返って無邪気に笑いかけた幼い表情。今もまだ少し幼さを残しつつもその瞳は年相応に力強く、勇ましい。
変わっても、そのとても大事なところは変わらないままいてくれる。それがどうしようもなく、愛しいと思えた。
「ノーマン、あのね……」
ふとナオトは言葉を紡ぐ。その表情を少し歪めて。
「おれ、本当はすごく怖い。本当はレムの安否さえ知れれば後はどうだっていい。あの男のこともあの日のことも真実はなんだったのかなんて、本当は知るのが怖い。」
少しナオトのアヴィオンのスピードが速くなる。
「知ってしまったら……どうなるのかわからなくてすごく怖い。でもこのままじゃ、おれはきっとダメになってしまうから。」
ナオトの空色の瞳が揺れる。
「お兄さんに言ったこと後悔はしてないよ。……守られるばっかりじゃなくておれも戦うから。だから……」
ナオトは身体を反転させてアヴィオンに座り直すとノーマンに向き直る。
揺れる瞳で、むき出しの心のままで、まっすぐノーマンをみる。
「おれ、頑張るから。…だから…」
ノーマンはナオトのその言葉を遮ってその頬に触れてナオトの身体を抱き寄せた。
「君をこのままここに閉じ込めてしまえたらと、何度そう思っただろうな……」
ノーマンの腕がきつくナオトを抱きしめた。
「けれど君はあのレインさんが苦戦するほどの好奇心の持ち主でどこまでも自由でまっすぐだからこんなぬるま湯の世界なんかすぐに飛び立ってしまうのはわかってた。君には自由がよく似合う。」
ノーマンは少し身体を離して互いの額をあわせた。
お互いの瞳をまっすぐ見つめる。
「その恐怖も不安もすべて抱えていこう。俺もナオトの隣で同じものを一緒に抱えるから。……約束だ。これから先、なにがあっても俺はナオトのそばに必ずいる。」
ノーマンの綺麗な碧の瞳をのぞく。
まっすぐ澄んだその瞳が西陽に照らされてキラキラと輝いた。
「ありがとう、ノーマン。」
ナオトの瞳から透明な雫がこぼれ落ちる。
ノーマンはそれを拭って少し離れると、ポケットから小さな小包みを出した。
「まずはあの日の約束を。そしてまたこれからのために約束を交わそう。」
あの日に贈られたのは再会の約束の証としてノーマンの瞳の色と同じ片側のピアス。
ノーマンが開けた小包みの中からは同じ雫型のナオトと同じ瞳の色のピアスだった。
「あの日みたいだね。」
ナオトはその空色のピアスを片方受け取る。
「この約束は永遠だけどな。」
ノーマンは微笑んで自分の持つ片方をなにもつけていないナオトの片耳につけた。
ナオトもそれにならってノーマンの空いた片耳にそのピアスをつける。
ピアスをつけたナオトが少し首をふってピアスをわざと揺らした。
西陽に照らされてピアスがキラキラと揺れながら光る。
「ノーマンってすっごいロマンチックだよね。」
ナオトは微笑んでそういうとノーマンの胸に勢いよく飛び込んだ。
「うわっ!!」
そのまま二人は雲間を自由落下していく。
風をきる音が耳をかすめていく。
二人の横顔をオレンジ色の夕日が染めていく。
ふと、ナオトがノーマンの頬に触れてその鼻先を触れ合わせた。
落ちているのにそんなことも一瞬忘れるほど、美しいと思った。
ノーマンに優しくその唇を落とす。
「ノーマンの昨日の応え。ちょっとわかったよ。」
「じゃあ教えてくれないか?」
そう聞くとナオトは少し悪戯に微笑んで楽しげにいった。
「言わない!」
その一言にノーマンは目を瞬かせる。
「教えてくれるって言ったじゃないか。」
苦笑しながらノーマンはナオトに抗議するとナオトはガバッと抱きついていう。
「ノーマンが意地悪だから言わない!……けどおれから約束をあげる。」
「約束?」
「うん、……おれ絶対ノーマンを守るよ。これから先、なにがあってもずっと。」
ギュッとノーマンの背に腕を回してナオトはそういった。
ノーマンもそれに応えるように抱きしめるとナオトを腕の中に閉じ込めたままオレンジ色の空の中を二人で落ちていった。

―――――――――――――――――――――――

  
 二人で落ちて行ったあとまたアヴィオンに乗り直して、さっきのお兄さんとノーマンのやり取りの話になった。
「兄上はナオトを囮にツリをするつもりなんだよ。」
ノーマンの話を背中で聞きながらそういう。
「そもそもあの話を聞かれたくないなら最初から遮音魔術を使えばいい。なのにそれをしないであのタイミングで使った。」
その言葉にナオトは合点が言ってうなずいた。
「なるほど、その行動自体が餌なんだね。アヴィオン2機の話をしてあえて遮音魔術を使えばそれを覗き見てた誰かさんはやばいと思うわけだ。あの第1王子になにか勘付かれたのでは?みたいなところ?」
「それで実力行使にでてくればこっちのものだな。手っ取り早いといえばまぁそうなんだが。情報が向こうから歩いてきてくれるんだから。……が、やり方が気に食わない。覗き見されるの前提で話を進めるなよ……あの腹黒兄貴め。」
「じゃあお兄さんが言ってた心当たりが無くもないって言ってたのはブラフ?」
「いや、おそらくそれは本当だろう。それも含めて兄上はいろいろ立ち回るつもりなんだろうな。全く……腹黒いわりになかなか捨て身の作戦で困る。」
ノーマンは重くため息をついた。
「うーん……寝てるときに襲われたりとかしたらやだよなぁ。食事に毒仕込まれてもやだしなぁ。」
「なかなか察しがいいな。あとは訓練中の事故に見せかけてとかな、いろいろ手はあるぞ。」
ノーマンは不敵に笑ってそういった。
「やめてよ、物騒だなぁ。もう。」
ナオトはそう言いながらアヴィオンの高度を下げていく。遠くに王宮と宮殿が見え始めた。
「物騒なのはきらいか?」
「敵意のあるやつ蹴散らすなら好きだよ。」
ナオトも不敵に笑ってそういう。
「ノーマン、オレにちょっと考えがあるよ。」
ナオトは悪戯にそういってニヤリと笑った。
「ほう?」
ノーマンもつられて笑いながらナオトの龍族ならではのその作戦を聞いた。
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